AEON―鎧拾遺伝サムライトルーパー―

天空の彼方―月龍編― 奥州の黄昏-1590年-4

彼は月龍の存在を否と認め、間接的にとはいえ結局は死亡した。否とした理由は一族の奥底にあるものを感じたことである。月龍は好きで生まれたわけではなかったし、オリジナルに否定され殺されかけたという事実は拭えなかった。
竜樹がとどめをささなかったらと思った。

「おい」
物思いにふけていた月龍は政宗に呼ばれて我に返った。政宗は腕を組んでいた。
部屋の中は東側にあるのか、薄暗かった。それでも春が来ているのは、部屋に漂う陽気の名残から分かった。これから夏が来るのであろう。月龍が降りたときは蘆名氏滅亡の後だったのだ。
「兄上!まずこの女子を義姉上の元にお帰しなされ!」
政道は月龍が何故同席するのか理解できなかった。だが、月龍とて同様である。唯一考えられたのは「未来の者としての知識」である。
部屋の中はかつて義経の館でも見たような雰囲気で、客間というものであった。日本の客間というのは大抵南向きが多いのだろうか。それとも偶然であろうか。
薄暗くなってきた部屋で月龍はしばらく考えた。日本史を知らないので聞いてみることにした。
「・・・・・・政宗さん」
「なんだ?」
「さん」呼びに政道は「?」だったが、眉をしかめて兄を見るだけだった。
「小田原への遅参とはどういうことです?」
蘆名を滅ぼしてこうして領地を取ったが、北条については元々父の代から同盟を結んでいるため、小田原を責めるかどうかは決められない。
領地を取るという政宗の科白に月龍は特に何の感想も示さなかった。月龍自身オーストリアやスペインの歴史を知っているので、こういう覇権争いは日本でもあったんだなと思うばかりであった。もっともオーストリアは婚姻による領地の拡大を図っていたので、日本の戦国時代とは異なるが。
「このままでは伊達家は滅びるというのに、兄上は何時までたっても・・・!」
政道は月龍に愚痴るように言った。月龍は当事者ではないためなんともいえない表情になったが、伊達家と光輪のかかわりを知った以上どうするか判断がつかなかった。現状としてはあの神父もどきの出方を待つしかない。
「・・・やっぱり頭を下げた方がいいと思いますね。相手はもう統一をしているんでしょう?」
だったら、伊達家の存続を考えて出来る限り頭を下げておいた方がいいという案に、政宗はふーとため息をついた。
「兄上。私も賛成です」
「分かった」
もしここに冷泉家の当主のように歴史に強い人間が居たら政宗が考えていたことに気づいていたし、突っ込みの手を緩めなかったことだろう。月龍とて知っていたら同様の反応を取ったことだろうが、残念ながら知らぬまま関白殿下への謁見の準備がこれで進められてしまった。
後に彼がどういう行動をとったのかは後世において記録に残されることになり、「現代」に着いた月龍は柳生博士の文献の一部から小田原でのことを思い出して、しばらくは伊達征士の視線から逃げる羽目になった。

しばらく月龍と政宗と政道は豊臣秀吉に対する策を練った。もちろん、未来の記録はぼかしたままで。政宗はしかめっ面をしたが、政道は「未来のことなどどうでもいいでしょう。今は関白殿下に会いに行くことが先決です!!」と諌めた。
月龍はこの兄弟を見て、光輪の鎧の気配が何故二つに分かれたのかを考えた。
この二人の子孫が後に結婚をし、血統的に統合されるという可能性がある。
もしくは継承者が自分と羽柴当麻のように不確定だったために同時代に出ているという可能性もある。
月龍自身現代でもつい最近まで領地拡大やつながりの為にいとこ同士の結婚が行われていたのを知っている。だから前者の可能性は大いにあるし、それならば神父もどきから守ればいい。
だが、後者だったら?
月龍は羽柴当麻とのことを思い出した。妊娠して身動きが取れない時、彼は自分を殺そうとした。それを助けたのは竜樹である。竜樹は天空の鎧の力を受けて満身創痍だったが、何とか鎧の隙間を狙って射殺した。
この二人も何かの形で殺しあうのだろうか。

「秀吉への拝謁については、これでいいですな」
「ああ。取り急ぎ用意しよう」
では私はこれでと、政道が用意を整えるために退却した。月龍は彼の背中を見送ってから、伊達家の内情を聞いた。
「何でだ」
「この国のことをよく知らないから」
「・・・?分かった」
私が生まれる前からこの伊達家は周囲を敵に囲まれた。いわゆる群雄割拠である。それでも婚姻によるつながりもあり、母上は伊達の敵でもあった最上の姫で、父上にとついで私たち兄弟を儲けた。しかし最上の伯父上が母上を仲介として色んな干渉をしてくる。
「伯父上は今は小田原に居るので、やれやれといった感じだが」
ふと、政宗は言った。
「政道はああまで生真面目だが、伯父上に従順なのがどうもな」
もともと跡継ぎになれない次男坊だから伊達家で右腕とするのもありだが、あの才覚は惜しいものがある。
政宗はため息をつく。
「伯父さんと仲良くしているのが悪いのか?」
「・・・下手したら伯父と一緒に私を廃嫡するという手もあるからな。でもあいつはそうしない」
同母の兄弟としての情けもあるしな。
「まあ・・・兄弟ってのはいいもんですよ」
月並みだが月龍はそう思った。養兄とは年が離れているが休み時は一緒だった。目的が私の監視だったのかどうかは知らないが。
「夕餉が出来上がりました」
先ほどとは別の侍女が来て言う。愛姫付きではない。どうやら母親のお付きらしい。
「ああ、母上もいるのか」
政宗は彼女を見て言った。今度は月龍に向き直る。
「お前の分は愛に用意させてある。会津の米は美味いというので、味わってくれ」

奥州の黄昏-1590年-3 奥州の黄昏-1590年-5