AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 2人の金剛その1
月龍は眉を上げたが、とりあえずは別の話をすることにした。
現代に帰ろうとしている時に引っ張られたが、竜樹にはそういうのはなかったのか。
「引っ張られた?」
「・・・戻ろうとしていると、引っ張られるんだ。最初はあの神父もどきの奴がやっているかと思ったけど、そんなことをしたら私が邪魔をするって分かりきっている」
そうなると、誰かまったく別の人がやっていると思うんだ。だが、それらしい人物は見かけない。
「俺はまっすぐこの時代に、昼間に着いたんだが・・・」
あれからもう12時間は経っている。竜樹は長いようでいて短い時間であることに軽い驚愕を覚えた。竜樹が記憶をまさぐる傍で当麻がやっと口を挟む。
「お前はどこに着いたんだ?さっきは時間を遡ることができると言っていたが」
「・・・分かりません。その時代の人が着ていた服は、原始くらいだった気がします」
「かなり昔に飛ばされたんか」
竜樹が目を丸くする。ナスティたちも同様だった。
「ああ、最初は原始くらいで、この後は義経さんとかの時代に行ったね」
征士は眼前の人物が歴史上の人物を「さん」づけで呼ぶことに違和感を覚えたが、時空を渡って実際に会っている以上当然だろうと納得することにした。
ナスティと当麻は月龍の言葉に目を丸くした。
「あ、あなた、実際に会っていたの?」
「好きで行ったんではないです」
苦虫を噛み潰したような月龍に、秀と伸は「?」だった。
「義経さんのは不可抗力でした」
戻ろうとすると引っ張られ、しかも着地に失敗して義経さんに激突した。元の時代に戻ろうとしたら何故か壁が出来てしまい、あの神父もどきが何処の時代から引っ張ってきたのか龍と対戦する羽目になった。竜樹は説明を聞いている間、従姉を気遣った。
「随分ハードな経験だな」
「・・・2度と味わいたくない」
戻ったら、水晶の谷できつく封印しなおさないといけないな。今までは自分が保持することで他者による悪用を防ぐつもりだったが、これでは身が持たない。
月龍はげっそりとして言う。そして竜樹に向き直る。
「竜樹。・・・途中、何か怪しい物とか見なかったか?」
「? 何だ?」
竜樹は眉をあげた。月龍は腕を竜樹に見せた。
「術をかけられた。このままでは真田さんの傷を治せないんだ」
腕には模様が見えた。先ほど当麻が質問してきたものだ。竜樹はすぐに分かったようである。
「これは・・・呪いか?」
「『停止』だ」
月龍は時空間で起きたことを説明した。時空間を戻っている途中で神父もどきの仕掛けた罠にはまった事について。
「・・・ということだから、おそらくこの時代にこの術を解く手がかりを残していると思うんだ」
「呪いっての、何だ?」
興味しんしんで口を挟む秀に月龍は馬鹿丁寧に説明をする。
当麻はその様子を見て、数時間前に「転移装置」について質問したのに教えてくれなかったなと竜樹を見た。竜樹は何故当麻が自分を恨みがましい顔で見るのかその理由を思い出そうとしたが、記憶の彼方に置き去りにしたため思い出せなかった。
「輝煌帝の力の一部で、まあ、色々『害を為す』ものですね」
人を助けるものもあれば、逆のものもある。これは条件を織り交ぜることで特定のターゲットを停止させることが出来るのです。
「ターゲットは相手自身でも良いし、相手の命でもいいのです。私の場合、輝煌帝の力を『停止』させたようです」
封印するのとは違う。封じられたなら別の手段で解くことも出来る。だが、『停止』の呪いは『動かす』ことで解けるのだ。
「だから、どこかにそういう『仕掛け』があるはずなんだ。分かりやすく言うなら時計の軸回しみたいなものだな」
竜樹は壁掛け時計の裏の軸を回す仕草をした。それを見て秀は納得した。
「時間そのものを止めた形なので、『時間』に関するものが『仕掛け』だと思います」
「そういっても・・・時間といえば時計だが・・・」
「時計台があったけど、あれは違うかな」
腕を組んだ征士の傍で伸は、当麻の質問に答えた事を思い出した。あの時の時計は2時1分だった。だが、竜樹は否定した。
「それはない。呪いってのは、相手に分かりにくくするもんなんだ」
あんな目立つところに置いたら、月龍の傍で見ている俺が気づくはずだ。かけた人間とかけられた人間が誰かまでは分からないが。
「柳生博士、真田さんの具合は?」
月龍はふと遼を見た。さっきから静かだ。だが、ナスティは軽く微笑んだ。
「大丈夫よ。寝ただけ。熱は高いけど、息は静かよ。・・・ナスティでいいわよ」
いろんな意味で軽くうなずくと、竜樹に向き直る。真田さんが復調したら、一旦退こう。そう提案しようとした。
だが、征士が首を振った。伸と竜樹も同様だった。
「無理だ。妖邪門には戻れん」
どうやら妖邪門からは一方通行で、扉を閉めた後は戻ることは出来ない。
「抑えられなかったの?」
「そんな事考えもしなかったよ。ああいうの初めてのケースだし」
肩をすくめる竜樹の傍で、伸も言った。
「以前の妖邪門は往来が簡単だったけどね」
「妖邪門自体が罠だったというわけか」
当麻がやっと口を挟む。こっちから入った門も閉じられた可能性はある。向こうからは入れても、こっちからは戻れないように仕掛けが施されているようだった。
「前進しかないということだな」
「そうですね」
2人の天空の言葉を元に、遼の復調をまって行動を再開することにした。
竜樹はしばらく月龍と今後のことについて話していた。そこに征士が加わる。
当麻はモニターの前の椅子に座ってぼんやりとモニターを見ていた。伸はそんな当麻を気遣って傍に座った。
ナスティは遼が起きないように腰をずらしたり足を組み替えたりしている。純は秀と「大丈夫だよね」と話していた。もちろん、竜樹には聞こえないように。(虎人間である竜樹はしっかり聞こえていたが、あえて聞こえないフリをした)
当麻がモニターから目を離すと竜樹と月龍に訊いた。何故か征士が彼らの会話に加わっているのかが不思議だったが。
「そういえば、何で狼人間というか、神父もどきは遼を狙ったんだ?輝煌帝の力が狙いとは思えないが」
遼の命を狙った理由はなんだ?
竜樹は森の中の狼人間を思い出した。
「輝煌帝を使う相手を減らすためじゃないか?」
イラク戦争の経験から竜樹は軍事網を思い浮かべた。リーダーを討てば指揮系統は混乱する。軍隊を相手にする戦争と一騎当千のトルーパーたちを一緒にすべきではないだろうが、そうとしか思えなかった。
「月龍と遼とが結託したら、向こうにとってはいわゆる2対1になってしまう」
だから遼も狙ったのではないか。
竜樹は結論付けようとした。正解だったようである。
「竜樹の答えが正解です」
月龍が保証した。輝煌帝を使える相手は少ないにこしたことはない。
「けど、変だよ」
伸が言う。
輝煌帝はすでに何年も前に消えた。秀は伸を見た。かつての記憶が彼の脳裏に浮かぶ。
「確かにだな・・・」
「いや、私がいたからではないかと思います」
さっきナスティから聞いた話から月龍は一つの可能性を出した。
万が一私が居なくてもこの時点で「輝煌帝」を継承できる人間が居れば、彼にとって脅威であるのは間違いない。
こちらの世界の輝煌帝が消滅しても月龍が輝煌帝の力を手に入れたままこの時代に来てしまったら。
月龍を消滅させることに成功しても真田遼がいる限り輝煌帝は彼を主とする。神父もどきが輝煌帝を使えるのは確かでも、「存在する世界」の異なる「同じ力」を二重に持つことは出来ないだろう。
「不確定要素だが、『停止』の呪いをかけられたのはこのためじゃないかな」
「・・・なんで命をとらなかったんだ?」
征士の疑問に竜樹は肩をすくめるだけだった。
「同じ輝煌帝を使える以上、命を取ることは出来ないでしょう。さっきも言いましたが、私自身が『時空間』の中で消滅したら輝煌帝は真田さんの元に真っ直ぐに行くことになります。輝煌帝の力を利用しても失敗すれば自分に跳ね返ってきますからね。『仕掛け』が必要な『停止』の呪いを罠として利用したんです。・・・失敗しても『仕掛け』が壊れるだけで自分に跳ね返ってこないですし」
自分の身を危険に晒す真似は出来ないですね。
月龍はそう答えた。
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