AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午後4時36分 in 小田原

2009年11月25日改訂
神父もどきが居なくなった後の部屋には、重苦しい沈黙がただよっていた。
竜樹は神父もどきが消えたところをじっと見ていた。
そしてソファに座ると、両手で顔を覆った。竜樹以外の彼らは展開の速さについていけなかったが、征士だけは冷静に聞いてきた。
「私だけどうも状況がつかめないから、話してもらおうか?」

竜樹は顔を上げてゆっくりと語り始める。青い瞳にも男性として成熟した頬にも焦燥感があった。
彼が語った内容には、鎧世界を生まないよう奔走し続けるナスティも絶句した。

自分はある研究所の実験体として生まれたこと。
研究所の名前は「ニュージェネレーションクリエイト研究所」で、通称「NGC」という。
世界各地にあるというそこでは金剛をはじめとする鎧の継承者を生み出すため、人体実験が繰り返されてきたこと。
先ほどの狼人間はその人体実験のなれの果てであること。

「道理で、竜樹じゃなくて僕たち・・・正確には秀を睨んでいたわけだ」
伸は自分に向けられた狼人間の怨嗟の視線を思い出した。伸たち全員かと思ったら、真ん中にいた秀を見ていたのだ。鎧の継承者への怨嗟だと思えば不思議ではない。
「そんな話あるのか?俺の一族がそんなひどいことをするなんて」
「・・・実話だ。俺自身が『明らか』に『良い』証拠だ」
秀は息を飲んだ。眼前の人間がこの場に居るという事実が、彼を縛り付けたのだ。秀は自分の足元が崩れるのを感じた。秀の精神状態を察知した純がとっさに秀の腕を掴む。
「じゃあ、あの神父の格好をしていた人もその被害者なの?秀を名指ししたけど・・・」
ナスティはFBI捜査官だと名乗った眼前の青年が虎人であることに驚愕を覚えたが、先ほどの「神父」が秀を狙っているという事実にも頭がついていけなかった。
彼もまさか、竜樹と同じ実験体なのだろうか。
「それはない。断定できる。あいつは俺と同じ研究所の出身ではない」
もっともアメリカ合衆国内の話なので、他の国の研究所までは知らない。
そんな竜樹の言葉にじっと耳を傾けた当麻が割り込む。
「それ以前に、気になる事があるんだが」
「何が?」
「お前、竜樹なのか?」
この場合「秀の従弟である竜樹」を示しているが、この竜樹も意味が分かったようである。
「どういうこと?」
伸は腑に落ちない感じだった。
「さっき、あの神父は『昔』と言っていた。つまり、お前は『未来』の竜樹なのか?」
前半は伸に、後半は竜樹に向けていったものだ。
「俺のいた時代は21世紀だけど、柳生博士が俺より年下って事はない」
竜樹の「21世紀」という科白は、ナスティをはじめとして全員の脳天に衝撃を与えたらしい。
「・・・マジ?1999年の予言は嘘だったわけ?」
「ああ」
伸のつぶやきに竜樹が応える。もはや科白の内容を判断することも出来ないようだった。
が、竜樹にとってはそれよりも大事な事が別にあった。
-----何故いないはずの金剛の継承者が生きているのか。
横浜にあるという継承者の墓標はいわゆるダミーで、もしかしなくても隠されていたのだろうか。羽柴当麻が生きていることから、彼も密かに隠されて育てられていたという可能性はある。
もしかしたら自分がかつて射殺した当麻は、クローンだった可能性もある。月龍が羽柴当麻のクローンだったのだ。
鎧の継承者は血筋で決まるわけではないことは、すでにオーストリアの当主が証明した。
金剛の継承者としては血が薄い上に、烈火の家の血は一滴も入っていないのだ。
日本の養従兄によれば、日本に伝わる「精神」に適うものだけが資格を有するという。
「ワクチンはあの神父が持っているが、何処で手に入れたんだろうな」
秀は成長した従弟をまじまじと眺めながら言う。当麻はそんな秀を見ながら言った。
秀にとっても別の意味で一大事だったが、ここで果たして言っていいものか、判断に迷った。当麻も秀同様に気づいていたが、先ほどの内容から推察するに「この件」は触れて良いかどうか以前に、「触れてはいけない」ような気がした。持ち出したら、秀の一族のもっと暗い部分まで聞かされそうな気がしたのだ。
「竜樹の言っていた研究所にあるんじゃないのか?でなければこの日本のどこかにある支部を探せば・・・」
当麻の科白に竜樹は否定した。自身、アメリカでの情報しか知らないのだ。月龍も欧州と合衆国、カナダくらいしか知らない。アジア方面には京都の養従兄があたっていたが、養従兄について竜樹は口に出すのもはばかられた。眼前の秀麗黄が生きているということから、養従兄と会わせることで一族が何をしてくるのか分からなかったのだ。「現在」にいる養従兄が生存している以上、この時代で消滅させるようなことは避けたかった。
「アメリカ合衆国のモハーヴェ砂漠におおもとの研究所が隠されている」
「外国なら飛行機に乗って・・・あ」
竜樹の科白に、ナスティが答えかけて口ごもった。
『未来の竜樹』はパスポートを持っていない。おまけに遼自身の体に入ったウィルスが気がかりである。合衆国のモハーヴェ砂漠は日数的に遠く、手遅れになってしまうかもしれない。
竜樹自身、手持ちの道具には遠距離用のものがない。こればかりはお手上げだった。
月龍がいれば空間移動は簡単だろうし、この世界のモハーヴェ砂漠の研究所ならまだ在るからワクチンの一つや二つくらい入手できる。
目的は明らかなのに、手段がない。
もどかしい話である。
遼を助けるためなら神父の言うとおりの方法があるが、誰かを生かすために誰かを殺すというのは矛盾しているような気がした。
竜樹は再び両手で顔を覆って、ため息をついた。
八方ふさがりだ。
竜樹は「輝煌帝」の力を当てにしていないが、今回ばかりは月龍にすぐに来て欲しいと願っていた。

午後3時48分 in 小田原 午後5時52分 in 小田原