AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

交わる光と闇 2人の金剛その3

ドアの向こうは、闇だった。
何も見えなかった。月龍は歩を進める前に竜樹から懐中電灯を借りた。竜樹は背後を警戒しているので、前に渡す形となった。懐中電灯は順に渡され、征士が月龍に渡す。
だがライトは役に立たなかった。天井にも壁にも当たらず、光は闇の中に吸い込まれた。それだけ広いのだ。
竜樹に懐中電灯を返すと一歩進む。この時、足元に輪が出来た。同時に部屋が明るくなる。
床のものはどうやらセンサーのようなものらしい。
「どういう仕掛けだ?」
続いて入った征士が言う。無理も無い。この時代、光センサーとかそういうのはまだ開発されていないのだろう。
月龍は一歩進む。そのたびに部屋の明度が上がる。完全に明るくなると、目の前の存在を見て全員が目を丸くした。

「虎人間?」

最後に入ってきた竜樹も目を丸くする。
「お前以外にも虎人間が居たのか?」
当麻が質問する。が、竜樹は答えられなかった。
そんなはずない。自分以外の虎人間は存在しない。
パラレルワールドのものだろうか?
月龍はかつての神父の科白を思い出した。
-----「私は貴方だ」
神父はそういっていた。神父もまたパラレル世界の住人であった。

相手はそんな彼らをゆっくりと眺め、2つのポイントで止まった。目が細くなった気がした。
視線の先は秀と竜樹だった。
秀と竜樹は相手が自分を見たことに気づく。
「ウェルカーム」
虎人間は楽しそうに、愉快そうに笑った。ナスティと純はその声にゾッとした。白炎が2人の前に立ちはだかって唸る。
この虎人間は普通じゃない。
虎人間だからではない。征士と伸は同じ虎人間でも竜樹とは違う存在であることに気づいた。竜樹は冷静に常に征士と伸をカバーしてきた。が、相手の視線が殺戮を楽しもうという表情で覆われている。さっき月龍が入ってきたとき、隙だらけだった。その気になれば虎人間は真っ先に月龍を消すことも出来たはずである。あえてそうしなかったのは、己の力量に絶大な自信を持っていたからなのか。
「よくここまで来たなぁ・・・」
虎人間は月龍を見て言った。
「あいつの気配が薄いが、お前がやったのか?」
遼は相手の声が竜樹に似ていることに気づいた。だが竜樹とは決定的に異なる部分があった。目である。眼前の虎人間は茶色いのだ。竜樹は碧眼というものだろうか。青であった。
「あいつ?」
月龍は眉をひそめた。
「K/J/0267号だよ。お前と同じそこの青い鎧のクローンだ。神父のような格好をした奴だよ」
これには全員、さらに竜樹すらも驚きだった。神父もどきが月龍自身じゃないのに安堵したが、当麻のクローンであるのは驚きである。竜樹の世界ではクローニング計画での被験者は月龍以外死亡したのだ。となると、やはりパラレル世界の者なのか。
「なんだぁ?知らなかったのか?お前、教えていないのか?」
虎人間は愉快そうにくっくっくと哂った。月龍は顔面蒼白だった。当麻は月龍を見て、信じられないという表情だった。
「まあいいさ。お前ら全員ここで朽ち果てるだけだ。あいつは世界の統合で鎧のない世界を望んでいたが、まずお前らを片付けないといけないな」
月龍は翔破弓を呼び出した。
竜樹も構える。
鎧戦士たちもそれぞれの武器を構えた。

虎人間はそれを見て「無駄だ。お前なら知っているだろう?改造に改造を重ねられたこの身に効くはずがないんだよ」と竜樹に向かって言った。
「どういう意味だ?」
竜樹の問いかけへの答えは、その場に居た全員の気を逸らすには充分であった。

「俺はもう1人のお前だよ」

言い終わった瞬間、虎人間は一瞬で消えた。
次に現れたのは伸の背後だった。
「うぁっ」
伸が背後から拳を食らう。鎧を着ていなかったらアウトだった。虎人間の拳が軍の重装備でも粉々に出来るのは、竜樹自身が実証済みだった。
「伸!」
遼が駆け寄る。虎人間は遼を捉え拳を振り上げてきたが、当麻の矢に気づくと伸から離れた。
鎧のエネルギーは物質世界とまた異なるのだろう。月龍は伸の無事を確認し、キリスト教の世界観を思い出した。
「この野郎!」
秀は虎人間に大地のエネルギーをぶつける。が、効かなかった。
「ダメだ。あいつ、土属性に耐性があるんだ」
「そのとーりよ」
虎人間はニヤニヤしながら詰め寄った。そこに征士が雷光斬をぶつける。が、それでも効かない。
「そんなバカな」
驚く征士を、虎人間は手で軽く払う。ナスティと純の元まで飛ぶ形となった。かなりの力に、秀はあ然とする。アラゴ以上なのか?ムカラレベルか?
「お兄ちゃん!」
「征士!!」
2人が駆け寄る。当麻はこれを見て、鎧の力に対して耐性があるのではないかと思った。だが、月龍が否定する。
「それはない」
「何故だ!」
「竜樹のことを知っていますね?・・・いくら改造されたからって、鎧の力は精神的なものなのです。物質的に効かないならともかく、伊達さんの雷光斬まで効かないのはおかしい」
「あいつ、鎧の力でもあるのか?」
「そうとしか考えられません。・・・あのK/J/0267号とかいう神父もどきがどこかにいるかもしれません」
それでも何故彼がここに居ないのか。何故虎人間に任せているのか。月龍は不思議に思った。当麻も同様の思考に至った。

月龍は周囲を見た。部屋の中はかつて連れてもらったオペラ劇場くらいの広さらしい。
ちょうど普通の洋間が拡大したらこうなるのだろうか。
先ほど虎人間が居たところをみて、何かが光っているのに気づいた。その光からは波動が伝わってきた。

------あれは。

月龍は気づいた。『停止』の呪いの『仕掛け』がここにあった。その光は「椅子」だった。「古代」のものらしい。確かに「時間」に関係ある。
月龍は動いた。だが虎人間も月龍が呪いの仕掛けに気づいたのを見た。
一瞬で月龍の前に立つ。
「お前の力を動かされるとまずいからな。あいつの分も含めてお礼しよう」
言い終わると虎人間は拳を挙げる。月龍は衝撃を覚悟した。一応天空の鎧を纏っているので、伸のように地べたに転がるくらいだ。
一瞬で判断し衝撃に耐えるべく構える。
「月龍!」
誰かが叫ぶ。同時に鈍い衝撃音がした。
月龍はそれでも自分が倒れていないことに気づいた。
「早くしろ」
声をかけたのは青い眼の虎人間であった。竜樹だった。シャツが「変化」で破れていた。茶色の目の虎人間は竜樹の前で倒れている。遼たちはあ然と竜樹を見ていた。秀は目を丸くして従弟を凝視していた。
「ああ」
うなずいた月龍は竜樹の背後を回って、椅子の仕掛けを解く。竜樹は倒れている虎人間が月龍に危害を加えないよう見ていた。
月龍は椅子の上に浮かぶオーブに触れる。腕に刻まれた模様があたかもインクが水中に漂うかのように空中に浮かんで消え、輝煌帝の力が動いたのを感じた。月龍は鎧ギアからアンダーギアに戻して自分に封印をかけ、ホーリーロッドを取り出した。それを見て当麻が目を丸くする。
「え?女の人?」
遼も目を丸くした。見る間に月龍の身長が縮む。骨格まで完全に女性になっている。鎧が消え、何やら服に変わる。秀はそれを見て、昔の大陸の服に似ていると思った。月龍の手元が光り、杖になる。それはかつて見た迦雄須一族のシンボルであった。月龍は杖をかざすと唱えた。
「リザレクション!」
白い光があふれ、傷や痛みが癒えた伸や征士が驚きの表情で立ち上がる。遼も自分の背中が熱く、それでも不快なものではないことに気づいた。人型に戻った竜樹の服も戻る。無機質有機質を問わず全てが戻るとはかなりのレベルである。遼は同じ輝煌帝の資格者でありながら月龍の「素質」が自分と異なることに気づいた。
竜樹は感謝する間もなく身構えた。虎人間が脳震盪から立ち直ったようである。起きると視線を竜樹にターゲッティングしたらしい。
月龍は少し離れて竜樹に防護壁を作る。相手が竜樹を狙った以上、竜樹一人をカバーすればいいのだ。
だが竜樹は虎に2度と変化しないため、虎人間の猛攻撃を受けて防戦一方となった。当麻が気を散らせるため矢を打つ。当麻の狙いは当たったらしく、虎人間は鬱陶しそうに当麻を睨みつけた。ナスティと純を巻き添えにしないように虎人間を対角に引っ張る。
当麻の狙いを読み取って月龍は即座に全員に防御壁を作った。対象が全員なので、やや長めに詠唱する。
「グォオオオオオオオォォッ!」
虎人間は月龍を葬ることも出来ず、しかも同じ虎人間に邪魔されたことにも腹を立てていた。さらには天空の継承者にも邪魔された。
月龍は虎人間の抗議の鳴き声に顔をしかめながらも虎人間の防御壁を解くべく尽力する。防御壁が張られているという予想は大当たりだったようで、虎人間は遼の刀を受けてもんどりうった。

2人の金剛その2 2人の金剛その4