AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 Pandora's box no.2
「ウオオーーーーーン・・・」
遠くで昨日の虎人間と同じ声が聞こえた。
周囲は暗闇である。
当麻はあの虎人間がいるのかと、身構えて周囲を見た。 先ほどまで部屋で竜樹と月龍と向かい合っていた。
だが、今は他の4人が居た。全員、それぞれのポーズで立ったり座ったりしていた。さっきまで居た部屋でのポーズらしい。征士と遼は何か話していたらしく向かい合って立っていたし、秀は立ったまま何か荷物をもっていたらしい。伸も直接座って何かをしまう仕草をしていた。ふたりは手に荷物がないのを見て「あれ?」とつぶやいた。遼が「他の皆はどこにいったんだ?」と残りの4人と1匹を探す。
「さっきまで部屋で2人と話していたんだが・・・」
「さっき?」
「あ、ああ・・・」
伸は当麻が何故そこに行っていたのか、その理由を推し量った。おおかた月龍が避けている理由でも聞こうとしたのだろう。
「しかし、2人は居ないぞ」
「さっき、遠吠えが聞こえたけど・・・」
征士の言葉に遼が続く。あの2人がここに居るのだろうか?遼が思考をめぐらせたときだった。
背後から人が飛んできた。
遼は仰天した。人の気配が無かったのだ。他の者も同様だった。
「な、何だ?」
「この人、遼の後ろに?」
秀と伸が飛ばされた人を見る。その人物は赤い衣を纏っている。だが赤いと思ったのは血で、元は白衣だったようだ。胸元がえぐられていた。
「う・・・」
征士は思わずその凄惨さに目をそむけた。胸元からは心臓と思しきものが見えたのだ。伸が助け起こそうとする。が、人物はするりと伸の手を抜けた。表情は既に生命活動を停止しているようだったが、そのせいではない。掴もうとした手が肩を通り抜けたのだ。
「え?」
「幻か?」
当麻が眉をしかめる。幻なら心当たりがあるが、使い手がわざわざそんな物を見せるわけじゃない。今となっては使い手はこの世界に居ないはずである。
またも遠吠えが聞こえる。
「昨日の奴じゃないだろうな」
秀が眉をしかめる。
今度は警備員らしい者が秀の足元に来た。幻なのでぶつかることは無いが、秀は思わず避けてしまった。その警備員は下半身がなかったのだ。上半身だけが飛んできたので、さしものの強靭な精神力を持つ「金剛」も、こればかりは避けたくなったのだ。
「今度は何だ?」
征士が周囲を見る。闇が明けていく。
そこにあったのは昨日見たNGCの廊下での虎人間と警備員たちの対決だった。だが虎人間が圧倒的らしく、警備員たちは応戦も叶わず倒れる。虎人間は倒れた警備員の背中を踏んでいく。その重量はかなりのもので、警備員の断末魔が聞こえてきた。凄まじい悲鳴と共に背骨が折れる音がした。
「やめろ!」
遼と秀が声をかける。
だが虎人間には声が届かないようであった。警備員にも届いていない。
「・・・幻だ」
当麻が結論を下した。傍に転がる警備員の下半身は背中を踏まれ不自然な方向に曲がっている。内臓も破裂しているのだろう。その目には命の輝きがなかった。
「しかし、誰がこんな幻を?」
顔をしかめた秀はある人物を浮かべたが、彼はこの世界に居ないし、何より虎人間という物体を見せて何か意味でもあるのかと思った。伸は昨日の「個性をなくした男」を思い出していた。
「K/J/0267号・・・かな」
「多分な」
当麻は伸の言葉に昨日の相手を思い浮かべた。時空を超えるという輝煌帝の力を持つんだ。この過去の幻を見せることも出来るのではないか。当麻の推論に征士は虎人間を見た。警備員は形勢不利と見るや逃げ始めた。それを虎人間は追いかけなかった。
「過去?」
「それか未来か」
遼は当麻の説明にかつてムカラが来たことを思い出した。サバンナの幻が新宿に現れた。その原理であろう。
見る間に虎人間は次第に人の形をとっていく。背中を見せているので分からないが、金髪が揺れていた。
「竜樹か・・・?」
秀はふと思った。『彼』を定義つけたのは4人の背後の声だった。
「竜樹」
若い女の声で、当麻はさっきまで話していた女性であることを理解した。彼女はさっきの女性より若く、幼さも残っていた。黒い髪も腰まであった。迦遊羅が西洋で育ったらこうなるのかというイメージを受けた。
若い月龍はその場に立っていた。彼女は無残な死体を見て眉をひそめただけだった。
秀たちは彼女が竜樹と向かい合って何をするのか、成り行きを見ていた。
「・・・・・・」
竜樹は背中を向けただけだった。その背中が震えている。月龍はうつむいて続けた。
「データなら消したよ」
秀は竜樹が泣いているのが分かった。
「ここはもうトルーパー計画を続けることは出来ない」
竜樹はそれでも向き合わない。うつむいている。
「親族同士の受精卵もちゃんと消した。・・・親子間の分は全て完全に焼却処分にしたよ」
当麻は一瞬で理解した。同時に胸が悪くなるのを感じた。
「どういう意味だ?」
「・・・・・・親子間などの近親による体外受精卵だ」
遼の質問に答える。父親と娘、母親と息子という近親間の受精卵を焼却処分にしたというのだ。
征士と伸は顔がこわばっていくのを感じた。秀はあ然とした。遼は息を大きく吐いた。月龍はそんな彼らの間を歩く。
「もう行こう。・・・・・・ここを消すよ。モハーヴェ砂漠については、いずれ決着をつけよう」
「・・・・・・」
月龍は歩を進めて竜樹の背中に手を添える。
その時、白い光があふれる。そして闇に閉ざされた。
「な、何だ?」
秀が周囲を見る。
闇に閉ざされたと思ったら、今度は奇妙なものを見つけた。
周囲にはガラクタが積まれている。どこかの部屋らしい。外に通じる窓からはオレンジ色の日差しが入ってきている。
「研究所っぽいな」
遼が言う。
「・・・・・・親父」
当麻はガラクタの向こうで背中を丸める人間をみた。白衣を着ているようである。
「当麻の?」
伸が目を丸くして周囲のガラクタを見た。征士は後ろを見た。ドアのような出入り口が正面に無いので、自然と背後に視線が動くのだ。
ふと、上部にはめ込まれた曇りガラスを経由してドアの向こうに人影を見た。
「何だ?」
征士のつぶやきに遼が振り向く。ドアは静かに開けられる。かすかな開閉音を聞いて秀たちも振り向く。人影はマスクとサングラス、黒いジャンパー姿だった。全員はいぶかしげに見る。
「お前じゃね?」
「自分の父親に会いに行くのに、何であの格好なんだ?」
秀が当麻に訊くがあっさりと否定される。それもそうかと秀はうなずく。当麻に花粉症の気もない。
「誰だろ?」
伸は目の前を通り過ぎる人物を眺めた。当麻の父親は実験に没頭しているのか移動の足音にも気づかない。
「やれやれ」
当麻はため息交じりで父親を見た。が、すぐにこわばる。
「止めろッ!」
相手がジャンパーの背中からサバイバルナイフを出したのだ。当麻が抑えようとして飛び出す。しかし幻影なので、掴むことも出来ず声も届かずサバイバルナイフは当麻の父親の、背中の心臓部分を真っ直ぐに突き刺した。当麻の父親は声を上げずそのまま崩れ落ちた。
相手はサバイバルナイフを抜いて血を拭いた。血だまりが見る見るうちにできる。
そしてそのまま退室した。
当麻は幻の父親の死体の傍でしゃがみ、秀たちはその場で立ち尽くした。
ふいに場面が変わり、今度は明るい場所になった。当麻は先ほどの父親の死体のあった位置から動かない。
「・・・・・・今度は何だ・・・」
征士がやっと口を開く。次々と現れる惨劇に、辟易しているようだった。
周囲は明るい青空の下、土レンガでできた家が並んでいた。秀はかつてアフリカに行った時、街の中がこうだったなと思った。伸と遼は周囲を見る。通りを歩く人は少ない。人口が少ない町なのだろうかと思ったが、通りの向こうから戦車がやってくるのが見えた。どうやら紛争地域らしい。
当麻ものろのろと顔を上げる。
征土はむき出しになった道路の向こうに見覚えのある女性が離れて立っているのを見た。
「お袋」
「え」
遼が女性を見る。確かに当麻の母親だった。彼の父親もカメラマンなので、それを通しても顔を知っている。
「・・・もしかして」
伸は最悪のケースを考えた。当麻の母親も?
当麻の母親は相手との話を済ませて、車に乗った。車にはガイドらしい人物も居た。
「まさか」
秀が蒼白でつぶやく。
「お袋、止めてくれ!」
当麻が叫ぶ。同時に、何かが飛ぶ音が聞こえた。それは当麻の母親の乗った車に当たり、爆発した。同時にまたも闇に包まれた。
当麻は両手で顔を覆っていた。
伸は無言で当麻の肩に手を置いた。
「もしかして、月龍が避けていたのはこれか?」
秀はなんとはなしに言った。当麻が顔を上げる。
「あいつが、そんなことを・・・」
それでも信じられなかった。左手にはめられている指輪から、ある可能性が彼の脳裏にあった。
月龍は天空を求めるために当麻たちを消そうとしたのか。
「そんなバカな」
征士が言う。ではこれは鎧の継承権の争奪戦の結果なのか?伸は否定した。
「そんなこと無い」
「何でだ」
遼は当麻を見る。
「だって・・・」
彼らが押し問答をしていると、またも景色は変わった。
「マジかよ。誰だよ。もう戻してくれ」
月龍でも神父もどきでもいい。もうやめて欲しいと秀はヤケクソのように叫んだ。
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