AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
過ぎ去りし日々 ‐沈黙‐5
月龍は一家とイサ子が車に乗って去るのを見届けた後、時空間に飛んで神父もどきの気配を探った。時空間内では相変わらず「壁」が出来ているようであった。
月龍は彼の気配が烈火の鎧の元にあることを理解した。そこで、エネルギーのぶつかりを感じる。
神父もどきが烈火の鎧と対峙していたのだ。烈火の鎧の方が何百年もの間に何人もの命を吸い込んだ分強いらしく、苦戦しているようだった。
だが、神父もどきは最後に白い輝煌帝と黒い輝煌帝の「創造」と「破壊」のエネルギーをあわせた力を烈火にぶつけた。
「ビッグバン------」
眼前の画面いっぱいに白とも黒とも見分けがつかない色彩が広がり、月龍は目を閉じた。
目を閉じてもなお「光」は月龍の視界を照らしていた。
それが消えると、烈火の鎧は煙のようなものを出して崩れ落ちた。月龍は焦った。
烈火の鎧が消えると後の時代に影響が出る。アラゴはもとより、継承者も鎧が無いままとなる。
神父もどきが静かに烈火の鎧を眺めているのを見て、即座に時空間を抜けた。
「貴方ですか」
神父もどきはやや疲労していたようだったが、余裕はあるようだった。
「・・・・・・この歴史は動きません。おかげさまで」
神父もどきは月龍を見て、嘲るように言った。月龍は彼の次の言葉を聞いて、愕然とした。
貴方が諒一という少年を助けたお陰で夫妻も生き延び、烈火の継承者は歴史に埋もれることとなった。
「あの赤子、アラゴが出てくるまでは持ちません」
神父もどきは愉快そうに笑った。あの過酷な逃避行は後に赤子に影響を与え、後に何らかの形で死亡するという。諒一がもしかしたら赤子を落としてしまうかもしれない。母親のミスで何らかの事故が起きるかもしれない。
「あの赤子こそが継承者なのですが、貴方が逃避行をお膳立てしてくれたお陰で、こっちはあの屋敷の者達とこの烈火の鎧を消すだけで済みました」
月龍は衝撃を覚えた。
神父は続けた。
あのまま放っといていたら諒一は死に、母親は狂乱の中で赤子を産んですぐに亡くなるという結末だった。
残された父親は1年後に首の座った赤子を連れて実家を抜け、赤子はそのまま成長して迦雄須と邂逅を果たしていたという。
月龍はめまいを覚えた。神父のしたことの目的は結局鎧の無い世界だった。結果として一家全員が助かっただけなのである。
どうしても歴史を「修正」するのであれば、急ぎ夫妻を追いかけ諒一と春子を消さなければならない。
「させはしませんよ」
神父もどきは月龍の前に立ちはだかった。1人死ぬことで一家全員が助かるか、一人生かすために2人を死なせるか。
現代に近づいた時代、遼が狼人間にやられたときにも似たようなことがあったなと、秀は思った。遼を生かすために秀が竜樹の手で死ぬか、秀が生きるために毒に侵された遼と、平行世界に戻る手段を持たない竜樹を犠牲にするか。
「ついでに貴方にも消えていただきましょう」
月龍は封印を解くと天空の鎧を纏った。輝煌帝の力を使おうかと思ったが、コントローラーとも言える剛烈剣を渡してしまったのだ。まだ安全圏に無いらしく、腕輪は戻ってこなかった。
「剛烈剣を渡してしまいましたか」
それなれば心置きなく出来ますね。神父もどきはほくそえんだようだった。
月龍は黙っていた。迷っているのである。たとえ神父もどきを退けたとしても、この後どうするのか。戻って春子と諒一を殺すのか。
神父もどきは月龍の困惑を感じ取り、攻撃の手を緩めなかった。月龍は神父もどきの執拗な攻撃に耐え、隙を見ては翔破弓で真空破を撃つ。
神父もどきも、輝煌帝の力を使えない月龍に比べ優勢であるとはいえ、先ほどまで烈火の鎧を相手にしていたのだ。疲労が蓄積されているのは確かであった。
神父もどきは大阪で使った光の矢を月龍の頭上に落とす。月龍は飛んでかわしたが、一部が身に刺さった。そのまま転がる。
「そろそろフィナーレと行きましょうか」
神父もどきは転がった月龍をしっかりと捕らえ、渾身の力で今度は対極の力、黒い槍をたたき出そうとした。
その瞬間だった。
神父もどきは背後の気配を感じ、黒い槍を月龍ではなくそれにはねつけた。
彼の足元に転がったのは、烈火剣であった。背後の烈火の鎧が彼めがけて投げたのである。
「継承者はまだ赤子のはずだが」
神父もどきは烈火の鎧が動いているのを驚きの表情で見た。月龍もそれを見たが、烈火の鎧から浄化の気配を感じた。奇しくも神父もどきのもつ輝煌帝の力の一つ、「聖」の力が働いたためだったようだ。「薬」である。
月龍は主も居ないのに何故烈火の鎧がと思ったが、伝説初期において継承者に伝えるべくして命を捧げた者達が動かしてくれているのを悟った。悟らざるを得なかった。
声が聞こえたのである。
------歴史ヲ守レ。我ラハ、オ主ラ継グ者、紡グ者ヲ守ルタメニ生キタノダ。
同時に烈火の鎧が徐々に元の赤みを取り戻していたことに気づいた。
これで烈火は継承すべき人間の手に渡るときは完全に浄化されるであろう。
烈火の鎧が神父もどきと対峙し始めていることを理解すると、月龍は烈火の鎧とともに神父もどきを追い詰めた。神父もどきは先ほどの疲労の蓄積もあって徐々に劣勢となっていった。
そしてギリギリまで粘ったものの、結局時空間の中に消えた。
烈火剣をしまい座したポーズをとった主の居ない烈火を見て、月龍は腹を決めた。この世界の歴史の結果は後の時代が決めれば良い。月龍がしたことが結果として歴史の歯車を止めることとなったとしても、あの夫妻は恨むことをしないだろう。
月龍は烈火の鎧が珠に変わるのを見届けた。珠は時空間の彼方に消える。
月龍は時空間で壁を感じた。おそらく諒一と春子を消さない限り消えないのだろう。誰がやっているのかは知らないが、月龍は拒否した。
しばらくして、腕輪が月龍の腕に戻ってきた。一家が安全圏に入ったのだ。月龍はそう理解すると封印をかけてホーリーロッドで眼前の壁に狙いをつける。
神父もどきが使った「ビッグバン」である。
「光」が辺り一面に広がった後、月龍はそのまま時空間を渡り消えかけた道に入った。時空間の分かれ道であった。月龍が入った分かれ道は入り口が閉じられ、その時空間には永遠の沈黙が降りた。
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