AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午前2時37分 in 新宿-竜樹サイド-

あれ?
竜樹はふと周囲を見回した。
征士と伸しか居ない。

秀と当麻と遼が見えなくなったのだ。

「これ・・・」
「前にも似たようなことがあったな」
「前にも?」
妖邪の作戦のお陰で分断され苦戦をしいられたと伸は言う。
「はぁー・・・苦労したんだな」
苦労・・・。
二人は顔を見合わせた。竜樹にかかるとまるで軽いように思われてしまう。
だが、仕方ない話である。鎧の関係者とはいえ、竜樹と彼ら二人では相手にしてきたものが異なる。
自分たちが常に対峙してきたのは「鎧の力そのもの」であり、竜樹については鎧の力を欲する「現代の人間」を相手にしてきた。だから『妖邪』に対していまいちピンと来ていないではないかと征士は思った。純は目の前で『妖邪』の存在を見てきたのだから私たちと同じ価値観を持っているだろうが、彼にしてみれば『妖邪』は御伽噺の中の存在にしか思えないのだろう。
「とりあえず、元の場所に戻ろうか」
伸がいう。あの3人だといろんな意味で大丈夫なのかと思うと、胃がきしむ気がしたのだ。征士はともかく竜樹は伸と3人の性格を把握していないので、彼の表情の意味が読み取れなかった。
「遼の傷のこともあるしな」
そう言って全員は元の場所に戻ろうとした。が、出来なかった。
都庁は確かに見えるが、その手前に日本風の門が高くそびえているのが見えた。
何やら親戚の家の門に似ている。
竜樹はその門に近づくと、まじまじと眺めた。
「これ、俺の親戚の家のに似てるなー。なあ、征士。これ、なんてんだ?」
征士を振り返ると、彼はあ然とした表情で門を見ていた。その隣では伸もあ然としていた。
「ど、どした?」
「・・・・・・あらごじょう」
「は?あらご?」
「これは、かつて私たちが戦ったアラゴという妖邪帝王の城の一部だ。この先には妖邪界につながっているはずだが・・・」
「え?」
竜樹は妖邪門の向こうの世界が彼らにとって「懐かしくない」場所であるとしか判断できなかった。というのも、伸が眉をひそめたからであった。
「何でアラゴ城があるの?アラゴは消滅したはずでしょ?」
竜樹は二人のただならぬ態度に面食らっていた。どうやらアラゴ城は彼らにとって忘れられない「思い出」らしい。

塀の両脇は向こうが透けて見えたが、竜樹は従兄のように入って確認しようともしなかった。後に竜樹は、秀と合流した時にぽつりと「向こうが透けて見える部分だけど、あれって引っかかる方がマヌケだよな」とつぶやくと、秀に「お前はもう俺の従弟じゃねぇっ」と何故か半泣きで言われたものである。

征士と伸はどうしたものかと迷っていた。
すずなぎ事件すらも過去となりかけていた彼らにとって、妖邪界はすでに「過去の世界」だったのである。
それが、何故もう一度出てくるのか。
わずかに残った「邪悪」が、再び支配を始めたというのだろうか。
が、彼らの困惑を消したのは竜樹であった。
「うーん。さっきから妖邪っていうけど、そんなの感じないよ」
竜樹は伸と征士の話に耳を傾けていたが、妖邪門の向こうから伝わってくるのは「妖邪」という「竜樹にとって未知の気配」ではない。むしろかつて感じ慣れた彼らの気配だけである。
伸と征士は妖邪こそが彼らの敵だったので、先ほどのゾンビのような気配は度外視していた。が、確かに良く探れば先ほどの成れの果てのような気配を感じることはあっても肝心の妖邪の気配は感じられなかった。
征士は眉間にしわを寄せた。
「価値観の相違とかそういうのだろうか?」
が、竜樹は否定した。価値観などではなく、経験の違いであると指摘した。
「違うと思う。多分。俺達とあんた達じゃ、相手が異なっていたからじゃないかな」
俺達は『人』を相手にしてきたが、征士たちは『妖邪』が相手だったのである。
「あ、そうか、ひょっとして固まってないか?」
「どういう意味?」
石頭扱いされたと思ったのか伸は眉をひそめた。だが、竜樹は別の意味で言った。
「この『妖邪門』イコール『敵は妖邪』って考えていないかってこと」
このFBI捜査官の科白に、征士は頭のどこかで納得してしまった。
「かもしれんな。出てくるのが『妖邪』とは限らない」
「征士?」
「行こう。ここで悩んでも答えは出ない。妖邪界が消滅したのかどうかはこの中で確認すれば良いだけのことだ」
先に居るのは妖邪ではなく先ほどのゾンビかもしれない。征士の言葉に伸も納得した。
「そうだね。足踏みしてても変わらないし」
開けてみようと扉に近づいた竜樹を制し、伸と征士が両方で扉を開けようとした。妖邪門はたいして力をいれずに簡単に開いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
3人は無言で門の先を見つめていた。
妖邪門を開けた先は洋館のような場所の廊下だった。
さらにこの空間に非現実さをもたらしたのは、彼らの背中に広がる新宿が夜であったのに対して妖邪門の向こうの風景は昼間であるかのように明るかった。
門の前で立ち尽くす3人の背後には現代的なコンクリートの建物が並んでいる。妖邪門を挟んで空間が分かれていたのだ。妖邪門の向こうには毛の低い深紅の絨毯が奥まで続き、壁の片面は大きなガラス窓が天井にまであった。光はガラス窓から入ってきたが、外は真っ白であった。確か記憶によれば外は森が見えたはずだと、竜樹は眉をひそめた。
「ここ、日本の新宿だったよな」
竜樹が問いかけた。征士も伸もうなずくだけだった。無理も無い。彼らの記憶では門の先は妖邪界だったのだ。
「ここ、どこなの?」
「さぁ?」
「・・・・・・ロートリンゲン家だ」
竜樹は中を観察して断定した。確かにロートリンゲン家の廊下であった。いつも当主に合衆国の情報を流しに行く時、かならずこの廊下を通った。竜樹の記憶と合致していたのは、少し先に見えた長方形の旗である。大昔に神聖ローマ皇帝も保養にきたという曰くつきで、廊下には当時の皇帝の紋章旗が飾られていた。
当主によればこれはそうそう他の貴族にあるわけじゃないから文化財に指定されているという。
だからここはロートリンゲン家の館である。
「ロートリンゲン家?何でその家の中がここに出てくるの?」
伸は不可解という表情を示した。ロートリンゲン家がはたしてどういう家なのか分からないが、どうしてその家の中がここに出てくるのか、その関連性が見出せなかったのである。
妖邪門を作った者はロートリンゲン家に関わりがあるのだろうか?あの神父はロートリンゲン家と関わりが深いのだろうか?
だが竜樹の吐いた科白は征士と伸の思考を止めるほどの威力を伴っていた。
「ああ、ロートリンゲン家の当主って、先代烈火だぜ。あいつ、あれで・・・」

一瞬の沈黙の後、彼らの動揺した声が廊下に響いた。

「ちょっと待て。先代ってどういうことだ?」
「遼の先代って、こんな豪華な家にいるの?」
「そもそも何故先代が日本人じゃないんだ?」
廊下にワンワンと響いたので、竜樹は耳を押さえた。虎人間の特性としての聴覚は人間よりも上である。狼人間はもっと上だが、それでも彼らの声は脳裏に響いた。
「な、何だよ〜・・・耳がいかれるぞ。マジで」
竜樹のしかめっ面を、二人は目を丸くしたまま見つめていた。竜樹はそんな二人を見て軽く説明した。
「だーかーら。あいつ、実際にはオーストリア人と中華系インド人の血を引いていてな。お袋さんが中華系インド人だったこともあって10歳くらいに何やら横浜の中華街に所用で行っていたときにこれまた何かの拍子で烈火の鎧を継いでしまったんだ」
本人はうろ覚えで何があったのか分からないと言っていたしな。
征士と伸は顔を見合わせていた。
「じゃあ、彼は遼に鎧玉を渡したってこと?」
「そうだけど・・・そういうことになるのかな?」
「何がだ?」
「んー・・・俺の記憶じゃ、真田家はなかったぞ。烈火の鎧球は、あいつ、まだ持っているらしいし」
伸と征士は目をぱちくりさせた。
「持っている?」
「真田家はない?」
「うん、秀のこともそうだけど、何で遼が烈火なのかも不思議だな」
「納得してないで教えろ!」
征士が一喝する。だが、竜樹はうるさそうにしかめただけだった。
「俺も分からないんだっつーの」
元々金剛の継承者は竜樹の時代には存在していなかった。それらしい人物はいたが、わずか4歳で死亡している。
「4歳?」
「そう。だから俺が秀に復讐しようにもできないってこった。・・・それ以前に、死んだから人工的に作ろうってことになったんじゃないかと思うね」
「人の命を何だと・・・」
伸は吐き気がした。彼の姉が結婚し、数年前には姉に子供が生まれた。命とはかくあるべきだ。望んで生まれるべきである。
征士もそんな伸を見て、竜樹に向き直った。
「奇妙な話だな」
秀が4歳で死亡し、遼も存在していない。
「ああ。・・・だから俺も訳が分からないんだ。ナスティはちゃんといるし、この時代に来る直前まで何度も話をしている」
柳生博士に、遼たち6人の弟分がいたという話も聞かない。確か、30前に結婚したとかそういう情報は知っていたが、それ以上は詳しくない。
「・・・・・・」
「まあ、ともかく行くぜ。あの神父を捕まえて、真実を吐き出させよう」
竜樹はうなだれている伸をせかした。姉のことを思っているのだろう。征士は彼の背中に手を添えた。
「行くぞ」

午前2時28分in新宿-秀サイド- 午前2時51分in相模湖手前-ナスティ&純サイド-