AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 時に投げる疑問符(3)
征士と純との交代で当麻と伸が来た。征士は当麻に訊いてみる。
「もしかしたら、あの幻は仕組まれたかもしれないのではないか?」
「今気づいたのか?」
当麻はしたり顔で返す。どうやら早い段階で気づいたようである。伸は驚きの表情だ。
「え。じゃあ、あれは・・・」
「輝煌帝の力が使える人間がもう1人居るんだ」
K/J/0267号は月龍の力とパラレル世界の住人という特性を利用して見せていたのだという。彼らにとって脅威ともなる2つの世界の輝煌帝の所有者を分断させる必要があった。
「遼兄ちゃんがいるなら、輝煌帝はお兄ちゃんが使うんだよね」
「確かにそうだが、相手は輝煌帝の力を、しかも白と黒の2つを持っているんだ」
これでは遼の白い輝煌帝に加えて月龍の白黒の輝煌帝とK/J/0267号の白黒の輝煌帝で3対2である。
だが伸は疑問を口にした。
「何だ?」
「輝煌帝自体はこっちのは消滅したはずだよ。どうして遼を狙う必要があるんだろう」
遼を除外しても対等である。
「輝煌帝の力は単独でも体力や精神力を消耗する。月龍の場合、ムカラ同様にシャーマン的な要素があったから、使えると言っていたが・・・」
征士も訳が分からないという顔をする。月龍1人を消すツモリだったのだろうが、仮にこの時代で消しても遼が「平行世界の輝煌帝」を使えるかどうか。
「・・・二分されたとはいえ輝煌帝の力であるのは間違いないのです」
全員が振り向くと、遼に支えられた月龍が立っていた。支える遼は困惑顔だった。おそらく寝ていろといったのに無理やり起きたらしい。
「二分されていてもその質は変わりません。能力そのものは落ちますが、真田さんが白い輝煌帝を継ぐと、私が黒い輝煌帝でもある程度の自由が利くようになるでしょう。・・・挟み撃ちにされるのを恐れてだと思います」
竜樹の話では戦争時、挟み撃ちによる戦法が効くこともあったという。一騎当千のトルーパーと現実の戦争では違うが、不安の種は摘んでおくのが当然であろう。K/J/0267号はかなりの慎重さで、自分にとって不安の種となるようなものはひたすら摘み取る必要があった。最終的に「世界」の統合を目指していたが、それは月龍のお陰で失敗した。今度は怨恨の源となる金剛を狙うのは必須である。
当麻は遼に支えられた月龍を見て「情報の小出し」は如何なものかと思ったが、よく考えれば「未来」の来訪者でもある。平行世界とはいえ「未来」の情報を教えるわけにもいかないのだろう。自分が月龍でも、説明は慎重にせざるを得ない。
「寝てないと」
「大丈夫です」
伸に制止されるが、拒む。足はというと何故かひきずったかのような感じだ。伸の視線に気づいて月龍は答える。
「回復なら済ませてます」
精神的なものであろう。ひしゃげるほどのものだったのだ。相当のショックだったのが伺えた。征士はかつての自分の交通事故を思い出す。
「能力が変わらないというの・・・」
当麻が聞くよりも先に、月龍は竜樹に駆け寄った。当麻は開いた口を閉じると竜樹から征士に視線を移した。
「まだ目覚めない」
あれから半日である。外はすっかり明るくなっている。全員の酔いは一気に覚め、竜樹を見た。だが竜樹は身じろぎしない。
ため息をつく音が伝わってくる。月龍がおもむろに顔を上げると、周囲から光があふれた。リザレクションである。
「ちょ・・・」
何度もしたら倒れるのではないか。輝煌帝の力を知る伸は止めようとした。だが、遼が止めた。
「気が済むまでやらせてやってくれ」
輝煌帝の力については、彼が一番よく知っている。それでも止めないのはどうしてだろうか。
「俺はもう輝煌帝を使えないんだ」
使えるならとっくにやっている。竜樹が生きるためには彼女だけが希望なのだ。ふと征士は秀が居ないことに気づいた。
「秀は?」
「ナスティと話しているよ」
金剛の継承者について訊いている。
「金剛の?」
征士が竜樹を見る。月龍はベッドに寄りかかっていたのを遼に助け起こされていた。それでも耳ざとく訊いてきた。
「継承・・・?」
「ああ、丁度いい」
当麻は月龍を向かいのベッドに座らせると水滸と金剛の継承者と、烈火の継承者について尋ねた。月龍は意味が分からないと言ったが、続けての言葉に得心したようだ。
「水滸と金剛が冷泉志信で、烈火がレオンハルトだっていうのは知っているんだ」
確証は無いが、言葉をあえて選んだ。月龍が答える。レオンハルトは確かに烈火の継承者でいわゆる先代であるという言葉に、遼は「え」と言ったきりだった。思えば彼はワクチンの為に寝ていたのだ。この会話内容に参加していなかった。
「私たちの世界でのレオンハルトは・・・正式な名前は長いので通称レオンハルト=フォン=ロートリンゲンとしますが、彼は烈火の継承者で・・・私の夫です」
これには全員はあ然とした。伸と純は、天空の継承者の夫君が烈火の継承者であることに驚愕し、遼を見た。遼は2人の視線をマトモに受けてたじろぐ。
「羽柴さんのことは私たちのミスでした」
私たちの一族が羽柴家を断絶させようとしたのは、確かに私の息子が原因です。烈火と天空の継承者が生まれるからなのです。羽柴さんはオリジナルなので、放っておいても大丈夫だと思っていました。
「なんてことだ」
征士がつぶやく。純は目を丸くする。伸は彼がまだこの場に居たのを知って焦ったが、止むを得ないと諦めた。
次代の継承者が生まれるためにパラレル世界では羽柴家の断絶が行われた。金剛と水滸の継承者は、一族を警戒して継承しなかった。伸はともかく秀は居なかったが、そのため水滸の鎧は海の奥底に、金剛の鎧は一族の蔵に封印されたままとなった。当麻と伸は納得した。志信という人物が何故継がなかったのか、その理由が明らかになったのだ。
「2人とも鎧の持つ力と、一族の狙いを承知していました。だから、夫は一族への対抗として鎧を完全に一族から切り離していました」
「・・・・・・あれ?」
じゃあ、妖邪界はどうなった?
伸を見て月龍は答えた。
「2人が封印したそうです」
3つの継承者ということから、迦雄須ほどではないもののある程度もつことが出来るという。
「スケールがでかくなったな。俺らも」
秀がつぶやく。
アラゴとの対戦なら、自分達だけで済む問題だった。だが知らぬ場所では沢山の人が犠牲になっている。この瞬間にもだ。
「・・・鎧の因果は思ったより深いということです」
月龍はしばらく竜樹を見ていたが、遼がここは俺達が見ているから君は部屋に戻るよう言われ、一瞬反論するそぶりを見せたものの大人しく従った。月龍自身さきほどリザレクションをもう一度使ったので、休んでおく必要があったのだ。
当麻と伸が代わって見ていたが、竜樹は規則正しく息をするだけだった。
竜樹が起きたのはあれから2日目だった。
最初は月龍の言う「脳死」やら「麻痺」やらが危惧されたが、再生の力が虎人間の攻撃力を上回っていたようだ。再生の力というよりも治癒の力であろう。
「再生の力ってこれほどのものなのか」
征士は秀の一族が鎧の継承者を人工的に生み出そうとする気持ちが分からないでもなかったが、それでも静かに暮らしている人を捕まえては犠牲にするのだけはいただけなかった。それは秀も同意見だった。
竜樹は完全に回復したようで、食事にも精を出した。月龍はというと、食欲は無いようでメインとサラダしか食べられなかった。
「美味しいな〜」
伸の作った料理が不味いはずない。月龍はというと足を引きずるようなことはなくなっていた。
当麻は遼と一緒に周囲を警戒していた。神父がまた何かをするのかは知っていた。分断してまず月龍と竜樹を消滅させるという作戦が失敗した以上、次に何をしてくるのか。
だが相手も相当用心深いらしく、何もしてこなかった。
この2日はいろんな意味でめまぐるしかった。
遼は月龍と竜樹に言ってはいけないことを詫びた。自身、アフリカに無理やり連れ去られた経験もあったのにあのような発言をしたこと。2人は気にしていなかった。あの過去を見せられたら誰だって動揺するし、特に当麻や秀にどう言ったらいいのかも分からなかったという2人に、遼はそうかと言った。
「正直、何でだと思ったけどな」
昼食を済ませた竜樹はベッドで上半身を起こして、月龍と一緒に純から借りたトランプでババ抜きをしていた。月龍のお陰ですっかりいいようだが、ダルさがまだ残っているらしい。
「・・・私は最初はともかく何故あの時代なのだろうかとも思いましたが」
「・・・え」
遼は2人の言葉を一瞬理解できなかった。が、すぐに2人の言いたいことを理解した。2人が分断されたのが誰のせいかは当麻から聞いていたのだ。
確証は無いが迦雄須が時空を超えられる月龍を鎧に関わる時代に行かせ、超えられない竜樹を現代に送らせて秀へのメッセージを伝えたかったんじゃないかな。
「メッセージぃ?」
竜樹のそばで、月龍は迦雄須とのことを思い出した。時空間を渡る途中で、迦雄須から謝罪されたのだ。一族の為に羽柴家が絶え生き残りによって息子の命が危機に晒され、今後、次第によっては彼も又暗殺される可能性があるのだ。
遼からの言葉に、2人は渋い顔をした。
「そもそもメッセージって、何も別世界の俺じゃなくてもこの時代に居る俺にすればいいでしょーが」
そうなれば竜樹だけは現代で月龍を探していたのだが。
月龍は月龍である時空間を思い出したらしく「あの政宗さんの相手をするのって大変だったんだぞ・・・」と言っていた。もう少しマシな人物に会わせて欲しかった。
ちょうど当麻が入ってきたので、遼は2人の「口撃」から逃げられると思った。彼らは現時点で自分より年上なのでその分口も達者である。もっともレオンハルトや志信ならまた違っただろうが。
「どうした?」
遼が妙に安堵の表情を浮かべたので、当麻は眉をあげた。
「何でもない、何か用でも?」
「ああ、ちょっと2人に聞きたいことがあったんだ」
「何だ?」
「何ですか?」
当麻は冷泉志信という人物について聞いた。ナスティが秀に聞いてみたが、やはり会ったことも記憶にも無いという。上手く避けているのかとも思ったが。
「どんな人間かって言われても・・・」
「強いて言うなら、毛利さんに近いでしょうね」
月龍は何度も見えた従兄を思い出した。柔和さというものでは伸と似ているのではないか。
「そうか?あいつ、なんだか黒そうな気がしたぞ」
当麻のケースと違って志信と伸は似ても似つかないのではないか。竜樹は初めて会ったときのことを思い出していた。月龍は「?」だったが、当麻は苦笑していた。遼はあえて何も言わなかった。
「・・・オフレコにしとくよ」
あの伸が「この世界の竜樹」に嫌がらせをしないと思うが、念のためだ。
「私はクローンだから似ているのは当然だが・・・。やはり似ていると思いますが」
前半は竜樹に、後半は当麻と遼に言った。
「・・・秀には似ていないのか?」
「似てない」
「似てません」
毛利伸に比べて縁が近いはずの秀麗黄は2人にあっさりと否定されてしまった。遼は秀がこの場にいなくて良かったと思った。居たらしょげていただろう。
「むしろ竜樹のほうが性格的に似てますね」
月龍はカードを手におさめようとした竜樹を眺める。竜樹は一瞬止まって考えた。当麻は話が逸れてきたのを感じ、戻そうとした。
「こっちの世界にも居るんだが、何故彼らは遼たちに鎧を譲ったのか、君たちには理解できるのか?」
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