AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
天空の彼方―月龍編― 奥州の黄昏-1615年-
次の時代で秀次の娘を祖母のいるところまで無事送り届けた月龍は時空を飛んだ。その時に神父もどきの気配を感じてうんざりしていたが、スルーするわけにもいかなかった。
だが降り立ったのは、見慣れない場所だった。
建築方法としてはかつて政宗の館で見たものだが、層がある。というのも傍に階段があるのだ。随分質素な階段だなと思ったが、戦国時代の日本と現代のオーストリアでは装飾以前に建築方法で差がある。
階段を見てシミジミとしていると、神父が背後に現れたのを感じた。
「伊達家の兄弟の血統は将来統合されるというチャンスでしたが、結局残念な結末と成りましたね」
振り向いた月龍は顔をしかめた。痛いところをつつかれたのである。
「もっともあのまま放っとけば、今ある伊達家はこうして茶臼山の向こうにいませんがね」
秀吉は生真面目な政道を評価せず、伊達家は奥州仕置による配置替ではなく完全に討伐されて滅亡していたと思いますし。
神父の論に月龍はあえて反論しなかった。政道は生真面目一辺倒だったので、あの秀吉相手に渡り合えるとは思えなかったのだ。むしろ「茶臼山の向こう」という言葉に惹かれた。
「・・・・・・ちゃうすやま?」
「ええ。面白いことに烈火や水滸の家系もいます」
傍にあった窓らしい枠から外を見た神父の科白に、月龍は眉をあげた。
水滸と烈火までも揃っている?そもそも何時なのだろうか?
「かの大阪夏の陣です。貴方が居た時代より少し後ですよ」
月龍の疑問に答える。政宗暗殺事件、関白秀次事件と渡っていたので、それより数年後という計算だろうか。
ちょうど豊臣家が滅びる時であり、面白いことに烈火と光輪の祖先が向かい合っている状態なのである。
神父もどきの説明に月龍はふと思い出した。
烈火を継承する真田家は、いつ滅びたのだろうか?月龍は烈火について知らない。月龍が生まれたときにレオンハルトが継承した以上、それより前には断絶していることになる。
「まさか」
「ええ。この時に真田家は、一族郎党子供も残らず処刑されます」
私としては喜ばしい話です。
そして神父は毒々しい雰囲気で吐いた。
「ついでに伊達家も当主に死んでもらいたいですね」
そう言って消えた。
「ま・・・」
神父の狙いは伊達家の断絶である。真田家の滅びはすでに決定された。後世まで残っているとはいえ伊達家も滅亡の危機だ。
月龍は急ぎ空間を越えようとした。そのとき、またも壁に当たる気配を感じた。
さっきは壁など感じなかったのに。
月龍は眉をひそめた。いきなり出来た感じである。
どうすればいい?ひとまず伊達家の者と合流したい。戦国時代については明るくないが、政宗が戦死や暗殺などなく今も生きているなら会って真田家を滅ぼさないようにしてもらわないといけない。
とりあえず人目につかないように行く。
どうやら中心部だったらしく、作戦会議の内容が聞こえてきた。
月龍はアンダーギアに着替えた。「封印」も同時に解いてある。アンダーギアでも鎧の力はあるが中華風なので、日本の鎧武者の中では浮くかもしれない。そう思ったがどうやら遠めには鎧を脱いだ青い着物に見えるらしく、すれ違った武者には咎められることもなかった。最初はこっそりと歩いていたが、またもすれ違った武者に腕をつかまされた。
ちょうど曲がり角で少し腰を落として猫背で歩いていたときだったので、一瞬部外者と思われたかと思った。
だが、相手の言葉は「しゃきっとしろ!武士たるもの最期まで武士であらねばならんのだ!」であった。
月龍は一瞬目を丸くしたが、武士は豊臣家は最後まで徳川に屈するわけにも行かない、そのつもりでやらないとこの戦は負けるぞと叱咤してきたので、うなずいて見送った。堂々と歩くことにしたが、なるほど、すれ違うものは皆堂々と歩く月龍を見ても何も言わなかった。
外に通じる門を見つけ、こっそりとジャンプする。アンダーギアを身に付けている以上どこからでも出られるが、出来れば伊達の軍につながるようなルートを探したかった。アンダーギアを身に付けた月龍と異なって、相手はごく普通のヒトである。月龍のように屋根の上にひとっとびというわけにも行かないのだ。
屋根を人目につかないように渡り、旗を確認する。
「誰か解説してくれないかな」
当然だが合戦の最中に解説する者は居ない。分かっていてもやはり色んな種類の旗が立っていると見分けが付かない。ちょうど使いっ走りだったらしい武士を捕まえて、「茶臼山」の在り処を聞いた。向こうはアンダーギアに驚いていたが、月龍に敵意が無いと分かると教えてくれた。
ちょうど正面にあったので走った。アンダーギアなのですぐに着く。
真田の陣であるかどうかを近くに居た武士に聞いたので、これまた驚かれながらも教えてもらう。どうやら陣の真っ只中だったらしい。よく見れば旗の種類は一族ごとに異なっていた。向かいにあるという伊達の旗が見難い。うっすらと見えるものもあるが、伊達家の旗の印というものを知らなかった。知らないといえばスパイ扱いされるので、遠望が利かないことを言い訳にした。
「伊達の旗が見えにくいけど、どれなんです?」
相手は月龍をいぶかしんだが、親切な人らしく丁寧に教えてくれた。
「おぬし、伊達の者か?」
「え?いや・・・赤の他人です」
血筋ではまったくの他人だが、この場で付き合いについて説明したらスパイ扱いされるだろう。
「あのバカ殿は何処にいるかなって思っただけ」
政宗本人が聞いたら闇討ちにしそうな内容を吐く。相手は伊達の当主について知っているのか、安心したかのように言った。気のせいか失笑しているようにも見えた。
「政宗殿ならあの奥です。見にくいでしょうな。旗はもう少し近づいたら見えます」
どうやらバカ殿というフレーズは完全に彼のキャッチコピーとなってしまっているようである。
笑いながら教えてくれる彼を前にして情けない気がしたが、月龍は何とかめまいをこらえてお礼を言う。武士はというと伊達の旗を見る月龍を警戒することなくそのまま歩いていった。
武士が居なくなったのを確認して、教えてもらった方角に向かう。
アンダーギアのお陰か、周囲の兵士は真田の陣から来た月龍を突風だと判断したようである。
「政宗さん」
呼ばれた政宗は月龍が別れたままの姿で出てきたのを見てあ然としたが、すぐに顔を戻した。年数のせいか少しふけていた。
周囲の武士たちは月龍を見て構えたが、政宗の反応を見てそのまま立った。月龍は封印をかけて女性体に戻っていた。
「おぬし、また来たのか?」
「いや、秀次の時代経由でここに来たんです」
政宗は秀次の名前を聞くと眉をあげたが、月龍が秀次の事件時にも来ていたことから未来に徐々に戻っていると判断したようだった。
「なるほどな」
「いきなりで悪いが、あの山の真田の人を討たないでやってくれませんか」
「真田?」
「殿!この者、真田の使者ですか!?」
政宗の傍に居た武士が真田の名前を出した月龍に警戒を強める。政宗は彼を制し、続けさせた。
「何故だ?向こうとてこの合戦は承知の上で九度山から脱出している」
「いやいや、その『歴史』の方じゃない。こっちの『未来の事情』って奴。知らない?光輪の鎧のこと」
「光輪?」
政宗は首をかしげた。そのような鎧は伝わっていないような。
「鎧の形じゃないらしい」
月龍は義経の時と同じように話した。
「そういえば、その摩訶不思議な鎧については聞いたことがあるな。・・・『光輪』ではなく『雷光の鎧』だが、我家に隠れて伝わっているらしい」
過去に雷神の加護を得たらしいので、真に継承する者が出てきたらおのずと何かの形で出現するという。
雷神かどうかはともかく、月龍は烈火についても話した。
「それと似たもので、烈火の鎧もあるんだ」
烈火の鎧の由来は知らないが、その光輪と同種でなおかつ未来の暗雲を払う役割を持っているんだ。
「あの信繁殿がその烈火の血統なのか」
政宗は少々驚いていた。無理もない。ただでさえ以前別れた月龍が秀次事件にも来ていて、さらにここに来ていたのだ。
その理由が自分の家に伝わる摩訶不思議な鎧である。
政宗は眼前の月龍を見て、「運命」という言葉を考えた。あれほど欲しかった未来の情報は、「政道の死」をもたらしたのだ。お陰で母とも一時的には不和になった。
自分のしていることが未来に続くのであればそれこそ結果として「運命」となる。「運命」という言葉は「物事を為して初めて後から付けられるもの」で、「今の状態」を決めることではない。
天下を取ることは政道へのはなむけでもあると思うし、その気持ちに変わりは無い。
だが、結果として取れず後の世に伊達家が滅んだとしても、それを「運命」というかどうかは後世の人間が決めることだ。
そこまで考えた政宗は向かいに居る真田信繁を思った。信繁も九度山から脱出したのは、もしかしたら「滅びの運命」に抗おうとしたのかもしれない。
事実、大阪方は徳川の臣下に下ることを良しとしなかった。それゆえ、この戦いは起こるべくして起きたというよりも、徳川家康が豊臣家から覇権を手にいれがたんがために方広寺鐘銘事件まででっち上げたと言ってもいいくらいであった。
この時天空の鎧は月龍が既に秀次の娘に渡してあった。最初は縁の木下家として、明治維新の後で羽柴の姓に改められた後で伝わっていくのだ。
天空の鎧については特に問題は無いが、やはり光輪と烈火の継承者の祖先同士が刀を交えるようなことだけは避けたい。
が、ここでも月龍が日本の歴史を知っていたら真田家については放置し、伊達政宗だけに集中すれば防げたことだろう。
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