AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

交わる光と闇 Pandora's box no.1

「そんなに彼女が気になるの?」
研究室の窓から外をのぞく当麻に、ナスティが声をかける。当麻が見ているのは外で遼や秀と庭掃除に興じる月龍である。
竜樹たちがパラレル世界から来たのは理解できた。だが、彼女とは初めて会ってから一度も怖がらせるようなことをした覚えが無い。
「ちょっと変だとは思うけどね」
何で当麻を異常に怖がるのか分からない。クローンというか、遺伝子を盛り込まれたとしても、秀もしくは一族を恨みこそすれども当麻を怖がるような心当たりは無い。彼女を見ていたが、秀に対しては普通に接していた。口調も丁寧なくらいである。秀が4つで亡くなっているという事実から、彼女は割り切っているのだろうか。
逆に竜樹のほうが秀に対して何やら含むところがある。「トルーパー」計画のせいで生まれたというのだから仕方ないといえば仕方ないが。秀は4つで亡くなってしかもその後に生まれたというし。
だが、こっちの竜樹は何も知らない。秀もこれから気をつけていくだろう。

ナスティにも2人が2人に対して何を考えているのか分からなかった。

「色々考えても分からないさ」
当麻は、月龍に質問をするとき竜樹が自分を『見張っている』ような気がした。竜樹は怨恨を以って見ているわけじゃない。当麻が月龍に何かをしやしないかと思っているようである。
「行動あるのみだと言いたいが、相手が月龍ではな」
ナスティは当麻の科白に眉を上げる。相手が当麻と同じ男性なら追及もしやすいだろう。だが、相手は今女性体をとっている。しかも男性体に変わる気配は無い。
ため息をつく。
迦遊羅とも違う。あの時は血気盛んな頃だった。ルナともナリアともすずなぎとも違う。・・・相手が一向に自分に近寄らないので、自分から近づこうとしても逃げられるのだ。しかも「恐怖」という感情で。当麻は自分がアラゴや輝煌帝になった気がした。
再びため息をつく。
ナスティはそんな彼にかける言葉が見つからなかった。

月龍は庭掃除を終えるとリビングに入ってきた。征士がのんびりと新聞を読んでいるのを見て「子孫ってこうなったんだな」とシミジミしては征士にいぶかしがられた。
竜樹と一緒にリビングに入ってきた伸と純は、月龍の柔らかな体つきをチラッとみては慌てて目を逸らす。
これには月龍は「?」だったが、張本人の竜樹は肩をすくめるだけだった。
「とりあえず終わったな。・・・って、征士、あんた、新聞読んでいただけか?」
竜樹は征士が新聞を読んでいたのを見咎めた。
「悪いか」
「いや、竜樹。仕方ないよ」
竜樹は月龍の科白に眉をひそめたが、男女平等を唱える環境で育った彼女のことだ、何か意味でもあるのかと思った。その予想は当たっていた。
「仕方ないとはどういう意味だ」
征士が割って入る。
「え、いや、さすが政宗さんの子孫だなってことです」
「政宗ってどんな奴だったんだ?朝飯ン時は聞いてなかったけど」
秀が聞く。遼や純も興味津々で見ている。小田原遅参のことを話したら伸に「弟さんの心中お察しするよ」と言われた。言われた征士はというと眉をひそめて月龍をみるだけだった。
仕方ないじゃない。私だって好きで行ったわけじゃない。
征士の視線を受けて、月龍は当時の時空間で対峙したキマイラをもう少しボコれば良かったと思った。

この後、伸は秀と一緒に部屋に戻り、純はナスティの研究室で夏休みの勉強の続きをしに行き、遼は白炎と征士と一緒にリビングにいた。
この様子を見ると昨日の戦いが嘘のようだった。彼らにとってはこの日常こそが似合う。部屋に戻った竜樹と月龍は彼らを見て今後のことを思った。竜樹と月龍は向かい合ってそれぞれのベッドに腰掛ける。窓からは日差しが差し込んで部屋を照らしている。
竜樹は伸びをして凝りを解していた。
「あの2人のことだけど、どうなっているのかな」
「彼らの目的は世界の統合でしょう」
彼らは私たちよりも遥かに『根』が深い。最初は輝煌帝の力を狙っていたというが、結局は鎧の無い世界が狙いだった。結局それぞれの時代で月龍に邪魔されて現代まで続く結果となった。
「今んとこ、あいつらの気配は無いけど・・・」
「・・・今回も壁があるんだよね」
「壁?」
というと、時空間を飛ぶことが出来ないということか。
月龍に言わせれば竜樹を連れて飛ぶのは簡単だが、肝心の壁が問題だった。
「ていうか、誰が作っているんだ?」
「さぁ?」
かつての『過去』でK/J/0267号は言った。「何もしていない」と。
「誰がやってんだろうな」
月龍は見当が付かなかった。竜樹も神父もどきが月龍でなかったのを知って安心した。それを聞いた月龍は眉をしかめたが何も言わなかった。竜樹が慌てる。
「と、とりあえず、壁を取っ払わないことには解決しないだろ」
その時、ドアがノックされた。
「はい?」
竜樹が答える。ノックの相手は当麻だった。月龍は目を見開いたし、竜樹はいきなりの来訪に驚いた。2人のかなりの狼狽振りに当麻は自分が招かれざる客であることを理解した。が、嫌われているとかそういうのではない。当麻は眼前の彼らから、一種の感情を感じた。「恐怖」であった。
落ち着け、落ち着け。
竜樹はここが元の世界じゃないことを何とか意識にへばりつかせた。眼前の青年がかつての人物ではないことを脳裏に貼り付けたのである。
「あ、ちょっといいかな・・・」
当麻は2人の反応を見てやはりと思った。答えたのは竜樹だった。
「うん」
「あー・・・えと。ちょっと聞きたいけど」
2人が何も言わないので、当麻は続けた。単刀直入にいうべきだろうな。
「避けられているっての分かっているけど、避け方が半端じゃないから」
君たちの世界では、俺は何かマズイことでもしているのか?
竜樹も月龍も眼前の人間に言うべきかどうか悩んだ。真実は言った方が良いだろう。智の力を持つ彼なら、この世界の竜樹や月龍に対して良い方法を考えるだろう。
この時当麻は気づいた。彼らは哀しみの目で見ている。
何だ?
月龍も最初は恐怖を持っていたが、今度は「哀しみ」だ。
彼らの世界で何があったと言うのだ?
当麻は当惑の表情を浮かべた。口を開いたのは、月龍だった。
「言っていいのかどうか私には判断できません」
「判断?」
「・・・真実を教えるということが、良いことなのかどうなのか分からないということです」
結果として悪くなるということだろうか?
「悪くなる可能性もあります」
月龍は搾り出すように言葉を吐いた。その表情は恐怖と苦しみだった。
「・・・・・・とりあえず、こっちのあんたは敵意があるわけじゃないってのは分かったよ」
「こっち・・・」
当麻は竜樹の科白から、「異界の自分」が眼前の2人に対して悪意を持っていたことを理解した。おそらく対峙したことがあるのではないか。鎧の力を以ってかどうかまでは判断できなかったが。だが、竜樹はともかくとして、何故天空の後継である月龍までもが自分を恐れるのか。
「今すぐは言えません」
月龍は自分の中に黒いものがたまっていくのを感じた。体が鉛のように重くベッドから立ち上がれなかった。

------お前のせいだ。

洋服を着た眼前の人物と、青い鎧をまとったかつての人物がダブるのを感じる。

同時に、部屋の力場が変わるのをこの場に居た全員が感じた。
「!」

2人の金剛その5 Pandora's box no.2