AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

−序章−時の胎動

2009年11月22日改訂(25日UP)
2010年02月06日一部改稿
かつて1000年もの昔に悪しき存在の身から生まれた鎧の力を、悪とはいえ「ヒト」に使い、一時は内部分裂の危機に陥った。それでも鎧はようやく消えたが、「歴史の犠牲者」となったすずなぎの哀しみを受け新しい鎧は「歴史」の恩恵を忘れがちな我々ヒトに対する戒めとして伝えられることとなった。
だが、彼らは知らなかった。
鎧の伝説の中に「更なる語られざる歴史」があり、表においては影に動き、裏においては日向に動いた者達の物語があった。
その中に、わが国の王の縁者も居たことを挙げる。

第1章 1代限りのハプスブルク=ロートリンゲン王朝
「AEON−語られざる歴史−」(2059年Sonnenaufgang出版(有)発行)



「巻き水なる遠く遥か君がため
菜摘む我をぞ 不死忍ぶ
光咲く秋 宝塔手にせし
おお雪山埋もれしふゆう
空の流れに身をひたしつつ」

「幻の一族」の頭領である「迦雄須」が作ったといわれる短歌であるが、確かではない。別人の手による『作品』とも言われる理由として、「1千年前の僧侶」が作ったわりに作品として成り立っていないことが短歌や和歌を専門とする学者の間で議論を呼んだのである。
1千年前は折りしも平安時代で「国風文化」が花開いた頃であり、和歌の類は隆盛していた。そのため、和歌云々言うよりもむしろ「学問」の「初心者」向けに作られた習字などのテキストではないかと思われていた。
後にこの謎が明らかになったとき、「解読者」はしばらく頭を抱えていた。
「こんなことって、あるの?」
だがそれは後の話である。


21世紀が訪れる直前、アメリカ合衆国のモハーヴェ砂漠においてひそやかに「彼ら」の「歴史」が紡がれようとしていた。

その砂漠はその広大さから「死の砂漠」とも「解体されるのを待つ旅客機の墓場」とも言われている。砂漠自体のあまりの広大さから、交通の不便さや周辺環境などもあいまってゴーストタウンとなった町もあり、通りすがりのドライバーがたまにいるくらいである。時には建物の陰で一休みしてから走り去るくらいで留まる者は居ない。そんな「地」の乾いた空気は「湿らない」が、「別の理由で湿る」ことはある。

モハーヴェ砂漠の「砂」に囲まれた茶色い建物は夜の静寂に包まれていた。
研究所とも学校とも言えるような建物に人の痕跡はあったが、今は無人だった。病院で見たような器具や棚が暗闇の中で所狭しと並んでいるが、完全に廃墟になっているためホコリをかぶっていた。が、所々倒されたようなワゴン棚があった。誰かが倒したようで、立ったままのキャビネットの側面には狼のような爪跡も見える。あちこちには動物や人の「死体」が散乱している。たまたま寄ったらしいハイカーのような新しいものもあれば、白骨化した古いものもあった。

配電盤自体が故障しているのか室内は電気が落ちていた。が、闇夜の静寂だけに包まれているわけではなかった。
「数日前に出来た新しい死体」から発するむせ返るような匂いが、次第に何かを呼びよせていた。それは生きているものであったが、どうやら「人間」とは言いがたかった。正確に言えば「成れの果て」だ。その存在は「生命の息吹を感じ取る力」があるようで、いずれも変形したりコードのような物がつながっていたりとそれぞれの特徴のある頭を「一定の方向」に向けて、「前進」していた。
彼らの目からは一筋の光るものが2つ流れ落ち、口からは声が漏れていた。その様はまるで救い主を見つけたかのようである。あたかも己の穢れを浄化してくれる神々を仰ぎ見た信者のように、表情は恍惚としていた。

その先に居たのは銀色の杖を持った者と両刃の剣を持った者であった。

窓からの月の光が廊下に立つ彼らを照らして蒼と黒のコントラストを作っている。周囲の無機質なコントラストの調和を乱す色彩の彼らは、周囲を見回った。
片方の服は動きやすさを優先しているらしく、身にぴったりと纏っている。隠密活動に都合が良いしろものだった。逆にもう一方は、とあるシンボルが窓から差し込む月明かりで見えた。日本に伝わる「鎧」のシンボルだという。家紋ではなく、妖邪帝王から生まれた怨念の鎧のシンボルである。

「・・・竜樹」
「分かっている」

呼んだ方は前髪を分けた黒い長髪の、20に手が届くかという年齢の東洋人女性である。服は何やら法衣のようなものだった。従兄によればそれをアンダーギアと呼ぶが、「ギア」というよりはアンダー「ウェア」である。その服は不思議なことに「天衣無縫」と呼ぶのにふさわしいくらいに縫い目が無かった。鎧の力のなせるわざであるらしい。
竜樹と呼ばれた方は金髪碧眼の少年だった。青年とも見えるが、東洋人女性が傍に居るためか若く見える。闇の中に溶け込んでいて模様が判別できなかった黒い服は、月明かりの元に移動すると亀のような模様が見えた。中国神話に出てくる冬の神である「玄武」である。黒い服に黒い糸で刺繍していたのが、月明かりでわずかに浮き上がっているようだった。
「あれ、どう見てもヒトじゃないけどな」
2人はこの研究所での用事を終わらせて脱出を図るだけというところで、「人ならざるもの」の気配が自分達を取り巻いたのを感じた。彼らは元は人であったろうが、度重なる実験で改造を加えられ、もはや人形を留まっていない。
何とか中層部まで来たものの、やはりその数は普通ではない。どこから湧いてくるのか。
おそらくは地下層に「保管」されていたのが、2人の気配を感じてやってくると思われた。ドアは先ほどのハイカーのような肝試し気分でやってきた者が壊したのだろう。そして彼らは骸となって廊下に転がった。

女性が杖を握り締める。その杖は彼女の知る「迦雄須一族」に伝わるものと非常に似ていたが、やはり異なる部分もあった。「迦雄須一族」のものは金色であるのに対してそれは銀色に輝き、上部の湾曲した部分につけられた細く白い布が2枚、動くたびに揺らめいていた。白い布にはこれまた白い糸で模様が縫い取られており、精神世界と物質世界を繋ぎとめる役割を果たしている。
「ホーリーロッドがあって良かったよ」
もう片方の白い服を纏った青年に言う。ホーリーロッドは元は2振りの剛烈剣で、前の主・剣舞卿から死の直前に譲られたものを「カスタマイズされた」のだ。
竜樹が相手に心配げにささやく。
「でも月龍、大丈夫なのか?エリクサーも底をついているんだろ。聖呪なんて出来るのか?」
月龍と呼ばれた女性は小さく笑うと一言言った。
「あれを使う分なら充分残っている」
竜樹はそうかと笑った。彼女の本名は他にあるだろうが、最初に会ったときにこの名前で呼んで以来、今ではすっかりなじんでしまった。

人ならざるものたちは二人をひたすら見つめ、手を差し伸べた。彼らは哀しみともとれるような、声を上げていた。

彼らはこの建物が何の目的で建てられたのかを知っていたので、自分達に迫る周囲の者達を乱暴に扱うことは出来なかった。竜樹は彼らを苦しませないよう、一瞬で両刃の剣を薙いではこれまた一瞬で命を消していく。彼らも周囲の者達も『同じ存在』である。が、異なるのは彼らが人型をとどめ、尚且つ「天空」の鎧と「玄武」の称号をそれぞれ授かった事と、この建物の奥で繰り返し「実験体」となって体中を改造され続け、合衆国の軍部の癒着問題で建物自体が放置され死を待つ身となった事である。

この相違は「運」によるものが大きい。

竜樹と月龍がここに来たのは、自分達のルーツがここにあったのを知ったからである。竜樹はここで生まれ、追跡調査としてカリフォルニアのチャイナタウンに「捨て」られた。後、養父母の仕事の関係でNYのチャイナタウンに越した。
月龍は受精卵として胎内に入ったまま日本に渡り、そこで生まれた。
これらはいわゆる「トルーパー」計画の一端であった。鎧の持つ力を軍事に使おうという馬鹿げた内容である。
だからこそ止めなくてはいけないのだ。この馬鹿げた研究も何もかも。ここモハーヴェ砂漠では、オーストリアの「当主」が合衆国軍部とこの研究所の生体兵器に関する癒着を国際社会で告発、研究所の閉鎖とデータの廃棄を申し出ていた。

眼前の彼らを見て月龍は疑問に思った。
-----「彼」ならどうしただろうか?
自分の親ともオリジナルとも、兄弟ともいえるある人物の顔を思い浮かべた。
この研究所の奥に設置されていたパネルのデータにあった写真の顔だ。
その顔はどこからか盗撮されたらしく、カメラを意識していない様子で街を歩いていた。
大学生くらいの頃だろうか。

目の前に伸びてきた手を竜樹が払いのけて叫ぶ。
「早くしろ!」
すぐに『彼』を意識から追い出し、月龍は白い鎧と黒い鎧から授かった力を解放する。脳裏に「全てを消し去る白い光」を思い浮かべ、それを物質世界に引き出す。地球の奥に生きるタウラギ族の伝承の「悪しき光」であった。
「ホーリー」
『輝煌帝』の力のうち、浄化の光を人ならざるものにぶつけ、自分と竜樹を外へ同時に出した。全てはまばゆいほどの白い光に覆われた。

春が近いこの日にアメリカ合衆国のモハーヴェ砂漠では原因不明の爆発が起きたが、それは合衆国上層部とある組織だけのシークレットとなり永遠に封印された。

そして数年後、静かに生きていた彼らは再び「鎧」と関わることとなった。

闇夜は次第に黎明を迎えつつあった。

始めに光ありき−竜樹サイド-