AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
大地の深淵−竜樹編− 午後2時20分 in 小田原
「ナスティ、今来たのか?」
「ええ。思ったより早く終わったの」
秀が歓迎する隣で竜樹は、信じられないような面持ちでナスティと呼ばれた若い女性を見た。
確かに「1日前」に見かけた柳生博士だ。
だが、竜樹の知っている彼女と目の前の彼女はまったく異なった。
竜樹の知っている柳生博士は、女性としても博士としても成熟している。
目の前の彼女は竜樹と同い年か若かった。
「どーした?うちの姉さん、美人でしょ?」
いつの間にか背後に立った伸が話しかける。
竜樹は驚いて飛び上がる。
「そ、そんなに驚かなくても」
「あら?あなた・・・」
伸と竜樹のコントを目の端で捕らえたナスティは竜樹の腰に目をやる。銃が気になったようだ。そこに伸がさらっと言う。
「この人、FBI捜査官で仕事の都合で日本に来たって」
「いや、まあ。あ、電話はいいよ。うん」
「え?でも、お前、電話したいって」
秀は面食らって言う。
「いいんだ。その必要はなくなったんだ」
竜樹はそういって、秀にタンクを渡した。
当麻も若いし、もしかしたら、いや、俺は空間だけでなく時間すらも飛ばされたのだ。
何年もの時空と何キロもの空間を隔てた先に。
あの神父もどきは、空間だけでなく時間すらも越えられるというのか?だが、竜樹の知っている限りそれが出来るのは「この世」でたった1人だ。
月龍である。
遺跡で月龍は知らないようだったが、あの神父もどきは月龍と何か関わりがあるのだろうか?
だが、月龍は先ほど家の中に荷物を運んだ当麻に対してなんらかの感情は無い。
むしろ当麻のほうが月龍に対して敵意を持っていた。月龍の息子のために親を殺されたのである。
一族の狙いは羽柴家を断絶させ、鎧を手中に収めるためであった。結果、鎧の血脈は月龍の血筋に固定されたのだ。
しかし矛盾が生まれる。神父もどきが言った「復讐」は誰に対するものなのか?
鎧そのものならば迦雄須一族にすべきだろう。もしくは「輝煌帝」を生み出した存在だ。
鎧の継承者への復讐ならば無意味なものでしかないのを、何より月龍自身が一番よく知っている。
なぜならば月龍の息子は同時に己の仇とも言える烈火の仁将の血を引いているのだ。
竜樹が青くなっているとき、遠くから音が聞こえてきた。
大型の動物が吼えているようなものだった。
その瞬間、竜樹はぞくっとした。
この感じ、殺気か?
竜樹は周囲を見たが、気配はなかった。
「この声・・・白炎?」
伸が言う。
「というか、この殺気も変だぞ」
これまたいつの間にか玄関に出てきた当麻が言う。伸が先ほどの咆哮が聞こえた方角を見ながら言った。
「妖邪?」
「まさか。妖邪はもう居ないはずだ」
妖邪界は元の白き世界に戻ったのだから、妖邪という存在自体も無い。
当麻はそういいかけて、はたとFBI捜査官に気づいた。
ナスティが慌てて言う。
「あ、そうそう、ケーキがあるの。良かったら食べていって?」
竜樹の顔面蒼白な様子を見て何か誤解したようだが、本人は先ほどの殺気に集中していて彼らの会話には気づいていなかった。
まさか、あの神父野郎がここに?
「全員中に居てくれ!俺が戻ってくるまで誰も入れるな!」
竜樹は殺気がした方向に向かった。森の中からだった。それは先ほどの咆哮の方角でもあった。
「ちょっと待てよ」
秀たち驚いて後を追いかける。
「ナスティ、家の中に入って待っていて。鍵もちゃんとかけて」
伸がナスティを気遣う。竜樹を追いかけて森の中に分け入るが、竜樹の足には追いつかなかった。
「あいつ、異様に足が速いな。FBI捜査官って、あんなふうに足が速いのか?」
秀の言葉に当麻が眉をしかめる。
FBI捜査官でなくても、あの速さはあきらかに並みの人間では無い。ムカラに似ている感じを受けるが、竜樹はムカラではない。そもそもムカラは地球の奥深くに生きるタウラギ族の出身なのだ。竜樹は先ほどまで車を操って応急処置をしてくれた現代のFBI捜査官である。しかもアメリカ合衆国の出身だ。
「・・・アンダーギアを装着しておいた方が良いな」
「・・・いつ装着するの?」
前を走る竜樹の後姿がみるみる小さくなるのを見て、伸がつぶやく。
当麻としては人知れずが一番だが、伸の義兄には秀と伸のを見られている。
これ以上目撃者を増やしたくないし、すずなぎのような人間を増やすわけにもいかない。
前を走る竜樹が完全に見えなくなると、3人は顔を見合わせた。
「ダメだ。追いつかん」
秀の言葉に2人はうなずいてアンダーギアを装着した。アンダーギアを装着してしばらく行くと、竜樹の背中が見えた。だが距離はそれ以上縮まることはない。
「・・・・・・」
3人は竜樹の背中をみて、無言だった。
当然である。
FBI捜査官という異国の公務員がなぜここまで足が速いのか。
なぜアンダーギアを纏った彼らがそれ以上追いつかないのか。
もしここに遼と征士がいたら、こう言っただろう。
「ナリアと似ている」
すると、前にいた竜樹の動きが止まった。
合わせて彼らも止まる。そして、彼らは竜樹の向こうにいた「存在」を見て、ぎょっとした。
その「存在」は彼らが今までに対峙した妖邪とは遥かに異なっていた。
妖邪はあくまでも「人」であった。
だが、目の前の「存在」は、妖邪とはまったく別物であった。
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