AEON―鎧拾遺伝サムライトルーパー―
天空の彼方―月龍編― 奥州の黄昏-1590年-3
「いいじゃないの」
「あの、もう・・・・・・」
「もう少し待って」
奇妙な会話であるが、月龍と侍女のものである。廊下の隅で座り込んで覗いてみたが、話は結局聞き取れなかった。侍女は聞き取れないのでもう戻りましょうと月龍に言っていた。
竜樹が居れば分かったものだがと、月龍は侍女の焦りを背中に受けながら心中舌打ちをした。音は空気の振動によるものなので天空の力を使えばどうにかなるかと思ったが、初めてのことで失敗した。レオンハルトに盗み聞きをしないようしつけられていたのだが、今回ばかりは裏目に出た。
鎧の正体が気になる。
月龍はレオンハルトによって「鎧」から遠ざけられた生活をしていた。「鎧」を詳しく知っているのは、日本の水滸と金剛に連なる志信と金剛の血脈であり烈火を継いだレオンハルトのみである。
志信は月龍や竜樹の件から一族を警戒して自ら継承することをしなかったし、レオンハルトも父方の神聖ローマ帝国皇帝としての血統を利用しようという一族の陰謀を感じて以降は烈火を真田家に戻そうとした。残念ながら真田家はすでに断絶していたが。
月龍は何故自分が天空を継いだのかと思ったが、NGCでの研究を見て納得した。クローニング計画の一端で、天空の鎧が伝わる羽柴家の息子の遺伝子をこっそりと取っていたのだ。羽柴家と言っても、直系ではない。秀次の血統から生まれている家系で、滅亡して数十年でその一人が羽柴の家を復興し徳川に服従しているのである。但し、羽柴の名前ではなく木下家である。
幕末に明治維新が起こり徳川政権が倒れると、「羽柴」の名前が表に出ることができた。
一族は志信のケースから天空と金剛の継承者を生み出そうとしていた。月龍は金剛の継承者になれるほどの器でなく、天空の継承者としてもあやふやなものだったので「処分」しようとした。天空の継承者としては成功していたが。
NGCで集めた情報はあくまでも自分と竜樹の出生のデータであり、鎧のうちメインである金剛と、天空しか知らないのである。
烈火についても真田家が無くなっている以上、レオンハルトも月龍に語るようなことはなかった。
水滸は冷泉家の記録で毛利家に伝わっていると知っている。
となればここの主が「伊達」を名乗っていてなおかつ鎧の気配を感じるなら、おそらく「光輪」ではあるまいか。
月龍は記憶を辿ってみた。
前回は金剛で、今回は光輪。・・・その前は輝煌帝。
鎧の継承者が関わっているのはあの神父もどきによるものである。
次回はのこる水滸か天空か烈火か。
月龍は記憶の引き出しを開けたり閉まったりしてなんとか結論を出した。
ただし、今回だけはあの神父もどきの気配がまったく無いので、正解だという保証はないが。
「何をしてるんだ」
月龍はあれこれと記憶のタンスを開けたり閉めたりしているうちに、政宗が廊下を歩いてきたのに気づかなかった。侍女は教える暇もなかったらしく月龍の後ろで頭を下げている。政宗はとくに怒るわけでなく男性を背後に従えている。年のころは20くらいであろうか。政宗と異なって柔和なイメージがある。背後の男性は自分達を見上げる月龍を見て政宗に質問した。やはり、月龍の服装のせいである。
彼の視線は月龍をいぶかしむようであったが、不快なものでもなかった。政宗に対して「また何やら妙なものを拾ったな」と言わんばかりのものであった。妙なものを拾うクセでもあるのだろうかと、月龍は政宗を見る男性の視線から政宗のクセを推察した。
「兄上、この者は?」
「未来からの来訪者だ」
「・・・・・・」
背後の男性はまじまじと政宗の顔を見て、自分の手を自分の額にやって深いため息をついた。
「気がおかしくなったわけじゃないぞ」
「当たり前でしょう!」
まさか、この女性を使って秀吉を混乱させるツモリなのですか?
男性の言葉に今度は月龍があ然とした。
「私を秀吉と会わせるつもりか?」
冷泉家に伝わる記録によれば、秀吉は人の妻を寝取りまくったという。
詳しくは知らないが、仁将・レオンハルトにはとても聞かせられない話である。不貞を疑わない性格だろうが、それでもショックなのは間違いない。侍女が立ち上がる月龍を慌てて制止する。
「そういう意味ではない」
前と後ろからのブーイングを浴びて、政宗は顔をしかめた。
「お前ら、私を何だと思っているんだ」
「伊達政宗さん」
「兄上です」
二人の言葉に含むところを感じて、政宗はむっときた。客人は未来の知識から何やら悪いイメージを出してきたようだし、弟らしき男性は政宗の過去の行動(悪行?)から読んでいるようである。
「私とていくらなんでも未来の客人を使おうとは思わん!」
「は・・・」
男性はあっけに呆気にとられていた。そして今度は月龍をまじまじと眺めた。
「・・・月龍です。未来から来ました」
「は。弟の政道でございます」
月龍が苦虫を噛み潰して挨拶したので、おうむ返しに相手も挨拶した。これまた丁寧な人である。月龍は弁慶を思い出した。
弁慶は義経のこれからを思い、月龍に主君のこれからを問うた。月龍はそこまで詳しくないので、弁慶は大陸で義経の業績を語ることにした。それは次第にチンギスハンと混同され、伝説となっていった。
のち、クビライハンの配下の1人に弁慶に良く似た面差しの大柄な男が居たが、当時の者達は彼が何者であるかを知らなかった。ただ一つ分かったのは、片言とはいえ日本語を話せたことである。
「・・・・・・」
服装が自分と違うし、髪型も月龍の傍で必死で制止している侍女と異なる。政道と名乗った男性は兄を見た。
「二人を見ても分かるだろ?」
「はい」
侍女は月龍の傍で諦めて座った。
「顔合わせはすんだし立ち話もなんだから、部屋に戻ろうか」
仕切る政宗に二人、オマケに侍女も「?」だった。
政宗と政道が会談していた部屋に、月龍も通された。侍女は政宗に「愛のところに戻っていいぞ」と言われ、戻っていった。
「小田原への遅参は免れない」
でも、領地はどうにかしたい。そんな政宗には政道もくらりときた。彼を見て月龍は義経に対した時を思い出した。
「兄上・・・・・・」
いいからつべこべ言わずいきなされ!と政道は言った。
月龍は政道に同情の念を感じていたが、同時に先ほどからの「奇妙な感じ」を「2つ」も感じた。
光輪の気配が二人から漂ってくる。
金剛の鎧は一人だったのに対し、光輪は二人である。しかも政宗と政道の兄弟からだ。
どういう意味だろうか。
月龍は、かつて自分が天空の継承者と対峙していた事を思い出した。
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