AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午前2時28分 in 新宿−秀サイド−

ゾンビの最後の一人が遼と当麻の連携で消えた時、秀は辺りを見回して竜樹と伸と征士がいないことに気づいた。
「・・・はぐれたぜ」
「らしいな。竜樹と征士の奴、伸をカバーしていたようだし」
当麻は目の端で彼らを捕らえていたようである。
ゾンビは伸の攻撃をくらっても一向に効かなかったらしく、竜樹が伸の援護に回り征士が伸の周囲のゾンビを一瞬で消していた。
竜樹によればゾンビは水の属性を併せ持つ為に伸の超流波だけはきかない。秀の岩鉄砕はある程度ダメージを与えられたが、やはり払う程度しかない。
「厄介だな」
「早く戻ろう」
隣では白炎が賛同するように鳴く。遼の背中の傷を気遣ってもいるようであった。

彼らは竜樹たちとは反対方向にいた。
取り急ぎ元の場所まで戻ろうとしていたが、彼らにとって「懐かしい」ものがあった。
妖邪門だった。

3人はあ然として妖邪門を眺めた。
記憶の中にしか存在しない過去の遺物が何故再び目の前に現れたのか。
『妖邪』は間違いなく滅びたはずである。
「・・・・・・妖邪の気配はないな」
「何で分かるんだ、当麻」
秀は気配を探ろうとしたが出来なかった。
「妖邪の気配が探れないだろ?つまり、この門を生み出したのは妖邪じゃない」
遼も探っていたがやはり妖邪の気配はない。
「じゃあ、中は・・・」
「さぁ?もしかしたら、あの神父が作ったかもな」
「何でだ」
「あいつの言葉を思い出すんだな。私の家に招待するって言ってただろ」
つまりこれはあの神父が作ったものかもしれない。ゾンビもあいつが呼び出したのだろう。妖邪の気配を感じたときも不自然だった。「本物」ならば新宿から強い妖気を飛ばすはずが無い。そもそも当時の人間狩りの際、鎧戦士たちを忌避していたのだから出来れば気配を消したかったのだ。となると妖気自体はあの神父もどきが俺達を呼び出すための罠だったと言うことだ。
当麻はそう結論つけた。
「あの神父、何者なんだ?」
遼は近所に住む神父を思い出していた。彼のマンションの近くにはカトリックの教会があり、そこでは司祭が神父と呼ばれているのを時々聞いた。彼は比較的穏やかでいつも笑顔だった。だが、あの神父は同じ服を着ていても中身は違う。近所の神父はキリストの教えを敬虔に守る雰囲気だったが、彼はまったく異なる。キリスト教どころか「全てを冒涜する」という感じだった。
「竜樹も見たことがないと言っていたが・・・」
あのうろたえようは何だ?
当麻は数時間前のことを思い出した。
同じ研究所の出身ではないと言った竜樹は、確かにうろたえていた。心当たりでもあるのだろうか?
「ここで悩んでも仕方ないんじゃないか?妖邪がいないならもう開けるぞ」
秀は妖邪門の前に立って両手を門に添えた。当麻は門の脇を見る。
「・・・・・・今回はアレ、入らないんだな」
当麻の科白に秀はキッと睨む。門以外には何もなく向こうが透けて見える。確かに前回は入ったそばで横から出てきたのだ。
「一応成長してんだぞ?入ったって無駄なんだよ!」
秀は憤然として門を開けた。つもりだったが、力を入れた瞬間に妖邪門は自動的に開いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
妖邪門をくぐると、その先は見たこともない場所だった。
「外は新宿だ・・・な」
「ていうか、これ、ホントにアラゴとは無関係なんじゃね?」
「完全に無関係だ。こんな部屋、アラゴにはつくれないだろう」
妖邪門の向こうは都庁への道でもなければかつての妖邪界でもない。
屋内駐車場のようだった。
中は広く、左右には車が置かれている。
車種は色々あり家族で乗るようなものやアウトドア仕様のものもある。
当麻は以前NYに行った時に似たような駐車場を見たような気がした。
中に入って屋内駐車場を見ると、英語が多い。というか、英語だらけだった。
「ここ、どこだ?」
当麻は眉をひそめた。壁にかけられた注意書きのような壁紙を見て日本のものではないと判断したのだ。
その奥には病院を思わせるような雰囲気のドアがあり、周囲には運搬台が置かれていた。救急車から患者を移し変えるものや、器具を運ぶものなどである。
ドアは開いていて、廊下の様子が伺えた。青白く見える壁には、どこからか入ってきたのか光と影が模様を作っていた。救急入り口であるようだ。
だが、奇妙なものだ。
「電気まで通っているのか・・・?」
電灯はついている。人が居ないのか全体的に古びていた。それでもドアの向こうから音のような、声のようなものが聞こえる。
「何だ?」
また狼人間でも出てくるのか?
秀同様に当麻と遼もこわばった。しかしこっちに来る気配はなかった。
「どうする?」
このまま入るべきだろうか?だが、都庁のあった辺りは確実にここである。行くなら入らないといけない。妖邪門を真似ているとしても、脇からはおそらく都庁にたどり着けないだろう。
3人がどうすべきか迷っていたそのときだった。

廊下の向こうに、あの神父がいた。

「おまっ」
突然の出現に秀は驚きのあまり声が裏返る。
「秀!」
遼と当麻がとっさに反応する。あの神父の目的は「秀の死」なのだ。
「秀の命でも取りにきたのか?」
当麻が翔破弓を構えた。遼と秀も構える。
だが、神父は身じろぎしなかった。静かに見ていた。その視線は殺気であった。
彼とは一度も手合わせしたことがないので、どう出るか予想が付かなかった。当麻は神父を見て、時間と空間を操る以上、今までにない難敵ではないかと思った。

だが、神父は霧に包まれたかのように消えた。
まるで逃げるように。

「どうしたんだ?」
遼がつぶやく。答えがないのは分かりきっている。
「ていうか、あの神父、怪我してなかったか?」
「え」
黒い服を着ていたので分からなかったが、秀によれば天井の電灯で服の一部がてかっているように見えたのだ。柳生邸では竜樹とのことで頭が一杯だったので気がつかなかったが、もしかしたら意図して隠したのだろうか。
「竜樹がやったのか?」
そうだとしたら、竜樹たちの無事が気になる。
当麻はゆっくりと翔破弓を下ろす。遼は烈火剣を腰にしまい、秀は金剛杖の先を降ろした。神父の気配はない。
3人はゆっくりと歩を進める。
その先にあるのは地獄かそれとも救いの手か。
秀は救いの手を期待することにした。冷静に徹しようとする当麻や人間関係を尊重する遼との性格上違いの問題からだろうが、竜樹と出会って一族のしてきたことを聞かされてから、なるべく救いの手を望みたかった。「未来」から来たという竜樹は実はまったくの別人で、NYで風邪を引いて寝ている竜樹が仮に成長したとしても実家の雑貨屋を継いでいると信じたかった。
竜樹同様、全てが悪い夢で、目が覚めれば遼の誕生パーティーを兼ねた夕食会が待っているのだと思いたかった。
だが、そこにあったのは地獄ではなかったが救いの手でもなかった。

午前2時1分 in 新宿 午前2時37分 in 新宿−竜樹サイド−