AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 Pandora's box no.3
闇が晴れたそこには月龍がいた。ベッドで本を読んでいる。だが、様子が違う。
全員は違和感の正体を確認しようと、じっと見ていた。
「・・・?」
最初に気づいたのは当麻だった。
「あ」
続いて秀も気づいた。
征士と遼は訳が分からないという顔をした。
「あいつ、腹が膨れてる」
征士は目を丸くした。当麻も眉をしかめた。彼が常に考えていた可能性がこの形で現実となったのだ。伸だけはさっき竜樹から聞いていたので、これが今の彼女の1年ほど前の姿なのだと理解した。
「な、何で・・・」
遼と秀はうろたえていた。無理も無い。征士はうろたえなかったものの精神の均衡を図ろうとしていたし、当麻はさっきまでの景色とこれと何か関係でもあるのかと月龍の体を眺めていた。
「これから何が起こるんだ?」
だが、当麻の質問に答えられるものは居なかった。
月龍は休養を取っているのか、昼間だというのにベッドに居た。が、ふいに顔を上げる。その表情は眉をしかめているようだった。
彼女が身を起こそうとした時、ドアが荒々しく開けられた。
ちょうど秀たちの背後だったので、秀たちはドアの方向を振り向いた。そして、あ然とした。当麻に至っては絶句していた。
「当麻、か?」
秀の科白に征士が震える声で答える。
「本人だろう」
クローンでなければだ。
立っていたのは間違いなく当麻本人だった。年齢は30前であろうか。当麻は目の前の自分が鎧ギア姿であるのに気づいた。すずなぎ事件のものではなく、かつての物だった。だが、形相は怒りだった。
「お前のせいだ」
よく見れば、頭に包帯を巻いていた。表情は険しかった。
「え?」
月龍はベッドから降りていた。2人はベッドを挟んだ形となった。不意の訪問者に眉をひそめている。
「お前のせいで、親父もお袋も死んだ」
当麻はさらに言い募る。月龍はホーリーロッドすらも出さず、窓際に下がった。腹の子を気にしてのことだろう。表情は訳が分からないというものだった。
「何の話です?」
「お前の腹の子に天空の継承権があるとかふざけた理由で、親父達と俺を殺そうとしたのだろうが」
相変わらずしゃがんでいた当麻は、立ち上がろうとした。もう一人の当麻を見ながら伸が言う。
「天空が原因?」
「殺したのって、あいつが?」
秀は月龍のイメージを思い出す。丁寧な口調で質問に答えてくれた。当麻に対しては悪意を感じない。むしろ「恐怖」で、まるであいつが背後から刺すのではないかというくらいにおびえていた。この体験のせいだろうかと思った。
「知りません!」
月龍の声が響く。
「親父を殺した犯人が言っていたんだ。お前の腹の子を生かすために俺達を殺すと言っていたんだぞ!」
当麻は翔破弓を構える。
「ここまでだ!鎧を脱げ!」
またも背後のもう一人の乱入者を見た。竜樹が拳銃を構えていた。
「竜樹・・・」
現実の秀と幻の月龍が同時につぶやく。征士は「鎧に拳銃はきかんというのをあいつは知っているのか?」と苦々しく言っていた。
「うるさい!」
鎧ギアの当麻は振り向きざまに竜樹に風のエネルギーをぶつけた。
「やめろっ」
洋服姿の当麻が制止する。が、竜樹は避けたものの、風のエネルギーを受けた壁が崩れ、その下敷きになった。月龍が短い悲鳴を上げる。
お前の腹の子を消す。
もう一人が鎧の力を月龍に向けるのを当麻は止めようとした。
その時に鈍い音が聞こえ、鎧ギアの当麻が倒れた。背後で下敷きになった竜樹が、腕を精一杯伸ばして居た。
「あ・・・」
誰かが言った。が、その場に居た誰でもなかった。崩れた入り口から入ってきたのは伸によく似た雰囲気の青年だった。
「竜樹、しっかり」
「俺は大丈夫だ。それよりあいつ・・・」
「しの兄・・・」
月龍が腹を抱えてうずくまる。しの兄と呼ばれた人を見て、伸は昨日説明された「冷泉志信」だと理解した。秀は志信を見て違和感を感じた。金剛の継承者なのに、何故伸そっくりなんだ?顔の造形は違うかもしれないが、雰囲気が伸に似ている。
志信は月龍をベッドに寝かせ、倒れた当麻を診た。穴が首と頭部の上にあり、そこから出血していた。
「鎧の隙間から入ったんだな・・・」
彼の言葉を最後に、闇が作られた。
ふいに明るくなり、当麻はさっきまで居た部屋に戻ったことを理解した。
目の前の「2人」が目を丸くして見ているのに気づいた。
何だ?
月龍がナイトテーブルの上のティッシュボックスを渡す。当麻は自分の顔が濡れているのに気づいた。
「あ・・・」
「俺達、そんな酷い事言った?」
竜樹が気遣うように言う。一応、事実を説明することについては時間がほしいんだけど・・・。
それを聞きながら当麻はティッシュを抜き取って涙を拭いた。彼らの様子から推察するに、「幻」というよりは「過去」そのものを見ていたようだった。一瞬よりもさらに一瞬の時間で、あれだけの過去を見させられていたのか。当麻は涙をふき取りながら輝煌帝の力を思った。
廊下から騒音が響いて部屋のドアが乱暴に開けられた。2人は驚愕で、1人は予想通りだという感じで振り向いた。
「あ、お前、居たのか」
秀と伸が居た。征士と遼も背後にいる。
「・・・・・・」
2人は、顔を見合わせた。まるで当麻を自分たちが泣かせたような感じだった。
だが、脈絡が読めなかった。
「居たってどーゆーこった?」
竜樹が聞く。だが誰も答えない。月龍もティッシュボックスを両手に抱えたまま、困惑していた。
「そういや、お前、大丈夫か?」
当麻を気遣いながらも竜樹は月龍に向かった。さっき辛そうな表情をしていたのだ。5人の視線が一斉に自分に注がれたのを見て、月龍はティッシュボックスを持ったままうろたえた。何故彼らが自分を見るのか。
「ああ、大丈夫・・・。一瞬だったから」
それをみて、当麻たちは理解した。
彼女がやったのか。
だがティッシュボックスを抱えているところを見るに、意図していなかったのだろう。遼はかつての輝煌帝同士の暴走を思い出した。
月龍自身にも抑えきれないことが起こると、輝煌帝の力があのような形で出てきたのだろう。おそらく当麻の不意の来訪で、力を抑え切れなかったのではないか。
あの場にナスティたちが居なかったのは、鎧の力を持たなかったからであろうか。
秀は竜樹を見た。トルーパー計画で生まれたので竜樹に継承権は最初から無い。ただ、鎧というのはかならずしも血脈で決めるわけじゃない。実際、遠く離れたオーストリアに居る人物が烈火を継いだのだ。
それでもあの場にいなかったのはやはり金剛の継承権は無いということか。それでも月龍がいないということは、今までの幻は月龍が見せたことになるのだろうか。
当麻は開けてはいけない物を開けてしまったと思った。
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