AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
ゲームネタ・夏の詩人(サムライトルーパーピアノ組曲「鳥」より)
【注意:完全なゲームネタの為、予定の真田諒一を登場させています。小説版とは別枠としてお楽しみ閲覧下さい】
時空間では壁が取り除かれていた。そのまま渡ろうとした月龍を、諒一が手をひらひらさせて引き止める。
「なあ、ちーとのぞかね?」
伸くんがなんであんなところに鎧玉を置いたのかちょーっと気になるし。
諒一の言葉を聞いた月龍は一瞬「どうでもいい」と言おうかと思った。
水滸の継承者がどう考えていようと、自分達には関係ない。一刻も早く神父もどきの元に行かなければならないのだ。
が、諒一は頑として譲らない。
「伸くんがどんな気持ちで鎧玉を置いたのか気になるし。俺の弟に何かの影響が出るとまずいでしょ」
その通りだった。もし、彼が鎧戦士であることを放棄したら、残りの鎧戦士達がどうなることか。
月龍はそれはそれで歴史の流れの一つだからこれ以上干渉すべきではないと言おうとしたが、条件付で諒一の希望に従うことにした。
毛利伸が如何なる意思を持っていたとしてもそれは彼自身の出した結論であり、その意志を己の都合で曲げることはしないという条件である。
-----だが、ここで大人しく時空間を渡れば良かったと、後に2人は後悔することになった。
あまりの出来事に、2人は脱力する羽目になったのである。もちろん、後で毛利伸と出会ったからといっても、ちくちく嫌味を言うような二人ではなかった。月龍は年長者を敬うよう養父母から躾けられていたし、諒一は「鎧の歴史」において年長者らしくあえて黙って見守るだけであった。
それでも2人がツッコミをしたいという葛藤にさいなまれていたのを、毛利伸は知らなかった。
空間を抜けた先は、既に昼だった。
水滸の波動は相変わらずうろうろとしていた。あのシャチが伸に水滸の鎧玉を渡そうと、チャンスをうかがっているのだ。
「うーん、伸くん、波動を感じるまでのレベルでもなかったのか」
「仕方ないよ。私も天空を継いでしまったときは波動を感じていなかった。鎧ってのは結局精進が必要だってことね」
諒一は父親から聞かされた情報の断片を思い出していた。剣の道も1日で成るわけじゃない。
「クルーザーがあるね」
月龍は萩の青い海原を駆ける木の葉のような船を認めた。船の後ろには白い波が尾を引いている。
「ちょっくら降りてみるか」
諒一の言葉どおり、月龍はクルーザーに降りた。
クルーザーの運転席には諒一よりは上であろう男性が舵を取っていた。静かすぎるほど静かな波なので、左右に軽くハンドルを握るくらいであった。
彼は、傍らにいる少年---毛利伸になにやら話しかけていた。月龍は優しげな雰囲気の青年を見て、一瞬レオンハルトを思い出していた。
伸の傍でもう1人の少年---秀麗黄は2人の会話が耳に入らないような雰囲気で海を見ていた。
「ん?」
しばらく3人を見ていた諒一は目を丸くしていた。そして、傍で同じように見ていた月龍の目を塞ごうとして逆にホーリーロッドでしこたま殴られていた。
「何をする!」
「いや、女性はまじまじと男性の肌を見るべきじゃないって」
「・・・だぁほっ!私はとっくに子供を産んでいるんだ!!今更男の裸を見て照れることもないっ!」
2人の会話が聞こえたのか、1人残された秀は頭に?を浮かべた。
「?誰か居る・・・訳でもないか」
秀は1人ごちながらクルーザーをうろついた。落ち着きも無い。仕方ないのだ。アラゴは完全に去ったというわけでもない。連れ去られた人間が戻ってきても居ないのだ。純の家にも、親はまだ居ない。荷物を詰める純に、秀は弟妹を重ねた。
ここで伸が居なくなったら、輝煌帝すらも呼べなくなる。そう思うと、なんとしてでも伸を連れて戻らなければならない。
1人ひたすらぶつぶつ言う秀を見ながら、諒一は近くのベンチに座った。このクルーザーはどうやら中型クラスであろうか。運転席は天井は無かったが、風除けのカバーが前面についている。沖合いで軽く泳ぐためのものであろう。
「いや、それにしても、結婚って厄介なんだな」
諒一は両手をふちに置いてもたれかかった。月龍は水平線を見ながら歩く。
「そう?」
「君は違うのか?」
「いや、私は養兄がそのまま夫になったから・・・」
「へぇ」
月龍は一連を思い出した。
NGCの件から子をなすことは諦めていた。
子をなせばNGCや一族が何やかやと言ってくるのが目に見えたのである。そもそも月龍が年頃になれば一族の誰かと娶わせて天空の継承者を産ませるという計画だったのだ。月龍自身に子を為す意志が無ければ、月龍の一代で天空の家系は潰える。そうなれば羽柴家がそのまま続くことになるし、何より生まれた子がNGCに連れ去られるようなことも無い。
そこまで考え、母親を産褥で亡くした養甥の養育に勤めることにしたのだ。
だが、レオンハルトはそんな月龍を見て同情したのか、息子の「弟妹が欲しい」というおねだりに従って月龍を娶った。
お互いに愛情が無いわけではない。
月龍にとってレオンハルトは大切な人であった。
「結婚するというか、環境の問題です」
「環境?」
諒一は月龍が何やら塞ぎこんだのを見て、左手でふちを掴んで身を起こした。
そのときだった。
秀がベンチに座ったのである。
それはちょうど諒一の隣で、諒一は目を丸くして秀を見た。
「秀くん・・・」
月龍は何も言わなかったが、表情に「特に異状はないようだな」と書いてあった。
2人の客に何の反応も示さず、秀は伸と義兄の無事を願うばかりであった。
「どーしよ?」
諒一はそのままのポーズで右手を広げ、月龍に意見を求めた。月龍はため息をつくと、「どうしようもない」と言ってそのまま船の前部に回った。
哀れ、残された諒一は目を泳がせていた。
が、諒一はすぐに気を取り直し、仕方ないといわんばかりに座りなおした。
「ここでトランプ出来ないかな。秀くんと君とでババ抜き出来ると思うけど・・・」
暇つぶしの相手をしようということである。風に乗って諒一の言葉が耳に入った月龍はふちに両手を置いて、脱力しがちな身をやっと支えた。
萩の海はいつまでも青く、遠くから船影が見えていた。
身を支えながら月龍は船影をぼんやりと眺めていた。長いこと時間を渡りながら、歴史の修正をしてきた。その結果として毛利伸や秀麗黄が生まれ、アラゴを追い払うことが出来た。
これでいい。こっちの自分がどうなっているのか知りたいという思いが一瞬よぎったが、それでも羽柴当麻との確執はないことを思えばこれでいいのだと、自分を納得させた。
こっちの羽柴当麻は自分にまさか、クローンやら妹やらが居ることを知らない。否、自分そのものが存在しない世界かもしれない。この歴史こそが本来の歴史だったのだと思うと、月龍のしたことは無駄ではなかったのだと言い聞かせるように納得する。
同時に、自分のしていることが神々の所業を模していると思うと、ぞっとした。
ゲルマン系神話ではノルンという運命の女神が語られている。月龍はノルンになろうとしているわけでもない。出来れば輝煌帝そのものを破壊したい。
この世界の輝煌帝は真田遼が召喚しアラゴを追い払ったが、真田遼はその恐ろしさを知らない。 -----もちろん、彼がその恐ろしさを知るのは、これより2年と少し後の話である。
二つの輝煌帝を破壊させた遼と、いまだにその身に保有し続ける月龍との違いは、男と女だからであろうか。
物思いに耽っていた月龍は、水平線を進む船が斜めになっているのを見た。最初は波のせいで上下に揺れていると思った。
それは間違いであったことに月龍はすぐに気づいた。黒いものがその船からやってきているのが見えたのだ。座礁したのだろうか。
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