AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

交わる光と闇 2人の天空その3

「当麻?」
純と一緒に遼を看護していたナスティが振り返る。秀が目を丸くしている。
「おま、何を・・・」
「そうだな?」
当麻はじっと月龍を見た。月龍はふいに視線を逸らす。当麻は相手が「恐怖」をもって逸らしたことに眉をひそめたが、追求しなかった。
「そうです」
この世界と自分達の世界はまったく異なる方向を向いている。自分の世界では鎧戦士がいびつな形で存在している。
「いびつというのは、NGCのこと?」
ナスティは竜樹から聞かされた非人道的な研究を思い出した。
「それもいびつな物の一つです」
鎧という存在は本来あってはならなかった。だが、迦雄須とアラゴの戦いの時点ですでにいびつな歴史が始まってしまった。もしかしたら「輝煌帝」が生まれた時点かもしれない。その結果、月龍たちの世界とこの世界が交わってしまった。
「あの男、世界の統合を狙っていたのか」
神父もどきの狙いが鎧の無い世界であったことに当麻は眉をしかめた。かつてすずなぎも似たようなことを言っていた。結局自分達が導く未来を見届けることにしたのだが。
が、秀を狙うのは別問題では無いだろうか。そもそも秀1人を消したところで何もなりはしない。秀が金剛を継いだことはすでに鎧の歴史に刻まれているのだ。過去に戻って俺達の祖を消そうとして、眼前の人間に邪魔されたという。
ここで当麻は一つの違和感を見出した。
鎧の無い世界を作るならば、何故輝煌帝が力を持たない時代に行かないのだろうか。
が、よく考えれば眼前の月龍が邪魔をしてきたというのだから、もしかしたら始まりの時代で邪魔をされたのだろう。
当麻はそう結論を出したが、それは間違いであった。その「理由」が分かった時、当麻は眼前の人間を責めるべきかどうか、結論を出せなかった。
月龍は椅子に座って1人考え込む当麻から目を逸らしてモニターを見た。そして、眉をひそめる。秀が訊く。
「どうした?」
「ドラゴンがいますね」
「は」
当麻は詰問しようとして吸った息とともに、マヌケな声を吐いた。
ドラゴン?
「あのモニター。見えにくいですが、奥の入り口、何かが動いています」
月龍が指す緑色のモニターには、部屋の一角が写っていた。壁の向こうに開けっ放しになっているドアがあり、そこから影が見えた。本体は見えないが、影を見ると大きな翼が揺れて写っているのが分かった。
「・・・ダチョウとかじゃね?」
「その方が幸せです」
月龍の言葉にバカにされたと思った秀はむっときたが、相手の顔がこわばったままなので本気で言っているのだと理解した。さきほどのヤモリでさえ実験の結果であった。「ドラゴン」がどれだけのものか、推して知るべきだろう。
「とりあえず、このパネルを操作します。シャッターを下ろしてこっちに来ないようにしましょう」
「何でだ」
当麻は操作を始める月龍の左手の薬指に指輪がはめられているのを見ながら言った。結婚しているのか。月龍は遼を見ながら言う。遼はワクチンのせいかじっと目を閉じている。
「真田さんが復調するまでです。ドラゴン類は・・・」
「ちょ、ちょっと待って」
ナスティが慌てて横槍を入れる。
「ドラゴンって、そんなのいるの?」
当麻が冷静に判断を下す。
「・・・ゾンビも居たんだ。何が出てきても不思議じゃない」
「そういえば、ガルーダも居たね」
「がる・・・朱雀か」
秀はナスティから聞いた伝承学の知識を思い出した。ナスティはやっとあのガルーダが赤かったことに気づいた。ガルーダというよりも「朱雀」「鳳凰」がふさわしかったのだ。
竜樹からはこの動物について何も聞いていないのかと質問する月龍に対し、全員が頭を振る。竜樹の出生のことなら聞いた。月龍は彼らの反応を見てため息をつきながら説明する。
「NGCにおいてドラゴンはドラゴン計画、ヤモリなど半人やガルーダはトルーパー計画、ゾンビは・・・話によれば『死んでいる』そうなのであの男が動かしていたと判断していいでしょう、そういう計画が系統化されて進められていました」
空を飛ぶガルーダもトルーパー計画のひとつなのかと問うナスティに、月龍は空中戦向けの兵士としてですので、あのガルーダは見かけは完全に鳥ですが、脳だけを技術で縮小させたヒトのものと取り替えているのですと説明した。純は眼前まで迫った鳥が、実は人の脳を移植されていたことに嫌悪感を覚えた。あの鳥は、純達がヒトであることに強い憎しみを覚えていたのだろうか。
「ゾンビだけ違うってことか」
ヤモリ人間を思い出しながら、当麻は顔をしかめる。
「正確に言えば、『生きている』ゾンビは度重なる手術に耐え切れなかった者で、計画に失敗しています。『動き』ですぐに分かります」
死んでいるものは完全に死んでいるので、動かす人間がいない限り動きません。
「胸が悪くなるわ」
ナスティは酸っぱい物がこみ上げてくるような気がした。ここまで鎧と関わってきた。それでも今まで鎧を狙った者はあくまでも鎧を狙った。だからかねてからの秀の言うとおり目を覚まさせれば良かったのだ。だが、NGCのような団体は妖邪とも異なる。
「人」なのである。
しかも私たちと同じ時代を生きている。
「動かす人間とは、あのニセ神父なのか?」
当麻は眉をひそめたまま質問した。
「そうですね、輝煌帝の力をもってすれば死者をマリオネット状態にすることも可能でしょう」
答えを理解するのに、当麻は数秒かかった。ナスティはさらにかかり、秀と純は遼を見ていたので、会話内容を理解するのにさらにかかった。白炎は当麻と向かい合う月龍を気遣わしげに見てから、目を閉じた遼を見た。
「・・・何だって?」
「何がです」
「輝煌帝の力を使えばってどういうことだ?」
月龍は眉をひそめて当麻を見た。
「ですから、輝煌帝の力の一つとして、死者を・・・」
「ちょっと待って」
今度はナスティが割って入った。輝煌帝の力?あの神父にそんな力があるというのか?
月龍は全員が驚いた意味を理解できなかった。
「鎧戦士ならば輝煌帝の力を知っているのでは?」
「いや、死者を操ったという話は聞かない。・・・なんで知っているんだ?」
これには月龍がうろたえた。てっきり知っているものかと思ったが、彼らは輝煌帝について破壊の象徴という印象でしかないことに驚愕を覚えた。
「そんな・・・」
月龍はため息をついた。彼らは輝煌帝を危険視した。月龍も似たようなものだったが、使い方次第では良くも悪くもなるのではないかと思った。
強大なエネルギーを持つ輝煌帝だが、それを「体系化」すれば何でも出来る万物の力ともなれるのだ。
「・・・お前は、輝煌帝をそういうものだとは思っていないのか?」
秀は月龍に詰問した。
「いいえ。破壊をそのまま創造に向けたら有意義ではないかと思っただけです」
空間を越えられるならば時間も越えられるかもしれないと思っていた。
当麻は月龍の言葉に待ったをかけた。
「ちょっと待て。お前、そういえば時間を越えて歴史を修復してきたといったが、もしかして『輝煌帝を持っている』のか?」
月龍は当麻の言葉の意味を理解できなかったが、そうだとうなずいた。
「そん・・・」
秀は絶句した。かつて水晶の谷で立ち向かった時、輝煌帝は凶悪そのものだった。破壊を望み、消滅を欲する存在であったのだ。そんな存在が、眼前の男によって時間と空間を渡る力に変えられている。
遼はアラゴを退けるため、力を欲した。が、力を求めたツケが水晶の谷で跳ね返った。
なのに眼前の男は輝煌帝の力を手に入れただけでなく、それを「創造」に使っている。
神父もどきも、輝煌帝の力を手に入れているという。
この時、輝煌帝の継承者が遼以外に2人いることになる。破壊を欲する神父もどきと、創造の力に変えた月龍と。

月龍は沈黙した一同を見て首をかしげながらも、モニターのパネルをいじった。当麻は焦燥感に駆られながらも、月龍の左手の指輪を眺めた。シンプルな指輪で、母親がはめていたのと似ていると思った。
「とりあえずシャッターは閉じました。これで、当分は大丈夫でしょう」
当麻は相変わらず月龍の手を見ていたが、ふと鎧の裾から何かが見えた気がした。妙な模様である。月龍の纏っている鎧は、仕様こそ異なるが自分が纏っている鎧に雰囲気が近い感じだった。
それでも自分の天空の鎧は指先まで被っているのに対し、月龍のは秀の家で見た大陸風の鎧に近く袖は布であった。そのため、先ほどから模様が見え隠れしているのに気づいた。
「その腕の模様、刺青か何かなのか?」
当麻の指摘に、月龍はぎくっとしたかのように身構えた。
「な、何だ?俺は別に・・・」
つくづく分からない。何故ここまで怖がられなければならないんだ。当麻は辟易したが、先ほどの質問には答えて欲しいところである。
「いや・・・。これは、まあ。こっちの事情で」
月龍はしどろもどろで答える。秀とナスティはこの2人を見て、顔を見合わせた。
-----どうしたんだ?
-----当麻を知っているみたいね。
2人はアイコンタクトで成り行きを見ていた。
すると、純が声を上げた。またもモニターに何かが写ったのだ。
「征士兄ちゃん!伸兄ちゃん!」

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