AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

交わる光と闇 2人の金剛その4

狼男の遠吠えにナスティと純は恐怖ですくむ。竜樹もさっき月龍を助けるために変身した。彼の虎人間への一撃は凄まじいものがあったが、今は自分達が狙われないように遼たちと連携をしている。
月龍はというと、女性体をとり常に援護を続けている。竜樹や遼たちが居る以上、自分の役割も自然と分かるようだ。

虎人間は防御壁が無くなったことから次第に劣勢になったようだ。遼の炎と秀の土の連携でとうとう倒れる。烈火の火属性と金剛の高い攻撃力が効いたようだ。

そこに、雷がとどろいた。

ナスティと純は思わず耳を押さえた。白炎も抗議の唸り声を上げる。
それだけの音量だったのだ。効果はかなりあったらしく、その場にいた全員がしゃがんだ。
「耳が・・・」
秀が耳を抑える。遼もその傍で顔をしかめていた。
「月龍、じゃないか」
「雷呪なんて使ってない」
竜樹の言葉に月龍が答える。月龍はさっきまで伸を回復していたのだ。詠唱が終わったところだったので、伸は体力が回復したと思ったら今度は精神的ダメージを食らったようである。征士でもない。彼は伸を虎人間の攻撃から庇っていたのだ。征士と当麻がふらついた伸を支える。
「誰だ・・・」
「征士!」
当麻が征士に声をかける。ちょうど彼の前にあの神父、虎人間が言っていた「K/J/0267号」が立っていた。過去の時代で見ていた月龍以外は彼の顔を見て絶句した。帽子を脱いだその顔には「個性」というものが無かった。口元に見えたシワは老人特有かと思っていたが、皮膚が剥がれた跡だった。
月龍は以前対峙しているのでさほど驚きもしなかったが、当麻と秀はそのグロデスクさに眉をしかめる。虎人間の言葉どおりなら帽子の下はてっきり当麻と同じ顔かと思っただけに驚きだったのだ。
「WT−038号、大丈夫か?」
K/J/0267号の呼びかけに虎人間が答えた。征士は眼前の者の発した声が、当麻と同じものであることに眉をしかめた。クローンというものは声までも同じだろうか。
「大丈夫だ。あの女、お前と同じ『クローン』のわりに強いぞ」
「止むを得ん。あれは私とは別だ。天空の力も継いだのだからな」
K/J/0267号は個性の無い顔を月龍に向けた。月龍は杖を構える。
だが、K/J/0267号は何もしなかった。出直しだと言って、虎人間を連れて空間に溶けるように薄くなった。

「あ・・・」
遼は溶けたところを見る。秀が周囲を見るが、気配は無い。
「消えた・・・」
終わったのか?
征士は伸を支えながら油断無く周囲を見る。
「!」
月龍と竜樹が同時に反応する。
「そこ、早くこっちに来い!」
竜樹はナスティたちを呼び寄せる。月龍は急ぎ脱出の呪文を詠唱する。『停止』の呪いが無いだけでなくこのフィールド全体に揺らぎが生じたために、空間に隙間が出来たのだ。
「な、何だ?空間が・・・」
「まさか、ここが消えるの?」
当麻とナスティが顔を見合わせる。純が白炎の背中に両手を添えて周囲を見る。

月龍が呪文詠唱を終わらせると、同時に彼らはナスティのパジェロがあったところに戻った。

「・・・・・・」
全員は周囲を見た。
「ここ、ガルーダに襲われたところ?」
純が目を丸くする。ショックが大きいためか「朱雀」などで無く「ガルーダ」である。ナスティのパジェロは転移する前に万が一のことを考えて高速道路の脇に寄せておいたのだ。全員はその高速道路の脇にいた。
すでに夜は明けていた。が、幸いなことに高速道路上には車が通っていなかったので、転移するところは見られなかった。
「新宿のど真ん中に転移できませんからね。一応こちらにしておきました」
口調が気のせいか男性体の時よりも柔らかい。月龍が杖をしまう。杖は光となり2つの腕輪になった。ナスティは車の中をのぞく。
「早速で悪いが、柳生邸に転移させてくれね?」
竜樹が月龍に言う。月龍はうなずくと、車も一緒に転移させた。ナスティは柳生邸に車ごと移動したのを見てあ然としていた。
「ここかな?」
月龍が転移したポイントはちょうど柳生邸の前だった。
全員はあっけにとられていた。
「は・・・」
「こんなに簡単に移動できるものなのか」
秀と伸が月龍を見る。輝煌帝の力というのはムカラとの戦いからあくまでも「相手を倒すため」のものだと自覚していた。すずなぎ事件では遼が輝煌帝の力を再生の力に振り替えて、自分達を助けてくれたが。
「黒い輝煌帝がアフリカから来るくらいなんだ。こんなの朝飯前だろ」
当麻が柳生邸を見て言う。征士が当麻の意見に賛成だとうなずく。
「とりあえず皆休みましょう。・・・あなた達も」
ナスティは背後で密談を開始しようとしていた竜樹と月龍を振り返る。
「遼を助けるために奮戦してくれたでしょう?宿の提供をさせて」
竜樹と月龍は顔を見合わせた。
「私たちは野宿になれてますし」
「俺はともかく月龍、お前は休んどけよ。・・・輝煌帝の力をふんだんに使ったんだ。ゆっくりしとけ」
「2人とも来いよ」
秀が声をかける。竜樹は眉をひそめる。秀はそんな竜樹を見る。
「・・・別にお前をどうしようってわけじゃない。遼を助けてくれたんだし、ナスティの言うとおりだ」
竜樹と月龍はまたも顔をあわせる。腹を決めた。
「お世話になります」
「俺はもう一回だな。よろしく」

新宿では妖邪門の痕跡も無く静かに動き始めていた。

2人の金剛その3 2人の金剛その5