AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 2人の天空その5
「で、結局何なんだ?」
秀が苦虫を噛み潰したかのような顔をして、「過去と未来からの来訪者」に向き直った。竜樹は訳が分からないという顔をして月龍に向き直る。月龍は眉をしかめたまま無言だった。自分と征士と伸が居ない間に何があったのだろうか?
「何とは?」
「お前らが未来の、パラレル世界から来たってのは分かった」
前半を聞いていた竜樹と伸と征士は、後半部分を聞いて目を丸くした。
「ちょ、パラレルって・・・ドッペルゲンガーとか?」
「月龍、パラレルってのどういうことだ?」
竜樹が月龍に向けて言う。月龍は真田さんが寝ているらしいから静かにと釘を刺した。
「この世界は私たちの世界とはまったく異なる世界なんだ」
竜樹も気がついていると思うが私たちの世界では真田家は断絶しているし、秀さんも亡くなっている。だから烈火の鎧を継いだのはレオンハルト=ロートリンゲンである。
「レオンハルト」の名前にナスティは眉をひそめたが、口を挟まなかった。
金剛は知っての通り、後継者が幼くして亡くなったために竜樹のような後継者を生み出すための「トルーパー」計画が発動した。
天空はオリジナルである継承者から極秘に取られた遺伝子を使ってクローニング計画が始まった。水滸や光輪も同様に行われた。が、成功例は月龍だけであった。
「ちょっと待て」
当麻が口を挟む。目の前にいる自分と同じ顔の人間を凝視する。天空の継承者?じゃあ、彼が纏っているこの大陸風のような青い鎧は天空の鎧なのか?
「遺伝子って、俺は取られるような事はなかったぞ」
そもそもオリジナルというのは?
そんな彼に月龍は説明した。
「何も無理やり取らなくてもいいんです。『核』さえあれば出来ます」
赤ん坊の頃に、密かに取ることも出来ます。
当麻はこの科白にめまいを覚えた。自分のクローンが作られているというのも、そしてその成果が目の前にいるのも夢物語だと思いたかった。
秀はそんな当麻を見て何とも言えなかった。鎧を守るべきであるはずの一族が、鎧を求めるなど考えてもみなかった。月龍はそういう派閥争いがあり、自分や竜樹の属する派閥は鎧を正しく後の時代に伝えることに奮迅していると述べた。対する派閥は、鎧の力を利用するべくNGC研究所のような研究を主体としたものを設立しているという。
「嘘だ」
当麻は拳を自分の太ももにあてて、搾るような声を上げた。竜樹はそっと腰の拳銃に手をやる。白炎は竜樹をじっと見た。
自分のクローン生成がこうして今も行われているという事実が、彼を奈落の底に突き落とす。
伸たちはというと、眼前の人間がクローニング計画で生まれた当麻のクローンであるのが信じられなかった。
「・・・他には?」
伸が当麻の傍に立つのを見て、征士が聞く。
「私たちをこの世界に送ったあの男の狙いは歴史の改変です」
「・・・あいつ、歴史の改変をして何をしようとしているんだ?」
「鎧の無い世界だ」
秀は眉をひそめた。すずなぎも願っていた。だが鎧という存在が生まれた以上、変えられない。
「だからこそ、祖先を消していこうとしていたんです」
守り継承していく者がいなければいずれ消滅するか、アラゴとやらに飲み込まれてしまっていたかもしれない。
「それでお前もあいつも時間を遡ることが出来るのか。・・・そもそも何故時間を遡れるんだ?」
征士は柳生邸に現れた神父もどきを思い出した。眼前の人間も出来るという。
「・・・時空転移は輝煌帝の力の一部です」
伸と征士は目を丸くした。伸は遼を見ながら言う。
「輝煌帝って、時間も越えられるの?」
「・・・伸、黒い輝煌帝を覚えていないのか?」
うつむいていた当麻が顔を上げて言う。
「黒い輝煌帝は白い輝煌帝と対峙するために空間を繋げたんだ」
「そして、私と遼がアフリカに連れ去られた」
征士が後に続いた。空間を繋ぐ力を持つんだ。時間を越える力を持っていてもおかしくあるまい。征士は納得してしまった。
「ということは、あの男も君も輝煌帝の力を持っているの?」
伸は当麻を気にしながら言った。
「あの男の正体は・・・知りません。私はアフリカで輝煌帝と契約しました」
「ムカラと同じレベルか」
当麻は自分のクローンを眺めた。クローニング計画の内容を詳しく知らないが、輝煌帝をムカラ同様に「単独で」継ぐ人間が出来てもおかしくあるまい。
月龍と竜樹は「ムカラ」という単語に「?」を頭の上に浮かべていた。そんな2人に対し、ナスティが説明した。
「・・・・・・そこの遼が白い輝煌帝の主で、そのムカラってのが黒い輝煌帝の主か」
竜樹は目を閉じている遼を見た。ワクチンが効いているようだ。椅子から降りて床に寝かされ、ナスティが膝枕をしていた。鎧ギアでなく先ほどの洋服に戻っているので、純が心配げな顔で看病している。
「月龍は2つとも継いだんだよな」
「2つ?どっちかじゃなくて?」
秀が耳ざとく質問する。遼によれば輝煌帝はかなりの体力精神力を消耗する。ムカラはそれでも単独で、脱いだ後も平気な顔をしていた。
「私の場合は・・・シャーマン的な要素があったためといったところでしょうか」
「シャーマン?霊媒師か?」
征士は実家からはるか北にある恐山のイタコを思い出した。ウワサなら聞いている。
「まあ、そういう感じかな。どうもそういうのに敏感らしいです。私自身の生まれ持った能力ですかな」
当麻の遺伝子や金剛の鎧とは無関係らしい。月龍は思い出すかのように言った。竜樹が「そういやロンドン塔を見に行った時、お前、アン=ブーリンが目の前を通るのを見たって言ってたな」と言ったのを聞いて、純とナスティが目を丸くした。
「まあ、な。ムカラとやらも話からどうやらシャーマン的要素を持っていたらしいし。でなければ鎧という媒体無しに単独で纏うことなど出来ないからな」
「遼が鎧の媒体で纏っているのはそういう要素が無いからなのか」
征士は納得したように遼を見る。当麻はというと、青いままでさっきから口を挟まない。
「それでも2つもってのは有り得るの?」
「何がです?」
「どーいうこった?」
月龍と竜樹が反対に質問してきたので、伸は口ごもった。
「だって白い輝煌帝と黒い輝煌帝を同時に纏える人間なんて・・・」
「・・・『鎧』という概念の問題でしたら、不可能でしょう」
月龍は伸の言いたいことを汲み取った。
「『鎧』としては無理でしょう。・・・『形』にこだわらなければ2つの『力』は使えます」
「あ、あれだ。伸。さっき言ったろ。『妖邪門がある』イコール『妖邪』とは限らないって話しただろ」
征士も思い出した。確かに妖邪門があるからといっても、あの神父もどきが作り出した以上出てくるのが妖邪であるとは限らなかった。
「あ」
伸も合点がいったようだ。秀はさきほど当麻が「妖邪の気配が無い、すなわち妖邪門は妖邪が作ったものではない」と言ったのを思い出した。輝煌帝も、「鎧」という概念を捨てれば、元々はエネルギーそのものなのだ。ナスティはナリアが消えた時を思い出した。
アラゴの鎧の力に導かれる形で具現化されたのが輝煌帝である。もっとも輝煌帝自体は剣舞卿も言っていたように遥か太古から続いた伝説だ。
ここまで考えて、ふとナスティは気になることを思った。
そもそも輝煌帝をあの形で伝えたのは誰なのか?
エネルギーの塊であったのを「鎧」の形で人々の記憶に植えつけたのは誰だったのか?迦遊羅が居れば答えをくれたかもしれない。
「そうか・・・『鎧』という形にこだわらなければ使えるのか」
「そういうことです。・・・竜樹、ナイスフォローだ」
竜樹は褒められて照れた。
「私の纏っている天空の鎧も、私自身がイメージした『鎧』を元にしています」
だから、羽柴さんが纏っているものとは異なります。
「・・・月龍はいわゆる魔法とやらに変えたんだな」
秀は一気にファンタジーの世界になったと思ったが、月龍は眉をしかめていた。
「魔法・・・」
どうやら「魔法」というのが気に入らないらしい。何かあったのだろうか?秀はきょとんとしていた。月龍は眉にシワを寄せながら説明する。
「魔術師というポジションとはまた違いますね。そもそも詠唱呪文はいずれも『言葉の意味』と『受けた結果』が適合している言葉を当てただけで・・・」
「ま、まあそういう力に変えたわけだね」
渋い顔で説明しようとした月龍を押しとどめて、伸がうなずいた。もしかしたら月龍も当麻同様にうんちく好きかもしれない。-----後に竜樹と語った時に同意された。
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