AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午後2時53分 in 小田原

竜樹の背後で狼人間が起き上がった。脳震盪だけで、たいしたダメージは与えられなかったらしい。が、竜樹は違和感に気づいた。
「あれ、狼人間だよね?」
伸は狼人間の異様さに気づいた。小学生のころ、物語に出てくるような狼人間を絵で見た。その絵は勇ましく、そして禍々しく描かれていたが、絵とはいえその体つきはいずれも生きているものとしての「生命力」があった。
だが、目の前の狼人間は違った。
生命力そのものがない。
「死んでいる」という印象を受けたのである。
伸の疑問に答えたのは、FBI捜査官であった。
「あれはゾンビってやつだ。あんたら、早く逃げな。家にこもっていた方がいいぞ」
「ぞ・・・」
狼人間をみつめる竜樹の淡々とした口調の説明に絶句する秀の背後で、純と当麻に抱えられた遼が顔をしかめて立ち上がる。治してもらった傷跡が引きつるようだ。
白い虎は若い主が無事なのを知って安堵したようだが、狼人間の殺気を感じては唸っていた。
この虎はどうやら竜樹同様に物事の本質を理解しているようである。
狼人間をどう排除したものやら。
竜樹は考えあぐねていた。
神父もどきが月龍本人かどうかはともかく、輝煌帝の力でマリオネット状態になっているのだろう。
月龍がいれば『輝煌帝』の力で消滅させられる。
しかし、彼女はそばに居ない。せめて雷呪が使えたらと思うが、竜樹にそこまでの能力はない。

竜樹はふと秀たちを見た。そしてぎょっとした。
先ほどは気づかなかったが、彼らはいつのまにか個々のスタイルではなくそろいの妙な服を着ていたのだ。黒い服のようなもので、かつて京都の養従兄の家で見た「かたびら」を彷彿とさせた。養従兄は公家の血筋であるが、武家の娘を正室に迎えることがあったので武家のものも伝わっていたのだ。
が、同時に月龍のまとう「アンダーギア」と似たような気配を、当麻からも感じた。
天空の鎧であった。
秀たちはFBI捜査官が自分達を見た瞬間に驚いたのを見て、その意味を読み取った。その「驚愕」の奥深い意味までは読み取れなかったが。
「俺らのことよりまずは狼人間をなんとかしようぜ」
「・・・ああ」
伸は狼人間を油断なく見ていたが、狼人間が竜樹の隙を狙ってきたのを見てとっさに竜樹を引っ張った。
狼人間の一撃は大きな音を立てて竜樹が居たところの地面をえぐる。その攻撃力はすさまじく、秀はかつての黒い輝煌帝の主を思い出して顔をしかめた。ムカラもブーメランでビルを切り倒したし、鎧ギアを着た遼と対等でもあった。狼人間の攻撃も、竜樹の言葉をそのまま引用するなら死んでいるのにも関わらず、どう見ても生身の拳である。鎧ギアでも耐えられるのかどうか。
「わりぃ」
竜樹は伸にそう言って体勢を立て直す。
狼人間は竜樹を潰せなかったのが不満らしく、竜樹に向かって突進してきた。竜樹は肩からナイフを取り出して構えた。組織規定のものではなく、用心の為に持ってきた聖剣である。名前を「ロッセ」といい、ひそかにロートリンゲン家が保持していたのを「正規の手続きでレンタルした」。
というか、月龍を守るために彼女の夫がわざわざ引っ張り出してきたのだ。彼としては竜樹に「デュランダル」を使って欲しかったそうだが、竜樹には扱えなかったのでやむなく封印した。そもそも竜樹自身はヨーロッパの剣術も日本の剣道も会得していない。養父から教えてもらった技術しかないのだ。養従兄を通して神戸中華街の道場に返した「龍淵(りゅうえん)」があればと思ったが、日本から持ってくるほどの時間は無かった。
そんな経緯の小刀だが、聖剣の名に恥じず狼人間の致命傷となった。狼人間がこれまた一撃で潰そうとしたのを、逆にふところにもぐって心の臓に突き刺す。

狼人間は恨めしげな視線を、竜樹にではなく伸たちに向け、怨嗟の咆哮をあげた。
狼人間の体はそれを合図に灰になり、水で洗われたかのようにそのまま消えた。
時間すらも超えたからなのか、狼人間が居た痕跡は塵も残らなかった。唯一遼の背中に残った傷跡だけが狼人間の存在を証明していた。

「消えた」
純に危害が加えられないように見ていた秀は、狼人間の最期を見つめた。そして、竜樹に視線を移す。
「おまえ、何者だ?FBI捜査官というのは嘘なんか?」
秀はいぶかしげな視線を寄越した。
無理も無い。
FBI捜査官が狼人間を一撃で倒したのだ。
しかも狼人間やゾンビに対する対応や遼に施した治癒についても、疑問だらけである。
だが、竜樹も彼らに対峙した。
「そういうなら、あんたらもだ。そのそろいの服はなんだ?」
伸が慌てて割って入る。
「ちょ、話はそれくらいにして。遼を運ばないと」
竜樹は遼を見て、ため息をついた。確かにここで論争するよりも遼を安静にすべきだ。狼人間のような亜人でも、特に「改良された者」には「ある特徴」があったのを竜樹は思い出した。竜樹自身には幸いにしてヒト社会に対するカムフラージュの邪魔にならないよう、そういう「特徴」が作られなかった。
が、一つの問題があったのを同時に思い出した。
「・・・俺も君に聞きたいし、一緒に来てくれ。あいつは君じゃなくて俺達を睨んでいたしな」
当麻が遼を背中に担ぎなおしながら竜樹を見る。が、何故か竜樹に睨まれた気がしたので、気おされたのを感じた。

午後2時39分 in 小田原 午後3時48分 in 小田原