AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 2人の金剛その2
それにあれとやりあった時、痛手を与えましたし。
月龍は後の時代で起きたことを述べた。継承者の祖先を守るために神父を時空間に追い込み、深手を負わせた。
秀は「ああ、その傷か。あいつ、廊下で見た時怪我しているようだったけど、あれ、お前がやったんか」と納得した。
「なんつーか、俺、日本のやつで戦国武将のアクションゲームを遊んだことあるけど、こういうのって戦国武将マニアの羨望の的じゃね?」
月龍に「じゃあ、お前やってみるんだな。祖先たちを死なせないようにってのは結構大変だったんだぞ」と言われ、竜樹は黙った。何でもゲームと比較するもんではない。従姉の叱るような視線に竜樹は小さくなるだけだった。
「信之?おにいちゃんのご先祖って、幸村じゃなかったの?」
純が訊く。
「ゆきむら?」
「正式には真田信繁というんだけど、一般的には幸村で通用しているわ」
ナスティが丁寧に解説してくれる。
「どこでどう伝わって・・・まあ、いい。その真田幸村、さん、の子孫が仙台に行ったのは知ってますね。その子孫の娘が徳川政権下、伊達の家臣の名前で信之さんの子孫に嫁いだのです」
途中つっかえそうになったが、時空間で感じた「血脈」について何とか純に説明した。
「そういうことか」
征士は目を丸くしながらも納得する。一応真田家については知っていたが、初めて会った時遼は山梨の出身だと言っていたので違うと思った。だが、山梨は幸村ではなく兄・信之の家系の守備範囲だ。長いこと妙な話だと思ったが、月龍の話で納得した。
「真田さん、幸村の子孫だって言っていたんですか?」
「みたいだな」
「はぁ・・・どこかで兄弟の名前が入れ替わったんですね」
伊達家の情報操作のこともありますし。無言の征士の傍で月龍は納得するかのように言った。
伸はナスティの膝枕で寝ている遼を見た。
「俺は誰とつながってんだ?」
秀がうーんと唸って訊く。竜樹は無言のまま親指で月龍を示す。月龍は竜樹の親指を引っ込めさせた。
「私はパラレル世界の者だ。この場合、こっちの親族を示すべきだろう」
「秀の親族で鎧の継承者というのはいないのか?そっちの世界では」
2人のやり取りを見た征士が言う。
「・・・一応『冷泉志信』という人がいるけど・・・」
「誰だそれ。しかもなんだか平安っぽい名前だな。『まろ』って奴か?」
秀の科白に、竜樹は脳裏の志信がずっこける様を思い描いた。本人が聞いたら「好きでこの名前をもらったわけじゃない」と人差し指をびしっと突きつけて異議を唱えてくるだろう。月龍も同じようなイメージを考えていたらしい。
「皇族にも連なるから仕方ありません・・・」
「え」
「藤原かたまり・・・あれ?」
「鎌足だ」
「そそ。鎌足という人間が始祖だって聞いたぞ」
ナスティが待ったをかけてきた。
「ちょ、ちょっと待って。金剛というのは大陸のものでしょ?何で皇族や藤原出身の人が金剛を継ぐの?」
「お父様が神戸元町の中華街の出身だそうです」
「あ」
秀は合点がいったようだ。神戸にも一応秀の親族がいる。もしかしたら従兄弟だろう。
「会ってる?」
「いや」
伸の言葉に秀は頭を振った。神戸にはあまり行かない。親父なら知っているだろう。
「・・・?」
伸は『冷泉』という苗字に違和感を覚えた。知っているような気がしたし、その苗字を持つ人物に会った気がするが『志信』本人だったのかどうか断定できなかった。
「そういえば、先ほど『レオンハルト』が烈火の鎧を継いだって言っていたわね」
ナスティは遼を起こさないように言った。
「それって、『レオンハルト=フォン=ロートリンゲン』のこと?」
竜樹と月龍は顔を見合わせた。
「そうですが・・・」
「知ってるのか?」
竜樹と月龍は自分達の世界に存在する柳生博士を思い出した。レオンハルトは柳生博士とは友人ではなかったような気がする。仕事上の付き合いはあっても、それ以上の付き合いは無い。
「知り合いよ」
ナスティによれば、数年前に湾岸戦争における会議で協力してくれた人物にそういう名前の人がいたという。
彼の助力のお陰で、湾岸戦争の後始末もスムーズにいった。
「こっちのあいつも物好きだなー」
月龍は竜樹をきっと睨むと、ナスティに向き直った。
「こっちは真田さんに無事渡せたようですね」
ナスティの膝枕で寝息を立てる遼を眺める。真田家が無事続いた証として彼がここにいると、今までの苦労が報われた気がする。『彼』も本望であろう。
ふと、遼が身じろぎした。
どうやらワクチンが完全に効いたらしい。
「あ、ナスティ・・・」
「おはよう。体はもう大丈夫?」
遼に声をかけるナスティを見て、月龍は竜樹の腕時計を見た。6時前だった。
「俺、ここに来てからずっと時計の時間を直してないや」
一応新宿に来る前に時間を見たけど、直すのも忘れてここにきたんだ。
そういう竜樹に月龍はうなずいた。
遼の顔色は完全に良くなっていた。竜樹と征士と伸を見て「来たのか」と言った。月龍は彼の笑顔を見て、ふとオーストリアの当主を思い出していた。
「ワクチンの方は心配ないな」
征士は神父もどきの出した条件を思い出した。ワクチンがあった以上、相手の条件はまったく意味を為さない。
「条件?」
初耳だと月龍は言った。秀はというと。
「あ、言ってなかったか」
当麻に最初から訊けば論理的な説明で条件も教えてもらえただろうが。月龍と当麻は相変わらず微妙な間をとっていた。間に立つ全員は、竜樹を除いて微妙な顔つきで見合わせていた。遼だけは事態を把握していないので、微妙な空気を感じても疑問を口にしなかった。
竜樹が代わって言う。
「秀の命をとるのが条件だそうだ」
月龍は秀を見た。
「そんな条件、FBI捜査官として飲むわけにもいかないっしょ」
竜樹は手をひらひらさせた。FBI捜査官として以前にこの世界の秀を殺しても「異世界」の竜樹にとって何のメリットも無い。
「・・・・・・」
秀は微妙な顔つきで竜樹を見る。視線を感じた竜樹は秀に向き直った。
「こっちの俺がどうするのか、あんたがどうしたいのか。それはあんた達の問題だ。俺の世界ではとっくに終わってしまっているんだ。・・・・・・文句を言おうにも俺達の世界の秀は4つで亡くなっているんだし、俺はその後で生まれたんだ」
俺達の世界では継承者が幼くして死んだ時点で俺の運命も決まってしまったんだ。だから生まれたのはどうしようもない。
竜樹はそういって肩をすくめた。
「秀が今後のためにこっちの俺を殺そうってんなら止めないさ」
秀は詰まったかのようだ。伸と征士の表情が険しくなる。当麻は眉をひそめただけだった。遼は何がなんだか分からないという表情で、成り行きを見ていた。
「ここまでにしとけ」
月龍が止める。
「真田さんの具合もよくなったし、さっさと脱出しよう。私が前を行く」
「ああ。・・・俺は後ろから行く」
竜樹は言いすぎたと思った。だが事実である。自分が居なくなった後、眼前の従兄が自分をどうするのか。そう思うと怖かった。
遼は竜樹に視線を移した。何が起こっているのか分からないという感じだった。やはりレオンハルトと似ていると思った。竜樹は遼にさっさと行くよう促す。
月龍が廊下を伺う。前から月龍、征士、伸、秀、純、ナスティ、白炎、遼、当麻、竜樹の順に歩く。
「・・・」
征士は月龍の背中を見た。先ほどは気がつかなかったが、彼の背中はがっしりしているようなそうでないような微妙な気配を感じた。
「?」
首を傾げつつも歩み続ける。伸はそんな征士を見ていた。確かに眼前の彼は男性だ。だが、近くで見ると奇妙な違和感を受ける。
竜樹たちが歩いた場所まで来た。
「・・・・・・」
月龍は曲がり角を曲がるまえに様子を伺う。
「何も無いな、行くぞ」
月龍は歩みを進める。が、ふいに足元がぐらついた気がした。
「おい、大丈夫か?」
「あ、すみません」
征士は月龍の腕を取った。彼の腕の細さに顔をしかめる。
「お前、ダイエットでもしているのか?」
「は?」
「征士、何を・・・」
早く脱出したいのに、何故?
問いかける伸に答える。
「いや、何でもない。行くか」
月龍は眉を上げながら先に歩く。
-----まるでナスティのようではないか。
征士は彼の背中を凝視した。顔つきは当麻だが、体つきが違うような気がする。裸の彼は筋肉がきちんとついていた。かつて戦闘中に何度か抑えた腕も太かった気がする。
後に柳生邸に戻った後で征士は廊下でたまたますれ違った当麻の腕を握り、これまたたまたま通りがかった竜樹に「おれ、そういうの偏見ないし。うん、黙っておくよ。ワシントンでもそういう奴居るし。あ、でも、俺、女専門だから」と言われ、弁解する暇も無く逃げられた。
「このドアを開ければ次の間に行くと思うが・・・」
月龍は今までの話を思い返していた。背後を見ると征士と伸がうなずく。竜樹が突っ込む。
「オープン・ザ・プライス!じゃねーけどな。とっとと開けてくれ。もう後戻りは出来ないんだから」
月龍はおもわずドアを持つ手を滑らせるところだった。
「あのな」
それを言うなら「オープン・ザ・ドア」だろと月龍は竜樹の科白に突っ込みたかったが、竜樹の言う通りなのでさっさとドアを開けることにした。月龍以外の全員はというと竜樹の科白に眉をしかめただけだった。この科白で有名な番組はこの時代にはまだない。
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