AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
再び・・・−竜樹サイド−
「暗いな」
「だが、視線は相変わらずだな」
竜樹の間の抜けた感想に月龍が現実感を伴わせる。自覚はしていたが、月龍のそっけない言葉にへこんでしまった。
竜樹は目立たないように黒いシャツとこれまた黒いズボンを身に付けている。イラクに派遣された時のクセである。あの時は迷彩服だったが、今回は黒い服で充分だ。
月龍はというと白衣を脱いでいるだけだった。調査の続きをしながら1時になるのを待っていたらしい。とことん真面目な奴である。
先ほどからの視線は竜樹たちに確かに降り注いでいる。
新月のために周囲は見えない。が、竜樹の「目」にはちゃんと見えている。
「・・・・・・マジかよ」
洞穴を見た竜樹のつぶやきに月龍が眉をひそめる。竜樹の視線の先を見て、月龍も嫌悪感をあらわにした。そこには研究所で見たモノが居た。発光体でもあるのだろうか、全身が仄かに光っていたために月龍でも見えたのだ。
「あの研究所を生き延びたの?」
「んなわけないだろ。お前がやったアレをくらったら消滅するんだろ?」
あの時の「光」は、確かに研究所の痕跡すらも消し去った。当然あの時にいた者達も消えたはずだ。
「じゃあ・・・」
「それ以前に逃げたか」
それでもモハーヴェ砂漠とこことでは距離がある。あんなものが移動していたら間違いなく目立つし、何よりも中には「本能だけで動いている被検体」もいるので、死人が出るのは避けられない。が、今までそういう事件を聞いていない。インターネットでUMAとかいうのを扱うサイトを見たが、眉唾なのかホントなのか分からないくらいの物もあるが、1割は本物だ。サイトにアップされた写真に写っている死骸の中には、研究所で見かけたものもあった。
2人の前方では「人ならざるもの」たちがゆっくりと距離を詰めていた。これを見て竜樹はかつて遊んだことがあるサバイバルホラーを思い出した。ゾンビを扱うのはゲームだけだと思ったが、実体験としてはくそ面白くも何とも無かったので友人にジャパンの漫画と交換してもらったのである。
目の前の人ならざるもの達はクモの形をしているものもいれば、トカゲの形をしたものもいた。中には皮膚から異臭を出している「ヒト」もいた。
「すげー殺意・・・」
眼前の存在は目を憎悪の一色に塗りたくって睨んでいた。
「というか、あの時は哀願に近かったはずだけど・・・」
2人の脳裏に浮かんだ「彼ら」は涙を流し、声にならない声で哀願していた。
−私たちを楽にしてくれ−
−もう嫌だ−
−もう体は戻らない−
実験の繰り返しや度重なる失敗で肉体に限界が来て、腐り果てるだけの身となった自らの消滅をひたすら願うだけだった。
だが目の前の彼らは異なる。彼らの瞳は怒りを持ってまっすぐに二人を見ていた。竜樹は彼らの目を見て、眉をしかめ臨戦態勢に入る。トレーニングは欠かしていないが、かつてのイラク戦争のようにヒト相手ならともかく、こういう相手はモハーヴェ砂漠以来であった。かつて所有していた両刃の剣があれば少しはマシだったろう。
ふと竜樹は視線を彼らの足元に移した。黒い地面に赤みを帯びたものが見えた。月が出ていないので月龍には見えなかったが、それは血だった。
四肢どころか臓器までも散乱していた。
FBI捜査官という職業柄、凄惨な殺人事件の被害者の遺体を見たことがある。かつての殺人事件では殺人嗜好の為にある種の一定さがあったが、この様子は尋常ではなかった。奥にはメガネのようなひしゃげたものが見えた。
「・・・月龍」
「何?」
「メガネをかけた研究員っていた?」
「首に口紅をつけた貴方にきつい視線を送っていた彼女だけよ。あとはコンタクト」
そうか、と竜樹は月龍の言葉につぶやいた。
その研究員は仕事か何かで残っていたんだろう。そして、襲われた。
一人納得しているような竜樹の態度に不審を感じた月龍は、人ならざるものたちを火で軽く追い払った時に納得した。
火で照らされた先には、研究員の死体が散乱していた。
「知ってっか?殺人事件っていうのはだな」
「快楽などの場合一定の法則がある」
「でも、あれは法則が無い。・・・その向こうに、別の奴の死体が見えたぞ」
彼らの死体に食い荒らすような感じは無かった。
まるでかんしゃくを起こした子供が引きちぎってあちこちに投げたようである。しかも「生きたまま」らしく、相当の苦痛だったようで死体のかろうじて残っていた顔の目と口が大きく開いていた。目は一点を凝視していた。
「あれ?」
竜樹は首をかしげた。ここは一番近い家とは100メートルも離れていない。土砂崩れを免れたホテルもそんなに離れていない。何よりも彼女たちが悲鳴をあげたなら「この俺」が気づくはずである。
月龍もこの違和感に気づく。
「・・・確かに変ね」
音が漏れないように結界を張った人物がいるのだろうか。が、それらしい気配を感じない。
「お前と同じ能力者がいたのか?」
「有り得ない」
あの「光」はある種の「契約」となって月龍が所持している。誰かが手に入れようとするなら、その手段は当然「月龍本人の死」でしかない。
ひとまずは周囲の者達を消していく。
「ホーリーロッドを持っていて良かったわ」
腕にはめた腕輪が光り、瞬く間に月龍の手に収まる。正確には2振りの刀「剛烈剣」であるが、月龍自身二刀流の刀術をたしなんでいない。妖邪界で瀕死の状態だった剣舞卿に剣の形で譲られて困惑した月龍の気持ちを読み取ったかのように、剛烈剣が変化したのだ。
「親玉がいるかもしれないから、術は温存しろよ」
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