AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

交わる光と闇 時に投げる疑問符(2)

まさか、あの男が厄介なものを持ってくるとは思わなかった。
月龍は焦った。神父もどきも時間を越えるという離れ業ができるのは重々理解していたが、今までは研究所の「結果」が相手であった。時間を渡り続ける間、冥界に送り続けてきた。

眼前に立つのは、かつて古代に滅んだ生き物だった。

牙が禍々しいものに見えたが、れっきとした生き物である。おそらくそのまま連れてきたのであろう。
「ティラノサウルスなんて、よくもまあそんなモンをけしかけられるな」
竜樹が応戦するが、爬虫類と哺乳類の違いだ。攻撃もマトモに効かない。虎人間になってみたものの、サイズが桁違いである。
虎人間となった竜樹は月龍の2倍以上はあるが、ティラノサウルスは竜樹以上だった。その分なのか、攻撃力も竜樹を上回っていた。

-----遼の一言が原因ではないがこの世界において「存在してはならない者」であるという自覚はあったので、柳生邸を出るきっかけには充分だった。
幸いドル紙幣を月龍が財布に多めに入れていたので一旦カリフォルニアで宿を取る。クレジットカードはさすがに使えなかった。万が一のことを考えてオーストリアでドル紙幣に替えてよかったと、月龍は思った。部屋は節約をかねてツインベッドを取った。
支配人は2人を恋人だと思ってダブルにしていたが、月龍が「こいつは寝相が悪いからツインベッドにして下さい」と言ったために苦笑していた。竜樹は苦虫を噛み潰した表情でやり取りを聞いていた。
一休みした後、朝に空間転移でモハーヴェ砂漠に着くと、研究所はすでに廃墟と化していた。しかも「竜樹と月龍が着く直前」に。
誰がやったのかは予想がついていた。あの2人組である。研究員と思しき死体には裂かれたり半身がなくなっていたりと、どう見ても通常のヒトにできない殺人の痕跡が残っていた。おまけに血の匂いが充満しているのが分かった。もっとも竜樹は入る前から気づいていたが。
しばらく警戒しながら入っていくと、実験場と思しき広大な部屋でティラノサウルスと対峙する羽目になった。逃げるという手もあるが、あの神父のことだ、そのまま放置するのは目に見えていた。竜樹と月龍が逃げると自然、あのティラノサウルスも外に出てしまうだろう。モハーヴェ砂漠の中とはいえ竜樹たちの世界で見た、犠牲になったハイカーのような「通行人」もいるかもしれない。
かくして嫌でも付き合わざるを得なかった。

だがティラノサウルスは、どうやら神父によって輝煌帝の力を一部授かっていたらしく波動のようなものを使ってくる。
竜樹は月龍がいるので対抗手段の一つとしての音波を使えなかった。やむなく肉弾戦に追い込み、月龍が輝煌帝の力で攻撃と回復を使い分けていた。
その時、油断した。
竜樹は拳をそのままティラノサウルスの口に入れてしまった。ティラノサウルスはもがきながらも食らいつく。その力は肉食恐竜という異名のとおり、並ではなかった。歯が虎人間となった竜樹の腕に食い込み、血が幾筋も流れてきた。
「竜樹!」
月龍が詠唱する。竜樹はティラノサウルスが風の刃を受けてひるんだ隙をみて、両手で口を裂いた。口から割かれた恐竜の断末魔が響く。喉まで裂けた恐竜はそのまま倒れた。
「大丈夫か?」
竜樹が人形に戻り、月龍が回復の呪を唱えようとした時。
「これで少しはやりやすいかな」
月龍と竜樹は声の方向を見る。先ほどの出入り口を塞ぐように、WT−038号とK/J/0267号がいた。

説明をする月龍がヒューヒューと喉を鳴らせる。どうやら内臓を傷つけられたらしく口からも血があふれていた。残り少ないエネルギーを振り絞って回復させたらしいが、完全には回復していないようだった。余程のダメージであるのが伺えた。竜樹はというと、回復させたものの意識が戻らないという。虎人間から頭部に強いダメージを受けたらしい。
「あれは最初から罠だったんだ」
月龍は神父もどきから受けた輝煌帝の力で血が出ていた。刃系の呪力を受けたためだそうだ。征士が何気に月龍の左足を見るとひしゃげていた。天空の鎧を纏い損ねて、虎人間の一撃を受けたという。
秀のでかい声で真っ先にとび起きた伸が顔をしかめた。
「とっさに竜樹を連れて移転したんだけど」
落ち着き先がここしか思い浮かばなくて。
白炎が月龍にすりよる。
ホテルに戻っても追いかけてくるだろうし、何よりも彼らのことだ、見せしめに殺戮を行うこともある。となれば必然的に鎧戦士の居る場所に行くことになるわけだ。この世界で一番頼れるのは鎧戦士しかいないという話である。当麻はレオンハルトと志信を思い浮かべたが、彼らは当代の者ではない。彼女の判断は正しいだろう。
竜樹は片腕にサメにかまれたかのような跡をつけて血にまみれ、なぐられたという頭部は変わったところが無くダメージがどれくらいのものなのか分からなかった。
「処置は済ませたから、早く寝かせて」
秀と遼が竜樹を抱えて寝室に運ぶ。
「お前も大丈夫か」
当麻がひしゃげた左足を見て、抱えようとする。
「大丈夫、です。竜樹を助けるために、大分輝煌帝の力を使ってしまったから・・・」
寝てからだとエネルギーが回復するので、それで回復するという。かなり痛むらしく、白炎に寄りかかって立とうとするとそのままうめき声を上げて倒れた。そこを当麻が抱える。
「伸、ドアを開けてくれ」
伸は閉まりかけたドアを開けた。当麻がそのまま月龍を運ぶ。
ひとまずナスティが救急箱を開けて、月龍の体についた傷を見る。女性体なので、気絶した竜樹を寝かせたら全員外に出るようにと言った。

「ティラノサウルスねえ」
「・・・ドラゴン計画とは無関係だが、過去の生物を持ってくるとはな」
伸と征士が目を合わせる。遼は心なしかほっとしたような顔をしていた。当麻はなんとなくその表情の意味を理解できたので何も言わなかった。秀はというと竜樹を気にしてドアを何度も見た。
しばらくしてナスティが出てくると、自分が見張っているからあなた達は寝ててと言った。
「見張る?」
「話によれば竜樹が重傷らしいの。竜樹に万が一のことが起こった場合を考えて、息をしているかどうかを確認したいの」
「それなら、なにもナスティが1人でなくていいんじゃないか」
「俺達も見てるよ」
征士と秀が言うが、ナスティが「月龍が同じ部屋にいるのよ」と言ったので、当麻は彼女をナスティの部屋に運ぶことにした。ナスティの部屋に運ばれた月龍は眉をひそめたものの極度の疲労からか大人しく眠った。

この時、地球の反対側では、所用でモハーヴェ砂漠を経由して来たドライバーが「食品研究センター」の敷地内をうろつく「本物のティラノサウルス」を見たと、テレビ局に勤める友人のディレクターに興奮気味に説明していた。幸いなことにティラノサウルスはこのドライバーに気づいていなかったので、ドライバーは恐怖のあまりに一目散にロサンゼルスに逃げたという。が、ディレクターが企画にしようとしたとたんに上から圧力がかかり、研究センターは合衆国政府によって「衛生法違反」により閉鎖された。
ドライバーはといえば、最初こそティラノサウルスがモハーヴェ砂漠から出てくるのではないかと引越しの準備を考えていた。日にちが経つにつれ、さらにティラノサウルスがモハーヴェ砂漠から出てこないので、もしかしたら本物だと思っていたのは実は遊園地で見るような大きな恐竜型風船とかが風に吹かれて動いていたのを見間違えていたのではないかと思うようになっていった。閉鎖されたのは何か危険な実験をしていたからだという結論に至った。
10年以上後、遊びに来ていた竜樹がその食品研究センターの情報をチェックしていた時、伸は「喉元すぎれば熱さも忘れる」という言葉を思い出した。かつて自分達がアラゴと対峙した時、アラゴが引いた後の新宿の様子と似ていたのである。

全員で一晩中交代で竜樹を見るが、息はしているようなので死んでいるということはなさそうだった。
「息しているな」
ベッドサイドの椅子に座って、征士は手を竜樹の顔の前にかざして息を確認する。定期的に息をしているのが分かった。顔色は蒼かったが、月龍によればその場で「処置」を施したというから、大丈夫なようだ。
向かいのベッドに座って一緒に見ていた純も心配そうに見る。何人見送ったことだろうか。ナスティの祖父から始まって、身近な人の死を見続けてきた。だが、この眼前の男性は、今ひとつ実感が湧かないが、NYで寝ている親友の成長した姿なのだ。
「・・・死なないで欲しいな」
征士は純を見る。かつてのルナの死の責任は自分にある。ルナの兄たちも、鎧の犠牲になった。それが頭のどこかにこびりついていた。今回はパラレル世界の竜樹である。ここで死なれたら遼は苦悩の限りを尽くすだろう。
「死なんさ」
遼と秀の為にも死なせてたまるか。死神というのがいるのならば、光輪剣で切り倒してくれる。
征士は竜樹の枕元に死神が居るかのように睨みつけた。純はうなずくと、竜樹の横顔を見た。
「・・・どうして、砂漠の研究所に居たのかな」
「あの2人組か?」
純がうなずくので、征士は竜樹の顔を見た。
月龍は罠だったと言っていた。「最初から罠だった」と言っていたが。
「・・・最初?」
征士はふと思った。「どこから」が「最初」なのだ?
てっきり砂漠の研究所でティラノサウルスに襲われたことを言っているのかと思ったが。
あの2人のことだ。輝煌帝のことを考えるなら、ティラノサウルスとまでいかなくても過去のモノが出現することを予想していただろう。実際征士自身今まで相手にしたのは蛇女やドラゴンといった竜樹の過去の記憶の物だった。
まるで私たちを分断させるために幻を見せ、2人を砂漠の研究所におびき寄せたかのような気がする。月龍は当麻と向かい合った時一瞬具合が悪そうだったらしい。あのK/J/0267号の仕業で「月龍たちの世界の過去」を見せたとしたら。竜樹や月龍を、ひいては私たちを媒体にしていたとしたら。
征士は眉をひそめた。純は「?」を頭に浮かべた。
「お兄ちゃん?」
「・・・もしかしたら、とんでもない間違いをおかしたかも知れんな」
純は「え」と言った。征士の表情は青くなっていた。

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