AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 2人の金剛その5
「あー・・・よく寝た」
「私は久々だったがな」
朝日が降り注ぐ吹き抜けのリビングで、いつものメンバーに加えて2人の男女が会話を交わしていた。
長い戦闘の後、彼らはワクチンを投与された遼とダメージを重ねて受けた伸をそれぞれ寝かした。
「一晩寝りゃ、朝には元気になれるぜ」
狼人間に襲われたのが昨日の昼である。ワクチンを投与されて安心かと思えば、やはり1日は様子見をしておこうという。狼人間と虎人間を相次いで目撃した遼は竜樹の言葉に大人しく従った。白炎は遼の傍で寝そべり、純は隣のベッドで腰掛ける。
「毛利さんの方は回復させておきましたが、あの遠吠え、音波の効果もあるみたいなので、少し寝ていてください」
どうやら彼らの遠吠えには精神をかき乱させるような効果を持っていたらしい。伸はさきほどナスティに連れられてシーツを運んだ竜樹の背中を思い出した。秀はベッドの傍で伸を見ていた。
「音波って、そんなに酷いものなのか」
「音楽関連で、こういうU字の道具がありませんか?ほら、チーンとなると・・・」
この説明に秀は合点がいったようでうなずいた。
「あれか」
「はい。U字の間に手を入れると、ビリビリきませんか?」
「ああ、来た。中学の頃、音楽の掃除当番でダチとそうやって遊んでいたな」
音楽にも趣味の範疇を持つ月龍は眉を上げたが、咎めるわけでなく続けた。
「あれが脳に来るんです」
「なるほどね」
秀はうなずく。伸も「大人しくしとくよ」と言った。
「回復のタイミングがずれたので、間に合いませんでしたが」
「いいよ」
そう言う伸に月龍はうなずくと竜樹の居る場所に向かった。竜樹はまだ1階のリビングに居た。ナスティと一緒である。秀と伸の部屋から出るとナスティの声が聞こえた。
「あなた達、一緒でいいの?」
「・・・・・・変な意味は無いよ。こんな時にいちゃつくほど余裕は無い」
どうやら部屋割りに疑問があるらしい。
「いちゃつくって何よ?」
「俺らが同じ部屋でいいって言ったら、目を丸くされただけ」
「貴方は私と同じ部屋で、竜樹はさっきの部屋でいいって言ったんだけど」
ナスティは月龍に視線を向けた。無理も無い。成人男女が同じ部屋にいることを気遣っているのだろう。
月龍は説明した。男性体になることを考えたら、出来れば慣れた人が傍に居た方がいい。
眼前の彼女がさっきまでは男性体だったという事実を、ナスティは思い出した。傍の征士や当麻も眉を上げる。
「貴女を襲うとかじゃなくて、私の気持ちの問題なんです」
何かの理由でまたさっきみたいに男性体になってしまうことを考えると、偶然とはいえ裸を見られたくない。
それを聞いた征士は月龍の腕の細さを思い出した。だが、何の意味があるのか見出せなかった。後で腕が細い理由を知ったときは思考が止まったが。
「じゃ、それできまりって事で。このシーツ、俺んとこに持ってくぞ」
竜樹はさっさとシーツを運ぶ。ナスティと月龍がその後を追いかける。征士は後を追いかけるべきかと思ったが、当麻が気がかりだったのでやめた。当麻はというと、月龍を見ていた。向こうは気づいているのかそうでないのか。
昼食を頂いたり遼や伸を見守ったりと怒涛の一日が過ぎ、翌朝を迎えた先の会話は先述の通りである。
「おはよう」
皿を並べる伸が、リビングに入ってきた月龍と竜樹に声をかける。もうすっかり良いようだった。それぞれが返す。伸は2人を席に案内する。もう少ししたら皆集まるよと教えた。
「もういいのか」
「うん。おかげさまで」
「遠吠えに対する対策も必要だね」
月龍は伸が差し出したジャムをチョイスした。竜樹はチョコレートを選ぶ。そこに朝練を済ませた征士が入ってくる。
竜樹は道着姿の彼を見る。日本男子ってこういうんか。というか昨日の今日なのに何で元気なんだろうか。
月龍は竜樹の思考が読めたが、あえて何も言わなかった。自分達と眼前の彼らの、現時点での年齢差を考えれば当然であるのだ。
「おはよう」
"Good morning."
"Guter Morgen."
輝煌帝の持つ力なのか翻訳がなされているので、こういう日常会話も実際にはそれぞれの母国語になっているんだろうなと月龍は脳内でそれぞれの会話を変換させた。月龍自身には全てがドイツ語に聞こえるし、竜樹はおそらく英語として聞こえているだろう。眼前の日本人たちには完全に日本語として聞こえている。時空を越えることは過去や未来と関わることである。
その時代の言葉を理解する努力をしなくて済むのは助かるが、自分の時代では輝煌帝の力は及ばないのは何故だろうか。
どうしようもない部分は何らかの援助が入るが、努力次第でどうにかできることは自分でやれと言うことだろうか。
脳内であれこれと考える月龍の傍で伸が征士に訊く。
「当麻は?」
「当麻はまだ寝てる」
いつものことだと征士は階段を上がった。
「伸、秀と遼はまだ帰ってこないの?」
「そろそろ帰ってくるよ。ぐるっと回るだけだって聞いたし」
朝の散歩はいつもの日課だという。おとついに大怪我を負っていた遼1人で心配なのか、秀が一緒に付き添っていた。大怪我は完全に回復していたし、疲労もそれほどでも無かった。輝煌帝の力を「創造」に向けるとこうも違うものなのかと遼は秀に語っていた。
「おはよう、おにいちゃんたち」
純が顔をこすりながら入ってきた。伸が答える。
「はい、おはよう」
「月龍、これからどうするんだ?」
「私の経験ではそろそろ次の時代に飛ぼうということだけど・・・」
「次の時代?もう行くの?」
伸が耳ざとく聞く。純も座る。ナスティはサラダを盛っていた。月龍は手伝うべきかと思ったら、座っててくれと言われた。
「私の経験ですから。何かが終われば時空間に入れますが」
「そういえば義経さんとかなんとか言っていたね」
純が思い出すかのように言う。
「鎧に関わることで解決したら、時空間に飛べるようになれるんです」
純は良く考えれば月龍よりは年下ではないか?それでも丁寧語で話すあたり、よほど躾が良いのだろう。伸は純と月龍を見比べながら思った。竜樹が純の親友なのは知っている。が、成長した竜樹に比べて、年上のような気がしたのだ。
「壁ってのが気になるわね」
ナスティの科白の後に、遼と秀が続いた。
「只今」
「飯だ、め・・・」
秀は席に座る竜樹を見て、一瞬口ごもった。昨日の竜樹の科白が効いているようである。ナスティたちはこの沈黙の意味を感じ取る。竜樹は無言で視線を逸らす。月龍は遼と目が合ったので軽く挨拶した。
「とりあえず、食事にしようか」
征士も当麻をたたき起こしてくる頃だから。
全員が座ったが、伸の配慮なのか、竜樹と月龍の前はそれぞれ遼と征士だった。竜樹は遼とFBIという仕事について話していたし、月龍は征士と祖先の話をしていた。
「FBIって、ドラマみたいなもんじゃないんだな」
「ドラマは美化されるからな。実際はそんなキレイなもんじゃない。アメリカじゃあドラマの制限とかがあってな・・・」
「私の祖先、そんなにおかしいのか」
「まあね。弟さんも苦労が耐えなかったみたいだよ。愛さんは慣れたって感じだったけど・・・」
秀と当麻は彼らから離れた場所に居た。半分が4人であるのに対し、残り半分が彼らだったのだ。
「伸。俺らをあの2人から離してないか?」
当麻が征士と談笑する月龍を見て伸に追求する。あいつ女は苦手だとか言っていたわりには月龍相手に談笑できるんだな。
「うーん。なんとなくだけど、相手のほうが君を怖がっているようだし、せっかくの朝ごはんが不味くなるかなと思っただけ」
「俺もか?」
「どっちかというと君のほうが竜樹から離れたがっていたから、そうしただけだよ」
ナスティもうなずく。同じように感じていたようだ。
久々の食事を楽しんだ月龍と竜樹は、世話になりっぱなしもなんだからと皿洗いと庭掃除を手伝った。
竜樹は皿洗い、月龍は庭掃除をすることにした。
「あれ」
「どーしたよ」
伸は皿を抱えて台所に入ってきた竜樹を見て言う。
「いや、月龍が皿洗いするかと思ってたから」
「ああ、あいつ、庭いじりが得意なんだよ。園芸の大会でも大賞を取ったって言うし」
俺はおふくろの手伝いでしょっちゅう皿洗いをしていたんだ。
「そっか」
伸は納得して竜樹に指示した。傍には純も居る。
「そういえば、月龍って、君の何?」
月龍と竜樹の関係を知らない。こっちの竜樹は確かに秀の養従弟である。だが、月龍については当麻のクローンというかそういうものである以外は知らない。秀の一族らしいが。
竜樹も今までのことを思い出した。確かに自分達の関係について説明していなかったような気がする。
「ああ、あいつは俺の従姉なんだよ。って、知ってっか。何?意味が違う?」
「恋人かどうかってことだよ」
伸の言葉に竜樹は眉を上げた。
「いや、それはない」
「そう?部屋のこととかやけに親しげだからそう見えたけど」
「あいつ、子持ちだぞ」
伸と、横で聞いていた純はこの言葉を聞いて皿を落としそうになった。それを見た竜樹はまずいことを言ったのかと思った。
「・・・・・・あれ?あいつ、合流した時言ってなかった?」
「言ってないよ・・・」
言葉の端々から伸と純は精神の均衡を図ろうとしているのが伺える。当麻のクローンが子持ち?
「そっか。オフレコにしてくれ。当麻との事もあるし」
「当麻お兄ちゃん、月龍さんの子供のことと関係あるの?」
「まあ、無いことも無いけど、時期が来たらあいつが説明してくれると思うぞ。・・・・・・多分」
竜樹は脳裏に当麻を射殺した場面を思い出した。伸と純は彼の表情を見て、これ以上突っ込まないほうがいいと判断し皿洗いに専念した。
後に伸が当麻に月龍が子持ちであることを伝えたら「知ってる。というか予想はしてた」と言われた。
「合流した時にあいつの左手がちょうど見えたので眺めていたら、お袋と同じタイプの指輪があった」
当麻の指摘に伸は相手の手を注意深く見ていなかったのに気づいた。
だが、この時点で月龍はすでに紛失防止の為に指輪を外していた。
話題に上がった月龍はというと、遼と秀と一緒に庭掃除をしていた。当麻はナスティと何やら研究について話していたし、征士はリビングで新聞を読んでいた。
「家というのは、手入れがないと一気にボロボロになりますからね」
館内の掃除の大切さについて解説していた。オーストリアの城とかは広大な分掃除も大変である。だが掃除を怠ればネズミが住み着き、爬虫類が住み着く。そうなると人は寄り付かなくなる。結果、悪循環となるのだ。
「そうか」
真面目な性格の遼は月龍の説明を聞いていた。秀は台所の衛生問題について訊いてきた。
「俺んちの台所、親父とかいつもピカピカにしていたな」
「店も掃除は大事ですよ。食中毒になったら大変でしょう」
「まあな」
「・・・・・・ところで、竜樹、なんでFBI捜査官になったんだろ?」
遼は首をかしげた。
秀の料理店という言葉から疑問が出たらしい。どっちの竜樹も養実家は小さな雑貨屋である。あっちでは跡を継がなかったのか?
「ああ、まあ、何でも行方不明になった人とかを助けるためにと言ってましたね」
月龍は遼を見て言った。NGC研究所に連れ去られた人たちのことかと思ったら、違った。
「自身、見たことがないとはいえ故郷をなくしましたからね。行方不明者の家族のことを考えたかららしいです」
同じ哀しみを増やさないように、ということですかな。
月龍はホウキを動かした。
遼は秀に目で「ごめん」と詫びた。
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