AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

交わる光と闇 Pandora's box no.4

2009年9月5日改訂
当麻たちが去っても、遼は残っていた。彼の表情は複雑な感情で覆われていた。哀しみと混乱と、怒りも混じっているようだった。
何故だ?
竜樹は遼を見て、いぶかしげに言った。
「行かないのか?」
「あ、ああ・・・」
遼は月龍を見ると、すぐに目を逸らす。月龍は伸と純に続いて彼までも自分を逸らしたので、完全に不審の目で見ていた。
「何故目をそらすんですか?」
「えっ・・・いや、何でも」
「うろたえてるぞ」
竜樹の指摘に詰まる。遼はびくっとした。その様子にますます不審の目を向ける。
「う、うん・・・」
遼は何かを言おうかどうしようかという感じだった。月龍はじれて、つい言ってしまった。
「言いたいことははっきり言う。男の子でしょ。アンタ」
竜樹は思わず眼前の彼と月龍との年齢差を考えてしまった。たしかにこの時点では月龍が一番の年長であるが。
だが、彼の一言は2人を驚かせた。

「あの、月龍って、妊娠してる?」

「・・・なんでです?」
月龍は眉をひそめた。
「つーか、6ヶ月前に・・・」
月龍は竜樹の言葉に「おい」と突っ込んだ。遼はというと、やはりという顔で見ていた。
「何で知っている・・・」
月龍はここまで言いかけて竜樹を見た。竜樹は「伸と純にしか言ってない」と否定した。それでも言ったのは間違いない。が、彼が何故知っているのだろうか。疑問に答えたのは遼だった。
「さっき、幻を見たんだ」
竜樹の過去とか月龍の過去とか見えたんだ。あの神父もどきがやったのかと思ったけど、月龍がやったみたいだし、それは無意識下の事だって分かってるよ。

竜樹と月龍はあ然として、彼を見た。
でも、パラレル世界のこととはいえショックだった。
彼は眉をひそめて言うと、部屋を出た。

「・・・・・・バレた?」
「みたいね」
月龍はティッシュボックスをナイトテーブルを置くと、ため息をついた。
どうするか。
偶然とはいえ、輝煌帝の力が見せた。遼の言葉から察するにお互いに気まずい結末になった。彼らとはもう顔を合わせられない。

「・・・・・・いくか」
「そうしますか」
壁がある以上、元の世界にまだ飛べない。
「空間だけは飛べるんだろ」
「まあね」
目的地はどこにするか。
「・・・モハーヴェ砂漠はどうだ?」
竜樹は思いついたとおりに提案してみた。月龍も同意した。ベッドを軽く直すと、転移した。

階段を上がっていく当麻の様子を見たナスティが竜樹と月龍の部屋をのぞきに来た時、部屋は整頓されていた。
遼は2人が居なくなった原因を自分のせいだと責めた。あの不用意な一言が行方をくらませたのだと言った。
秀はそんな遼をなだめていた。
当麻は当麻で、部屋にこもったままであった。

リビングの時計は11時38分を指していた。



-----先ほどの変調は輝煌帝の力のせいだったのだろうか。
月龍はふと思った。2つの輝煌帝を継いだのは確かだが、そんなことは今までも起きていない。月龍は神父もどきが同じ力で2人の記憶を見せたのだという結論を見出した。しかし、それを遼に言っても無意味な気がした。世界が異なるということはこうも隔てが生じることなのだ。
同じ輝煌帝の継承者でも遼には遼の仲間が、月龍には月龍の仲間が居るのだ。
光と闇は交わるが、過去と未来が交わることが無いように当代の継承者と交わることは決して無いのではないかと、月龍は思った。
改めてレオンハルトや志信が味わった「孤独」というものを、月龍も実感した。それでも月龍は竜樹が居るだけマシだと思った。

竜樹は竜樹で、こっちの世界の自分を思った。
秀とすこぶる仲が良いそうだが、自身、真実を知らされた時はカリフォルニアのセンターを壊滅に追い込んだ。そこに居た『人間』達を全て消してやりたいと思っていた。
「騒音」の後、「静寂」が戻った時、竜樹の体は血でぬれていた。
顔も涙だったのか血だったのかでぬれていた。
自身の「親」は父娘という間柄で、遺伝子レベルで改造された挙句に体外受精で娘の子宮に戻された。代理母などもいたが、代理母からは死産や流産が相次ぎ、結局同じ一族の女の子宮に戻すことにしたのだ。一旦生まれたが発育不全だったりで、「成功」したのは竜樹だけであった。パーセンテージで表現した資料は気配を察知して急行した月龍が消したという。
竜樹はふと隣に立つ月龍を見た。
最初こそ月龍とも敵対していた。「元凶」の「源」とも言える輝煌帝の力を有し、さらには一族の長老の1人として君臨するレオンハルトの子飼いだと思うと、憎らしかったのだ。
あれだけの力を有しながら何故。
だが、月龍もまた同じNGCの被害者であり、輝煌帝の力を消そうとして逆に取り込まれたという事実を知った。
月龍自身レオンハルトへの復讐を考えないことも無かったが、彼は鎧の無い世界を目指していることを知り、「受け継いだ」鎧の力を消滅させることを選んだ。
月龍がレオンハルトに身を任せたのは、羽柴家を絶やすためではない。
レオンハルトの長男が皇太甥に指名され、一族を憚ることなく彼の立場を強固なものとするためにも月龍自身の「鎧の継承者」としての血統が必要だったのだ。
息子ならば「異母兄」の側近にもできよう。娘ならば有力な家に嫁がせて周囲を固めさせることもできる。もっとも肝心の長男自身が弟妹を月龍にせがんだことが婚姻のきっかけとなった。
だが、結局羽柴家は絶えた。
竜樹自身も望まない形であった。
こっちの当麻や秀が竜樹や月龍に何をするのか、竜樹自身読めなかった。
同じ鎧戦士でも世界が異なるからだろうか。世代間の差だろうか。
竜樹は寂寥感を感じた。
神話では開けてしまった箱に残ったのは「希望」だというが、自分たちの場合は絶望と哀しみと怒りだけではないのだろうか。
出来れば「この世界」の自分たちに「希望」を与えて欲しいと思うのは甘えなのだろうか。

Pandora's box no.3 炎のJUNCTION vol.1