AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

天空の彼方―月龍編― 奥州の黄昏-1615年-5

「誰が貴方を呼んでいるかは知りませんが、今まで邪魔をされてきましたのでここで終わりにさせていただきます」

-----強い。

月龍はとっさに判断し封印を解いた。時間そのものが操れない以上、眼前の神父もどきが月龍よりも上なのは理解できたのだ。
月龍の変化に政宗がぎょっとする。彼の前で封印を解くのは初めてだ。
彼の前では女性体で通している以上常に気をつけていたが、相手が相手なので封印を解く必要があると判断したのだ。
「気を抜くな」
容貌も「少し」変わった月龍は、政宗の動揺を一気に抑える。眼前の人物の迫力の効果もあったらしく、政宗はうなずくと向き直った。少なくとも月龍は敵ではないのだ。そう政宗は思った。雷光の鎧を自分の子孫に伝わるようにしているのだから、少なくとも自分にとっては仇なすものではない。
政宗は月龍がマカブインを瞬時に出したのを見、種類は違うがそれが「名刀」であることを見抜いた。英雄が持つようなものであると。月龍は果たして英雄なのか。政宗は神父もどきに注意を払いながらも、月龍の剣を見た。

神父もどきはこの瞬間を見逃さなかった。
上から光の矢が降って来る。それは流星のようであった。
光の矢を避けきれず、いくつかが体に刺さった月龍は痛みよりも驚愕を覚えた。傍では政宗も「うわっ」という科白と共に受ける。だが、怪我は酷くなさそうだった。それを見て光輪の鎧をまとっているという確信もあったので、ひとまずは神父に向き直った。幸いにして「光輪」の鎧には先ほどの光の矢に耐性があったようだった。
自分と同じ呪術が使える?
神父はというと月龍が政宗を見た瞬間に背後に回っていたようで、月龍を弾き飛ばした。
「あっ」
ダメージを背中に受けた。それでも思考は止まらなかった。それだけ驚きなのだ。
月龍同様に空間移動が出来るのか、竜樹と同じ虎人間だろうか?
だが、神父もどきは表情のない顔で否定した。
「虎人間ではありません。生粋の金剛の一族の者です」
孤児だったので、戸籍上死亡扱いされてそのまま実験体とされたのです。そもそも孤児院自体が一族の暗部の一つで、親を亡くした子供はそのままNGCに送られるのです。男ならば実験体、女ならば実験のほかに子産みの機械として扱われるのですよ。
孤児院の言葉に月龍は眉をひそめた。レオンハルトが自分を孤児院に入れなかったのはそういう「暗部」を知っていたからなのか。ただでさえ失敗作として生まれてすぐに死ぬはずだった。改めて自分の幸運に感謝したくなった。
「貴方はなぜ鎧戦士に復讐しなかったんですか?」
「・・・・・・」
「出来ないのですね」
あまつさえは子を儲けるとはと、相手は政宗を目の端でとらえ、油断なく話す。政宗は斬りかかろうと思ったが長年の合戦の経験から相手の力量を理解したようで、今ひとつ踏み出せなかった。政宗は相手の実力を本能で感じた。生唾を飲み込み、目の前の相手から自分の身を守ることを優先したようである。
月龍としてはありがたかったが、それでも相手の能力が自分と同じだということにはいまだに理解不能であった。
相手はそんな月龍をみて、言った。
「では永遠に眠っていただきましょう」
月龍の周囲に黒いボールが集まった。月龍はとっさに逃げようとする。だが逃げ切れなかった。黒いボールは一瞬月龍の周囲に浮かび、その身を震わせたかと思ったら一気に月龍にまとわりついた。
「月龍!」
政宗がそれを見て叫ぶ。近寄ったが、黒いボールのあるフィールドに入ったため巻き添えを食う形となった。
黒いボールが体に密着してくる。体中が潰されるかのような感じがする。月龍は政宗が刀を取り落としてかがんでしまうのを見た。
月龍は腕がひしゃげるような感じを覚えたが、それでもこらえて立ち上がる。
これ以上、政宗を巻き添えに出来ない。アンダーギアとはいえ、やはり相手が自分と同じ力を持つ以上、鎧をまとうか呪力を使うかない。
月龍は神父もどきを睨みつけ天空の鎧を呼び出す。青い光が収まるか収まらぬかのうちに翔破弓を構える。
輝煌帝の力に天空の力を上乗せして集束させた矢を放った。
だが、神父は風と光のエネルギーの塊ともいえる矢を消した。
「な」
「この程度ですか」
手を振って同じ矢を返す。天空の力は無いが、それでも全ての属性を束ねる輝煌帝という力をみるに、この矢に威力があるのは確かだった。
一瞬払うか避けようかと思ったが、足元に転がる政宗を庇って受ける。
身に矢を受けながら月龍は今までの記憶を探った。だが、天空の後継者はオリジナル以外はいなかった。オリジナル本人かと思ったが、さきほど神父自身が言ったとおり、彼は金剛、つまり秀の一族である。何より月龍自身オリジナルと対峙している。天空のクローニング計画は月龍以外にも「数々の失敗作」を生み出し、結局は中止した。
なのに、何故?
月龍は政宗を庇いながら睨む。
「・・・・・・私の正体が気になりますか?」
神父もどきは月龍の不可解な視線を受けて、説明した。

私はあなただ。

月龍は一瞬相手の言葉の意味が分からなかった。
相手も「月龍」と名乗るものなのか?
「あなたは先ほどからこう考えているのでしょう。何故自分と同じ能力を持っているのか。何故自分と同じであるのか。輝煌帝の継承者は他に居ないと」
相手は月龍の表情を見て、さらに哂った。
「私はあの時に輝煌帝の力を得、あなたと同じ力を得たのです。私は『平行世界のあなた』なのです」
パラレルワールド・・・。
月龍は全ての謎が「平行世界」にあったのを見て、納得した。
真田家が断絶した歴史はそうだったから。
「この顔は、オリジナルと同じだったそうです」
あなたも男子として成長したらオリジナルと同じ顔をしていたのではないでしょうか。
神父もどきは続ける。
「私の場合、オリジナルの持つ能力は受け継げませんでした。その代わりにいろんな実験をやらされて生きました」
天空の継承者ではないが、顔もスパイなどで必要に応じて変えられるように皮膚を剥がされ筋肉が柔らかくなる薬を注入された。
月龍は反吐が出る思いで神父もどきを見据えた。

だが、その前に神父を「この歴史」から出さないといけない。
月龍はいったん天空の武装を解き、封印をかける。
そして輝煌帝の力を呼び出す。
相手は眉をしかめただけで、またも光の矢を呼び出した。

アンダーギア姿に戻るが呼び出した輝煌帝の力は天空の力を増やすだけだった。
あふれる天空の力を制御して、輝煌帝をもコントロールする。月龍にしかできない技である。

かつて鎧を憎んだ頃、後々の為にも輝煌帝を消滅させようとアフリカの奥地に向かった。そこに「光」は確かに在った。同時に「闇」もあった。
「何故この奥地に」と思った。「光」と「闇」はレオンハルトから聞かされていた「鎧」の形ではなかった。水晶に封じられた存在は、ひたすら「無」である。それを見て志信から聞いた「蛭子神」の誕生を思い出す。
両親の手違いで生まれた赤子は骨がなくぐにゃぐにゃとした蛭子だったという。また、養母からは盤古が天と地、光と闇を分けたという物語を聞いた。
この話は国産み神話なので月龍は目の前の存在がいわゆる蛭子神のようなものではないかと思った。
じっと水晶を眺めていると目の前の存在が話し掛けてきた。

奥州の黄昏-1615年-4 奥州の黄昏-1615年-6