AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 2人の天空その1
月龍と名乗る男が入ってきたとき、秀たちはぎょっとした。
モニターでは前髪が邪魔で見えなかったが、顔つきを見て当麻をはじめとした全員は目を疑った。来ている「鎧」も、どことなく当麻のものと似ていた。秀はじいちゃんの別荘で見るような大陸の鎧にも似ているなと思った。違うのは当麻が「弓」を使うのに対し、こちらは完全な丸腰だった。当麻は武器を何処にしまっているのか?と思った。
「当麻か?」
入ってきた月龍を見て、秀の科白に相手は否と答える。
「俺はここだ」
傍で本人が秀に突っ込みを入れていた。よく見たら傍にいる当麻よりも年が上である。
昔から当麻は大人びている奴だったが、こうして見ると柔和な感じがする。当麻本人が成長したというより、雰囲気そのものが伸に近い。
「遼兄ちゃんっ、もう大丈夫だよ!」
純は壁際でぐったりとしていた遼に駆け寄った。白炎が喉を鳴らす。月龍という男は遼の元に歩み寄って、何もない空間から小さいケースを出した。秀と当麻はぎょっとして止めようとした。相手が遼に危害を加えるつもりかと思ったのだ。
「何を」
「大丈夫よ。あれがワクチンなの」
ナスティが2人を制して言う。
当麻はまゆをひそめて見ていたが、彼は小さなケースから出した注射器を遼の腕に刺した。
「ウェアウルフにやられてからの時間が12時間以上なので、個人差ですが1時間もあれば治ると思います」
1時間以内に注射すれば効果はすぐに出ますが、と月龍は遼に言った。
しばらくは12時間で強くなったウィルスを殲滅させるため、ワクチンの活動による副作用として発熱することを説明した。そして、もう1時間は安静して欲しいとも言った。
「そう」
「背中の傷は痛むそうですね」
「ああ」
遼は体を起こしたが、月龍はそのままでと制した。そして秀にことの次第の説明を求めた。
「この時代では何がどうなっているのか、教えていただけますか?」
このとき、当麻は彼が自分を無視したのに気づいた。
何故?同じ顔なのが気に入らないのだろうか?
当麻はそう考えていたが、違った。
彼は自分を警戒しているのだ。怖がってもいる。
当麻は訳が分からなかった。
彼とは初対面のはずである。だが、彼は自分を知っている。
しかも警戒するべき相手として。
秀が月龍に説明をしている間、当麻は彼を見ていた。ナスティと純は遼をしきりに気にしていた。白炎はというと、月龍が入った時に何故か月龍に付き添ってきた。遼はそんな白炎を見て不可解な気持ちだったが、ウィルスのせいで思考がまとまらなかった。
「・・・というわけで、安静にしていればいいのに無理やり付いていくもんだから、こうしているんだ」
秀は遼を見て、説明した。月龍がうなずく。
「そうですか。竜樹なら、間違いなく妖邪門をくぐってくると思いますね」
ここで当麻は疑問を唱えた。
「何故分かるんだ」
「・・・・・・」
彼は当麻をやっと見た。当麻は同じ顔をまっすぐに見た。俺は彼を怖がらせるような、警戒させるようなことをした覚えがないのだ。
秀たちは二人を見ていた。秀たちはいたたまれない空気が流れたのを感じた。口を開いたのは月龍だった。
「ここが、かのNGCだからです」
先ほどまで当麻たちが歩いてきた場所はNGC研究所の搬入口であった。駐車場の傍には、通常時に実験体を運ぶ入り口がある。非常時や大きな被検体が運ばれる時はヘリポートに面した入り口を使うのである。
妖邪門もこのNGCも過去のもの。
神父もどきが誰かの記憶を引っ張ってきたのは容易に想像できた。神父もどきは時間も空間も操るので、それくらいは朝飯前だ。記憶というのはおそらくは竜樹のものであろう。この場に居ないが、いずれ竜樹はここに着く。
となると竜樹たちも妖邪門を見つけているはずだし、おそらく妖邪界ではなく別の世界につながっていると思われる。
それがこのNGCなのか、それとも別のものなのかは分からないが、誰かの過去を持ってきているだろう。
月龍の説明に、全員は納得したようなそうでないような顔をした。
「ここは俺たちや君たちの過去にあったものなのか」
「ええ。・・・あの男の目的はある程度掴んでいます」
月龍は顔をしかめながら説明を続けた。
「何だ?」
秀が言う。あの神父の「秀の命をとる目的」が分かれば、対応できる。
「歴史の改変です」
質問した秀はすっとんきょうな声を出した。
「はぁっ?」
「正確には鎧そのものが存在しない世界を作ることです」
「・・・・・・なんだってまた・・・」
「長いこと追いかけていてやっと掴んだ答えですが、これが合っているのかどうかは自信がありません」
歴史の改変については私が常に修正をしてきたので、この歴史はちゃんと動いていると思います。
月龍の言葉に、ナスティは驚いた。
「修正?」
私たちの今居る歴史を、修正してきたと?
「変な言い方ですが・・・私としてはあなた達の生まれる『道』を消すことは出来ませんでしたので」
目の前の当麻に似た人物は何を言っているんだ?秀は竜樹のことで一杯だったのに、さらに来訪者が居たことで混乱の極みだった。
だが月龍は続ける。
「あの男は貴方達の祖先を消したり道を変えたりしていたのです」
だから、私のいる世界では真田家は消滅していたのだ。と、月龍は語った。
この歴史もまた正しい道筋なのかは分かりませんが。とも語った。
当麻はこれで、頭の中の何かのパズルがあったのを感じた。
「じゃあ、君たちはパラレルワールドの住人なのか」
|