AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
大地の深淵−竜樹編− 午前2時1分 in 新宿
竜樹たちは新宿に着いて、しばらく周辺を歩く。月と街灯があるため、幾分か明るかった。白炎は遼を気遣いながら傍を歩いていた。竜樹のお陰とはいえ、やはり完全回復とまではいかないだろう。
新宿は夏場はヒートアイランド現象が激しいのか、小田原以上に汗ばんでいる気がする。
月に照らされて高層ビルが立ち並ぶ中、90年には完成したという新宿都庁が見えた。が、竜樹が所用で行った時、雨漏りがしていたのを思い出した。コンテストで優勝した設計者が都の顧問をしていたこともあって一部では「出来レースだ」という非難があったというが、なるほどと思った。1人うなずく竜樹の傍を、遼と秀が頭に「?」を浮かべながら通り過ぎる。
俺が居たところじゃ空気は乾いていたんだがなと周囲を見る竜樹に対して、征士が心頭滅却すれば火もまた涼しというから精神統一しろと禅についてみっちりと語っていた。そんな2人の漫才を背に、当麻は周囲を見た。
竜樹を含めた全員、アンダーギア姿ではなく普通の服装だった。妖邪の気配を感じたものの、妖邪界は既に浄化が始まっていることから妖邪が生まれることは無いのだ。
様子を見てからアンダーギアに着替えても遅くはない。これが鎧戦士達全員の経験からの結論だった。
竜樹はといえば、一時は拳銃を使うことを考えたが、聖剣「ロッセ」を使うことを優先した。拳銃は万が一のことに使えばいいと判断する。出来れば使いたくないし、始末書に「妖邪や狼人間を撃退させるため」などと書こうものなら即座にクビを言い渡されるのは確実だった。下手したら職場のいけ好かない輩に「ハリウッドに行けば成功するぞ」といわれるのは明らかだった。
「変だな」
「何が?」
当麻は伸に、新宿の夜はもっと明るかったのではないかと言った。
まして、今は夏休みだ。俺達みたいな学生たちがまだ居てもおかしくない。
当麻の言葉を聞いた伸は都庁の傍の時計台を見て言う。
「そうだけど、今は2時・・・1分だよ。昼じゃなくて真夜中の」
分刻みで教えてくれるあたり丁寧なのか嫌味なのか。
「いくらなんでも寝てるんじゃないか?」
お前と違うだろ。と秀は目で当麻に語る。それでも当麻は主張を曲げない。
「そりゃそうだけど。なんか変なんだ」
「・・・当麻の言うとおりだ」
都庁の先を見ていた遼が当麻に賛同するので秀は反論してやろうと思った。が、遼の顔がこわばっているのに気づいた。
遼の視線を追いかけると、その先には何やら黒いものがうごめいているのが見えた。
伸と当麻もそれに目をやると、禅について説教していた征士と、されていた竜樹を呼んだ。
「向こうになんか見えるけど、あれ何だ?」
当麻は秀や伸に自分の主張が通ったことを勝ち誇るでなく、竜樹に質問するだけだった。
それだけ、目の前の様子が異様だったのだ。明らかに「ヒト」であるが立ち居振る舞いが緩慢で、深夜の散歩という割には街灯や月に照らされた顔色もすこぶる悪かった。
それを見て当麻は否と判断した。
風邪を引いている人がコンビニで夜食を買いに行くにしても、顔色がどす黒い。明らかに死んでいる。
当麻の推測を確定させたのは、竜樹であった。
「・・・ゾンビっす。あれはもう死んでるかな。生きていたら、動きはもっときびきびしてますね」
竜樹は慣れた感じで「解説」した。
眼前のゾンビたちは確かにゾンビである。ただ、昼の狼人間といい、何故彼らが「死んでいてなお動ける」のか、竜樹も解説できなかった。
「輝煌帝」の力を持つ月龍なら死体を動かすことが出来るだろうが、そもそもあいつは俺と一緒にいた。あの神父が月龍だという可能性はあるが、決定的な矛盾が出来る。
神父は復讐を語ったが、あいつには息子が居る。
あいつ自身が望んで産んだ息子だ。
いくらなんでも自分の息子がいる世界を滅するようなことはしないし、そういう奴だ。
可能性だけの話とはいえこればかりは目の前のトルーパーたちには言えなかった。
秀は心中迷っていた。
目の前のものは、確かに「ゾンビ」だった。まさしく「人」だった。妖邪ではなかった。
妖邪であれば、まだましかもしれない。鎧の力に取り込まれたのだから、まだ救いの手はある。殴ってでも正気に戻せばいい。
だが竜樹から自分の一族がしてきたことや研究所での話を聞くと、ゾンビが即悪なのかといえば断定できない。
迷う彼らにゾンビはゆっくりと、耳障りな音を立てて近づいていく。
「鎧の力は悪を斬るためにあるんだ。何で実験体にされた被害者を消滅させなきゃならないんだ」
秀は顔をしかめて誰にとも無く言った。悪い奴は斬って捨てる。これが彼のスタイルだろう。そんな秀に竜樹も同感した。
「あいつらはもう生きていないから、早いところ天に送ろうや」
竜樹は征士に臨戦態勢を取るよう指示した。
「鎧」については詳しくないが、「属性」なら分かる。征士の雷光斬と遼の双炎斬で彼らを灰にするのだ。
彼らが武装しているのを見ていたが、金剛のオレンジの光はまばゆかった。
竜樹は彼らと連携を取りながらゾンビを次々と灰に返す。
俺は資格外だから纏えないし纏いたいとも思わないけど、これなら研究所の奴らが欲しがるのも分かる気がする。
ゾンビたちは仲間達が次々と倒されても、なお進んでくる。
まるで彼らの持つ命の灯りを狙うかのように。
やっと全員を一掃した時、彼らは2組に分かれてしまっていた。
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