AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午前3時5分 in 新宿-秀サイド-

病院は健康診断とかでしかお世話にならない。
大病はあまりした事がない。

全員はそう思いながら、それでもゆっくりと歩いた。白炎が遼を気遣って唸る。先ほどの神父もどきがまたもいきなり現れるという可能性が捨て切れなかったのだ。まして相手は時間と空間を操るという。これまで以上に難敵であるのは明らかだった。
廊下には何故かネームプレートではなくガラス窓があり、学校の実験室を思わせた。
部屋には外につながる窓があるが、暗くて外に何があるのかわからなかった。
今は2時を過ぎているので(正確にはどれくらい時間がたっているのかもわからないが)、仮に明るかったとしても果たして窓の外には「風景」があるのであろうか?
この建物が妖邪門とつなげられている以上、この窓から都庁方面へ抜けることも出来なさそうだった。

当麻は廊下から窓越しに中を見た。中は灯りがついている。左右に視線を動かすと、いろんな器具がテーブルの上に置かれていたのが見えた。中には当麻にとってなじみのある器具も見えた。教養課程として取った科学の授業で見たものである。
「俺の通っている大学の実験室ってこんなんだな」
当麻の独り言を聞いた秀が聞く。神父もどきや狼人間のような存在が出てこないとなると、幾分か気楽になったのだ。
「当麻のうけている講義って何だ?実験とかするのか?」
「まあな。例えばあの向こうの機材があるだろ?」
当麻が窓ガラスに近寄って、秀と遼に振り返って機材を示そうとした瞬間だった。白炎がガラス窓に向かって唸った。それを見た当麻は「?」を頭上に浮かべたが、白炎が唸った理由を察知したのは遼だった。
窓ガラスに影が映る。その影は大きなヤモリのようだった。
遼はとっさに当麻を呼んだ。
「危ない!」
同時にガラスが割れる。

鎧ギアをつけていたので傷はさほどでもなかったが、あまりの出来事に全員はただ驚いただけだった。そして窓ガラスを割って廊下に降り立った「存在」を見て、全員は息を飲んだ。白炎もその様を見て、恐怖からなのかおぞましさからなのか後ずさりしていた。
ヤモリだと思っていたのは、人にも見えた。
「なんというか、人間が這っているのがこうなるのかな」
当麻は竜樹の話を思い出しながら言った。
「ていうか、あれ、人間か?」
「どうもヤモリっぽいような感じだな」
遼は山にある実家の周囲に生息するヤモリを思い出した。目の前のモノは手の形といい、背中の模様といい、確かに散々見ていたヤモリだ。だが、サイズや頭部が明らかに異なる。頭部は人間のもので、短いが髪が無造作に伸びている。サイズも、先ほど当麻が立っていたときにへばりついていたところを思い出したが、当麻よりはやや小さい感じだった。
そのヤモリはシューシューと蛇のような声を出して、威嚇していた。口から見えた舌は人間のものではなく蛇のものだった。
「カンベンしてくれ・・・」
秀が言った。
このヤモリも竜樹と同じNGCとやらの実験体なのかと思うと、うんざりだった。
ヤモリは威嚇しながら3人を見比べていた。そして、遼をターゲッティングしたようだった。
遼は背中の傷の痛みがぶり返したらしく、わずかに構えがぶれた。やはり本調子ではないのだ。
そこをヤモリは見抜いたのだ。
傍の壁にジャンプして張り付くと、一気に遼に近づいた。そこを秀が金剛杖で払う。ヤモリはそれを避けて天井に上がった。逆さまになった形で遼の頭上に行こうとしている。
今度は当麻が翔破弓で狙いをつけて遠ざける。
ヤモリは一番弱っている獲物に近づけなくて不満そうに鳴いた。ヒトのモノではない鳴き声がまた耳障りだった。秀は顔をしかめて二人に尋ねる。
「なあ。誰があれに止めを刺すんだ」
先ほどのゾンビは死んでいると竜樹は言った。だから「ゾンビ」なわけだが。
だが、あれは生命力にあふれている。弱った獲物で腹を満たそうという意思が伝わってくる。明らかに生きていた。が、鎧の力で止めを刺すには気が引けた。当麻は思わず秀に押し付けてしまった。つい言葉が出てしまう。
「知るか。お前にまかせるぞ。遼、出来るか?」
智将らしからぬ言葉に、秀は眉をひそめた。
「大丈夫だ・・・」
「くそっ」
二人のやり取りを見て、秀は悪態をついた。
出来れば消滅して欲しい。そう思い、襲ってきたヤモリに大地のエネルギーをぶつけた。
「岩っ鉄っ砕!」
ヤモリは大地のエネルギーをもろに受けて悲鳴を上げながら倒れた。
秀は顔をしかめて「頼む、一発で成仏してくれ」と片手を挙げて拝む。ヤモリは秀の願いを聞き届けたかのように消滅していった。それを見て安堵する。
「消えた・・・」
「すまん。おれがふがいないばかりに」
遼がすまなそうに言う。白炎は遼の手をなめる。遼は笑顔で大丈夫だと白炎の頭を軽くなでた。
「仕方ないぜ。竜樹の力では痛みまでは消せないって言っていたしな」
「あいつ、そういえば転移装置の護符を作った人間のことを言っていたな。合流したら聞いてみよう」
当麻は脳裏に竜樹を浮かべた。そもそも護符を作るほどの人間って、どういう人物なのだろうか?
遼と秀もそれに賛同した。秀、遼、当麻、白炎の順で廊下を警戒しながら歩く。

ゆっくりと遼を庇いながら壁沿いに廊下を歩いたが、ヤモリのような半人半獣の類は出てこなかった。しばらく行くと「Security Room」というプレートを見つけた。
そこには窓がなく、ドアだけだった。ドアをゆっくり開ける。中は広いが外部に出るような窓はなく、防犯カメラに緑色のフィルターがかかっているらしいモニターと椅子数脚があるだけでヤモリのようなものが隠れられるような場所は無かった。あくまでも監視するという部屋だった。テーブルがあるが、おそらく荷物を置いたり弁当を頂いたりするというものだろう。コップの跡がコーヒーなのか茶色い輪で作られていた。
3人はそこで一旦休憩することにした。鎧ギアからアンダーギアに変える。
「遼、座ってろ」
「ああ」
秀は椅子を壁際に寄せて、座らせた。ドアからの侵入者を遠ざけるためだ。遼は安堵してもたれかかる。白炎は遼の足元でうずくまり、顔を遼に向けた。
当麻はモニターを見る。
「やれやれ。変なのがうろついているぞ」
モニターは動いているらしく、各部屋の様子が映し出されていた。無人の部屋もあれば、先ほどのヤモリのような変な物が部屋中を回っているのが見えた。
秀は壁一面のモニターをぐるっと見る。
「竜樹たち、入っているのかな?」
「いや、いなさそうだ」
「あいつら、妖邪門から入ってきて居ないのかな?」
「だろうが、神父が空間を操るという点からもしかしたら別の空間に放り込まれている可能性はあるな」
当麻はパネルをいじってみた。パネルは英語だらけだったが、読めるので目当てのボタンを選んだ。モニターの一部が一気にズームになる。
選んだのは廊下のモニターだ。出入り口と思しき場所に設置されたカメラを選ぶ。竜樹たちが入ってきた痕跡を探したかったが、結局見つからなかった。
「ダメだな」
ここが妖邪門とつながっている以上行くべきだろうが、こんなことになるなら最初から合図を決めとけばよかった。
当麻はため息をつきながらパネルで先ほどの駐車場のカメラを選んでみた。
一旦出たほうがいいかもしれない。
そう思って作戦を立ててみる。
「当麻。あの入り口、誰かが入ってくるぜ」
秀の声に当麻は我に返った。
先ほど当麻たちが入ってきた場所に誰かが入ってくるのが、モニターに映し出される。それは先ほど別れたナスティと純、そして長く伸びた前髪で見えなかったが長身の人物だった。見に纏っているのは色は分からないが、鎧のようだった。
「誰だ、あの男」
秀は一瞬神父もどきが武者に化けてナスティと純を人質にしたかと思ったが、違った。
秀は男だと断定したが、当麻には女性のようにも見えた。
パネルの向こうの2人は、長身の人物に何事かたずねていた。人質になっている様子はなく、むしろ相手は2人の質問に答えていた。その様はかつての朱天を彷彿させてくれたが、朱天はすでに故人となっていることを思い出した。
ナスティと純の様子から判断するに敵でもなさそうだったが、味方だという保障も無かった。が、一つの可能性を見出した。竜樹が言った「護符を作った人間」のことである。
竜樹によれば一緒にいた人物も一緒に飛ばされているという。もしかしたらパネルの向こうの武者は一緒に飛ばされた竜樹の知り合いかもしれない。もしかしたらやっと合流したのだろうか。服装が鎧であるのが気になったが。
ナスティと純と一緒にいる武者が何者か知らないが、このままいくと先ほどのヤモリの仲間がまた来るかもしれない。
そう判断した当麻はパネルを押して、備え付けのマイクを取った。

午前2時51分 in 相模湖手前-ナスティ&純サイド- 大地の深淵から