AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午後1時47分 in 小田原

2009年11月25日改訂
おれは留守番だから出られないけど、この車を見せればすぐに分かると言う秀と別れて一本道を走る。
先ほどまでの「苦労」と打って変わってワゴンのクーラーは涼しく、果汁30%のオレンジジュースもこの時ばかりは美味だった。

公衆電話のある場所にはしばらくして着いた。竜樹が倒れた場所よりももっと先にあった。
もっともこの公衆電話が国際電話に対応していても、財布はホテルのセーフティボックスに入れたままなのだ。すぐに終わると思っていたので、携帯電話も同様にセーフティボックスに入れたままである。無線はあったが、空間を遥かに離れた場所では使えない。衛星通信にも対応していないタイプだったので、連絡の手段は先ほどの柳生邸の電話しかない。

ここから屋敷までは歩くのは大変だろうなと竜樹は先ほどまでの暑さを思った。もう少し場所がずれていたら危険だったろう。日本で身元不明のミイラになりたくないものだ。
-----が、何故現代の柳生邸の近くに飛ばされたのだろうか?
竜樹はクーラーのきいた車内から、通り過ぎていく緑を眺めながら思った。
月龍も、ここではないどこかに飛ばされているのは確かだ。少なくとも一緒にいたのだから、空間を越えているのは確かである。
柳生という名前も、もしかしたら日本ではよくある名前かもしれない。あのナスティ=柳生博士の家であるという確かな証拠はないし、そもそも柳生博士とは思いつく限り縁があるわけでもない。オーストリアの当主からデータとして知らされていたが、家が日本にあるなどの詳細を知っているわけではない。
竜樹はナスティ=柳生博士と会ったときを思い出していた。柳生博士は捜査に来たFBI捜査官をにこやかに迎え、ねぎらいもした。
-----偶然だ。
竜樹はそう結論つけて、夜の出来事に思考を切り替えた。
あの神父もどきの目的がどこにあるのか。
彼らの狙いが鎧戦士であれば、現時点での継承者は月龍しかいないのだ。が、彼女も今では現役を退いているという状態なので、真の意味では月龍の産んだ息子しか居ないことになる。
残り2人もそれぞれ子を儲けているが、彼らが継承する気配は微塵も感じられなかった。
残る1つの継承者はといえば、オーストリアの当主しか詳細を知らないので、どうなっているのかは知らなかった。月龍は知っているかもしれないだろうが、竜樹自身聞きたいとも思っていなかったのでそのままになっていた。あまりにも淡白的な態度だが、竜樹の興味はあくまでも自分のルーツと一族の所有する「金剛の鎧」だけであった。
継承者についてはそんな状態だから、柳生博士とコンタクトを取ったオーストリアの当主は急ぎ京都に住むもう一人と妖邪界の入り口で封印をしなおしたのだ。済んでのところで間に合ったらしく、ほころびは再度封印された。京都の養従兄が、月龍が剣舞卿に呼ばれたときに妖邪界に行ったときのことを話してくれたが、眉をしかめていた。
「人が人であることを『望んで』捨てるいうんは、相当な念があるってことを証明したようなものや」
この時、竜樹は妖邪帝王の名前を訊かなかった。
封印されても竜樹自身が継承者で無い以上、訊いたとしてもせいぜい知識が増えるだけであったのだ。月龍は封印された当時まだ子供だったし、剛烈剣を継承したときも剣舞卿の意志を継ぐだけであったので見えることは無かった。
輝煌帝と対になる剛烈剣を継承しても、復讐を果たさなかったのはオーストリアの当主への畏敬もあったのだろう。
竜樹も彼に対しては畏敬しかない。ついつい「おっさん」と呼ぶが、年齢的な意味があるので「お兄さん」とは言いがたいのだ。相手も竜樹を弟分というよりも息子分として扱っている節があるのでおあいこだろう。彼は鎧を抱えた一族よりもむしろ父方の血が濃いので、鎧の扱い方について危惧していた。竜樹についても知っていたが、養父母への警戒を怠らなかった。
竜樹は最初彼への敵意を持っていたが、一緒に研究所に行った月龍から事の次第を知らされ、協力を求められた。結果、バグダード戦争を経験した後でFBIに入った。
-----長生きしなさそうだな、おっさん。
脳裏にオーストリアの当主を浮かべながら、竜樹は時速40kmで目に入ってくる緑を眺めた。
公衆電話の傍にいる2人を迎えに行ったら、あとはとっとと『帰国』するだけだ。

公衆電話の近くの木陰にはこれまた秀と同い年の青年が二人、げっそりと座っていた。いわゆるヤンキー座りである。彼らは脱水症状を防ぐためペットボトルを持っていたが、歩きながら飲んだらしく半分になっていた。それでも空気が熱を帯びているので、お互いに話をする気力もないのだろう。

竜樹はゆっくりと車を止めて、秀から聞いた話を彼らと繰り返した。2人は片方が窃盗防止の為残るつもりだったが、この山中ではエンストした車を盗む人間も居ないので、鍵をかけて二人揃って公衆電話のある場所まで歩いてきたという。迎えが来たらそのまま乗るツモリだったという。
「他人に労働させてすみません・・・こいつのせいだから」
「俺のせいかよ!」
互いに責任を押し付けあう二人は、竜樹にデジャ・ビュを起こさせた。
女とは腐るほど付き合ってきたが、男とはそれほどでもない。女性の「相手」から恨まれることが多い。その巻き添えを被ってきた月龍たちには散々お説教を繰り返された。

だが、伸と名乗った青年はともかく、隣の当麻という青年は竜樹にある記憶を甦らせた。

妊娠していた月龍を助けようとして当麻を射殺した記憶である。

「どうしました?」
黙りこくった竜樹を見て伸が訊く。自分達の諍いに呆れているのではないかと思ったが、違うようだった。
「脱水症状か?」
当麻がこれまた声をかけてきた。そんな当麻に伸は「君じゃないんだよ」とキツイ一言をくらわせた。
竜樹はちょっと笑って、二人を車のある場所まで案内させた。当麻との記憶はあるが、目の前の彼は別人だ。
あの時の彼と違ってとげとげしい雰囲気は全くなく、どこにでもいるような青年だった。何よりも竜樹の知る当麻よりもはるかに若い。
彼は30を迎える前に射殺された。
目の前の彼は20そこそこである。
まさか時間を飛んだわけじゃないだろうなと、竜樹は可能性を出した。

まさかな。

肝心の車は走らせて10分ほどで着いた場所にあった。
竜樹は早速車をチェックした。冷却水の問題以外はなんとか無事らしい。水道水を入れて応急処置を施す。
「これで走れるけど、ちゃんと見てもらったほうがいい」
「ありがとう」
当麻が軽く頭を下げる。
伸は竜樹の乗ってきた車にそのまま乗るといって、一度も降りなかった。
当麻はそんな伸を薄情もんだとこっそりと悪態をついて、先に走った。竜樹たちは後から続く。
「そういえば、貴方の名前、秀の従弟と同じですね」
「ああ。偶然って面白いよな。・・・敬語はいいよ。フツーでいい」
竜樹は車をゆっくりと走らせ、前を行く当麻の頭をガラス越しに目視して言った。故障しないようにスピードはゆっくりだ。
「分かった。・・・これも何かの縁だね」
前の科白は敬語についての了解で、後の科白は話の続きだ。
「まあ、な。運命の女神ってのが居たら面白いことするなって感じだな」
「秀の従弟、ホントは来るはずだったんだけど、季節外れの風邪でやられたんだってさ」
「それは残念」
「クーラーをつけて昼寝したら・・・らしいね」
「こんな暑さだ。俺もクーラーの効いた部屋で寛ぎたいよ」
竜樹は肩をすくめて、今後のことを考えた。

親父から拳骨をもらった後は、貯金でどこか南国のパラダイスに行って椰子の実のジュースを飲んで過ごしたい。できれば南国美女も欲しいな。

竜樹の現実逃避的なオーラを感じ取ったのか、伸は「?」を頭の上に乗せた。
そうこうしているうちに邸宅に着いたので、当麻が慎重に停めた横で竜樹もゆっくりと停める。
音を聞きつけた秀が早速出迎えてくれた。
「お帰り。まったく、ヤキモキさせてくれるな。お前ら」
「只今」
「当麻のせいだよ。まったく」
またも一触即発な気配だが、客が居るためそれ以上はなく、各自荷物をひきあげた。
「ありがとう。電話を貸すよ」
「ああ。タンクを出してからにするよ」
そこに、もう1台の車がやってくる。
竜樹はガラス越しにその車の主を見て驚いた。

午後1時28分 in 小田原 午後2時20分 in 小田原