AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

天空の彼方―月龍編― 奥州の黄昏-1615年-7

遠くを見るような神父の隙を見逃さず、黒いボールをぶつける。が、神父はいつの間にやら結界を張っていたらしく、にやりと笑う。
「・・・・・・戦闘において物思いに耽るのは禁物でしたね」
光の矢を落としてきたが、月龍もまけじと結界を張る。

「同じ自分」である以上、「光」と「闇」の力は拮抗している。
だが、「違う自分」なら。

月龍は封印を解いて天空の鎧を纏った。
相手は再びの青い光にたじろいだようだった。

その隙を見逃さず月龍は翔破弓を向ける。弦の無い翔破弓に光が集まってしなり、眼前の敵に風のエネルギーをぶつけた。
先ほどは「光」と「闇」の力のために天空の鎧の力もさほどダメージを受けなかった。では、「純粋な」天空の力なら。「光」と「闇」の力の影響下に無い天空の力なら。

神父もどきはまたかと言わんばかりに呆れたかのような雰囲気で避けようとした。
「ぐぉおおおおおおおぉっ!」
彼の悲鳴が響く。避けたためにエネルギーを真正面から受けなかったが、それでもかなりのダメージがあったようである。
「貴様ぁっ」
月龍を睨みつける。今度は黒い槍が出てきた。月龍めがける。月龍は結界を作りそのまま受ける。黒い槍は当たることなく拡散した。
「何?」
今度は神父もどきが驚愕する番だった。
月龍は再び翔破弓を構えた。それを見た相手は光の矢を落とそうとしたが、やはり効かなかった。
今度は普通に射る。それでも神父もどきには効いたらしい。先ほどのダメージが響いている。
神父は体に刺さった矢を消す。そして、渾身の力で時空間の穴を開けて飛んだ。
「待・・・」
月龍は穴をふさごうとしたが、神父の方が一足早く抜けてしまった。

-----逃げられた。

すぐに後を追おうと思ったが、政宗のことが気になったので一旦戻ることにした。遡り過ぎないように時間を調整する。戻った先で重長がいるかもしれないので一応封印をかける。


「月龍殿っ!一体何が・・・?」
元の場所には重長がいた。結界が消えた後に転がる主君を見て、かなり動転している。
「政宗さんなら大丈夫です。あなたは無事ですか」
「は、何事も無く。木の傍に行ったとたん、殿や月龍殿の姿が消えたのですが」
何度かあたりをうろついたが結局見つからなかった。ちょうど信繁殿の娘御が脱出してきたので、彼女をすぐさまに伊達の陣の配下にゆだねて隠しておいた。
「どうやら出火のために遅れていたようです」
「そうですか」
ひとまずこれで烈火の継承者も助かった。重長は政宗が出てきたのはその後だったという。
そこに政宗が目を覚ます。怪我はないものの痛みが酷いらしい。
「いっつぅー・・・」
政宗は重長と傍にいる月龍を見る。
「どうした?そういえば、月龍。あの奇妙な輩はどうした?」
「何とか撃退したよ」
「殿!一体何が?」
「重長。子孫に仇なす悪しき輩を撃退しただけだ。娘御は無事脱出したか?」
「は・・・はっ。只今保護してございます」
「戻りましょう。後は毛利家をどうにかするだけだから」
政宗は月龍に向き直った。
「毛利家さえ済めば、私の子孫は鎧を守るものとして後に続くのだな」
「はい」
「・・・光輪の鎧が今この場にあったら、すぐさま馬を返して徳川に雪崩れ込むことも出来るのだがな」
遠くにわずかに見える徳川の旗を見てシミジミする政宗に、月龍は眉をあげただけで何も言わなかった。

絶対言わないぞ。ああ、言いませんとも。

重長は二人を見て「?」を頭に浮かべたが、直前まで伝令から受けた戦況報告を報告した。
「大阪方の滅亡は明白です。すぐに陣にお戻りください」
重長は月龍と一緒に政宗を運んだ。政宗を何とか馬に乗せると月龍は徒歩で手綱を引く。
「女子に馬など・・・」
月龍の正体を知らない重長は慌てて言ったが、政宗に「いいんだ。おぬしは戻って軍をまとめておいてくれ」と言われて一足先に戻った。こっそりと呪で回復させたので、政宗は馬に乗れるほどになった。
「しかし何故こうも『鎧』というか摩訶不思議なものが出てくるのか」
「そういえばそうだね」
月龍は先々に見える屍を避ける。戦はもはや収束しつつあるらしく時折一休みをするかのような兵士もいたが、旗印から徳川側のものだった。
「そういえば?おぬしもその継承者だろう?天空の継承者だと聞いたが」
「残念ながら私は本家じゃない。いわゆる複製ってやつかな?『人間の複製』というのが未来ではあるよ」
「・・・人間を複製?双子腹とかではないのか?」
政宗は地元農民に生まれた双子を思い出した。一気に男二人も生まれたので、労働の手が増えたと喜んでいた。
「そんな可愛いものじゃない」
人間を完全に複製する技術があるが、そもそも複製された人間は果たして『本人』であるか?双子とかなら親から授かった各個の名前や個性もあるだろう。人工的に複製された人間は顔の形、髪の毛や爪など何もかもがまったく同じなのだ。
「そこまで『同じ』なのか」
政宗は自分がもう一人いる様を思い出して絶句した。徳川家康には影武者がいるといううわさを聞いたが、双子の兄弟だという話もある。
「・・・未来とは、げに恐ろしきものなのか」
政宗は続いてこう言った。
「先ほどの奇妙な者、もしかして誰かの複製なのか?」
未来からの来訪者なら、イスパニア、つまりスペインの服を着ているのも分かる。目の前の月龍とて今でこそアンダーギアだが、初対面は似たような服だったのだ。
「・・・鋭いな」
「それくらい鋭くないとこの時代生き残れないからな」
その言葉に月龍は納得した。
「私と同じ複製だ」
「お前の?だがお前は複製だと・・・」
「本家というのが同じなの」
そして彼は本家を非常に憎んでいる。正確には金剛の一族そのものだが。クローンとかオリジナルとかそういう言葉はこの時代には入っていないから説明が大変だ。
「あ奴、自分が誰かの複製であることが気に入らんのか」
「というか、『過程』というのが気に入らない」
月龍は一族の暗部を説明した。人間の複製を行うことで鎧の継承者を人工的に作ろうとした。そのために沢山のヒトや村丸ごとが消滅した。政宗は馬を引いている女性から聞かされる話に愕然とした。生き残るためとはいえ弟に死刑の命令を下し、父親の仇討ちとして相手の領民を女子供まで殺した政宗である。が、この戦乱ではやむないことである。実際に豊臣秀吉は甥の秀次に死刑の命令を下した。徳川家康とて自分の息子を殺した。この時代は「生きるか死ぬか」である。肉親の情は邪魔なだけである。
なのに、伊達家が続き平和だと思っていた未来では、この摩訶不思議な力を欲するために絶対だという確定もないのに勝手に命を作り、勝手に殺す。しかも人間の複製までして。
「鎧というのはそんなにも罪深いものなのか」
「というか、人間自体が罪深いんでしょう」
月龍は徐々に近づく徳川の旗を見て言った。
「政宗さんは言ったね。光輪の鎧があれば徳川に雪崩れ込むことが出来るって」
「あ、ああ・・・」
合戦となれば一般的な鎧は光輪に太刀打ちできない。
月龍は屍に目を落とした。夕暮れが迫ってきていたので、泥だらけの屍は赤く血に染まったかのように見えた。
政宗も月龍につられて屍をみる。月龍は胸の前で十字を切る。政宗はそれがイスパニアでの弔い方であることを理解していた。
「こうして転がっている死体、普通に槍とか刺さってるよね」
「・・・・・・」
「光輪の鎧だと、死体すらも残らない位のエネルギーを彼らは浴びることになるんだよ」
彼らというのは徳川家康やその配下のことではない。名も無い一般の兵士である。この時代は混乱を極めている。だが、それでも「弔う」事だけは誰でもしたいだろう。
「分かった。光輪は後の子孫に無事伝わるようにしよう」
「そうしてやって」
「・・・この後徳川の世が続くのはとっくに決まっている。政道への餞としては天下を狙い続けるし、隙があれば天下を取るさ」
でも、光輪の鎧は使わない。
政宗は夕焼けに染まっていく平原を眺めた。伊達の陣旗が近い。徐々に集まってきている。

月龍は政宗に向き直った。
「もう行くのか?」
「さっきは政宗さんの具合が気になったから戻ったんだ。あのバテレンもどきを追いかけないと。毛利家のことだけど、伊達さんからも何とかしてやって。一人だけでも助かればいいから」
西軍の総大将である毛利家については、志信から聞いている。水滸の血を引く志信本人が月龍の世界でも生きているので真田家のような目に遭うことは無いが、念のためだ。
政宗はうなずいた。「気をつけていけよ」と月龍に声をかけると、馬の向きを変えて陣に向かった。
それを見て、赤い黄昏に染まる平原から灰色の空間に飛んだ。

奥州の黄昏-1615年-6 始まりの終わり