AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午後2時39分 in 小田原

その「存在」は体は人であるが大きく、目の前の竜樹の2倍はあった。
猫背らしく前かがみになっているようで背中が丸い。そのため顔が見えなかったが。

竜樹の足音を聞きつけたのか、ゆっくりと振り向いたその顔は狼であった。

目は黒目で、波うつ毛は黒褐色であった。手と思しきものには爪が立っており、先は赤く染まっていた。血のようで、匂いが湿気に混じって漂ってくる。
それを見て当麻は思わず顔をしかめる。ニューヨークでも殺人現場に立ち会ったことがあった。驚いて凶器を抜いてしまったので指紋とかから捕まるのかとも思ったが、検問に引っかかることも無くロサンゼルスに着いた。後に秀と伸から散々バカにされたものだが。
この時の当麻は知らないが、数年後に竜樹や純と一緒にいたときに殺人事件に偶然出くわし、竜樹から「凶器を見つけても素手で触らんでくれ」と言われて「嫌味か、それは」と言ったが、竜樹は「?」を浮かべただけであった。
「物語に出てくる狼男ってこんなんか?」
当麻が誰ともなくつぶやく。
そこに伸が言う。
「当麻。遼が・・・」
狼男の前には伸が示す「遼」と思しき男性が倒れていた。正確には少年を庇っていたのだ。彼の無残に割かれた背中から血がどくどくと流れ、血だまりを作っていた。白いシャツは血で完全に染まっており、傷跡の凄惨さを物語っていた。少年が青年を支えている様子から、意識を失っているのが分かった。
その前を白炎が立ちはだかり、狼人間にうなっていた。
少年が遼の下から叫ぶ。
「お兄ちゃんっ!助けて。遼兄ちゃん、僕を庇って、アンダーギアをつける暇もなくて・・・」
比較的小さい少年が狙われていたようである。10代前半くらいであろう。竜樹は視界に入った少年の顔を見た。当麻が20くらいなので、逆算すれば少年は竜樹と同じ年だ。竜樹は時間すらも遡ったことに少々めまいを覚えながらも狼人間を見据えた。

この「狼人間」は「自然」界に存在しないはずである。

自然界の理だと言われたらそれまでだが、それは自然界におけるライオンやトラの話である。
竜樹は何故狼人間がここにいるのか、その理由を見出した。おそらく神父もどきが連れてきたのだろう。あの「NGC」から。
「クソったれ」
アンダーギアの3人は、声の主を見た。竜樹が狼人間を凝視している。秀や伸どころか、当麻すらもうろたえる。
FBI捜査官にこの様子を見られた。このまま武装をしたら、彼は俺達や狼男をどう思うか。
当麻はNYでの出来事を思い出した。当時FBIは捜索に駆り出されなかったものの、データベースには入っているかもしれない。

竜樹を誤魔化してナスティのところに戻し、狼人間を追い払って遼を助ける。
当麻でさえ状況の変化に追いつけず、策がすぐに出なかった。

そんな3人とは逆に竜樹は狼人間を挑発した。
「止めろ!」
秀が竜樹を止める。眼前の狼人間はどう見ても生身の人間が立ち向かえるようなものではない。遼が怪我したのを見て、「FBI捜査官としての使命感」からそうさせたのかと思ったのだ。が、違った。
竜樹に突進してきた狼人間を瞬く間にクンフーで地面に倒したのである。

どう見ても慣れている。

同じ使い手の秀は彼の動きを見て断定した。竜樹は以前狼人間とやったことがある、と。

「あいつ、俺達と同じレベルか?」
「というか、あれはムカラと同じなんじゃ・・・」
当麻の科白に秀が応える。伸は遼と純にかけよる。
「大丈夫か、純」
狼人間の応対は竜樹に任せ、遼を救助する。純と呼ばれた少年には擦り傷以外の怪我はなかった。
ただ、遼はぐったりしていた。すぐに出血を止めないとまずいほどだった。

狼人間が倒れ、意識がなくなったのを確認すると、竜樹は彼らの元に駆け寄った。白炎が竜樹を認めて軽く鳴いたのを見て、秀は不思議だった。竜樹は遼の傍にいる白炎の体を軽く叩いてどかした。伸も眉をひそめたが、遼の怪我を直すことが先決だった。
「ちょっと待ってろ、止血する」
「止血って、包帯はないんだぞ。すぐに戻って・・・」
当麻がいらだったように言ったが、竜樹は背中に手をかざした。その場の全員が眉をひそめる。このFBI捜査官は何をするつもりなのか。
「・・・リザレクション」
竜樹の呪文と同時に光があふれ、割かれた血管が太かったから大量出血に見えたのか、すぐに血は止まり傷は塞がっていった。
本来なら月龍が得意だが、今はそばに居ない。
痛みも引いたのか、遼はうっすらとまぶたをあけた。
傷跡は残ってしまったが、後で月龍と合流した時に治してもらおう。
そう竜樹は結論つけた。
4人は遼が回復したのを見て、目を丸くしていた。
「な、何を?」
当麻は遼の背中から新しい血が出てこなくなったのを見て、FBI捜査官に視線を移す。
「この兄ちゃんの回復の力を少しだけ活性化させたんだ。俺は完全にできないから、知り合いに頼んで完全に回復してもらおう」
遼の背中の傷を見て、竜樹は決心した。
若い当麻を見るに時間を越えているのは確かなので、おそらくは月龍も同じ時代に来ているだろう。神父もどきによって違う時代にいても、彼女の「輝煌帝」の力を使えば竜樹を探し当ててくれるはずである。
が、月龍自身が神父もどきであれば。
竜樹は月龍の息子を思って遺跡での犯行を頭から否定したが「可能性」を捨て切れなかった。
竜樹自身とて4歳で死亡した秀がもし生きていたら復讐をしていたことだろう。秀が幼年期に死んだ事で生まれたため、復讐する以前に竜樹は生まれていないが。
竜樹は遼が意識を取りもどしたのを確認した。

午後2時20分 in 小田原 午後2時53分 in 小田原