AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午前1時44分 in 小田原

「新宿で何かがあるっていうのか?」
「さぁ?妖邪界・・・俺達サムライトルーパーの敵だったものだが、それはもう無い」
なのに、何故新宿から妖邪の気配があるのか。
しかも当時に比べてその気配は強い。
何故だ?
遼は眉をひそめた。そんな遼を見て、竜樹は訳が分からなかった。
妖邪とは何だろうか?
ここに居るのが竜樹ではなくオーストリアの当主や京都の養従兄だったら、もう少し異なった対応も出来ただろう。が、竜樹は「妖邪」という代物について全くと言って良いほど無知であった。せめて京都の養従兄から妖邪界の話を詳しく引き出していれば良かっただろう。竜樹は後で悔やんでいたが「後の祭り」であることを月龍から指摘されさらにお説教されるという始末であった。

ふいに階段のほうから音が聞こえたので、竜樹と遼も居間に出た。
どうやらトルーパーの称号は伊達じゃないようで、全員が起きた。1名が目を時々細めたりしているが。
柳生博士と純は音で起こされたようで、目をこすっていた。
「どうしたの?」
柳生博士と純は気配を感じることは出来ないようだった。竜樹は彼らと自分の違いを見せ付けられた気がした。純粋なヒトと、改造を加えられた虎人間。しかも鎧の継承者でも無いのに何故か「妖邪」の気配を感じたことから、まだ何か自分の知らない改造が加えられているのかもしれないと思うとNGCへの怒りが湧いた。
そんな竜樹の物思いを断ち切るように、若い鎧戦士達は会話を広げていた。秀は竜樹を気遣わしげに見ていたし、征士は何かを考えているようなようでいて、実は何も考えていないような雰囲気があった。
「新宿で何かがあったらしいな」
遼の言葉に伸が口を出した。
「遼、君は寝てな。傷がふさがっているとはいえ、危険だったんだから」
「俺だけ安穏としてられない!」
彼らのやり取りを見ながら、竜樹は月龍から渡された護符を出す。
転移装置の簡易版だ。近距離用だからモハーヴェ砂漠までは無理でも小田原〜東京間程度ならいける。竜樹は脳裏に現代地図を浮かべながら柳生博士に向かった。
「車だと時間がかかるから、この護符で行くよ」
柳生博士は鎧戦士ではないのが明らかなので、後から車を持ってきてもらうツモリである。
「それは?」
征士が不思議そうな表情をして見つめる。仲間の怪我の遠因となった竜樹に対して含むところも無い表情から推察するに、やはり何も考えていないようだった。秀は竜樹からそっと目を逸らすとこっそりとため息をついた。純はそれを見て、秀の傍に立って元気つけた。
「転移装置の簡易版」
「転移?」
彼はおうむ返しに言う。
仕方ない。俺達と彼らでは、同じ「鎧」に関わるとはいえ「周囲環境」における「概念」などがまったく異なるのだ。
俺たちは精神的なものを重視するので自然とこういう「仕組み」に詳しい。京都の養従兄だけでなく、「鎧ギア」というものを研究していた輩からも、精神面での話を聞いていたのだ。逆に彼らは現代っ子だからなのかそれとも「竜樹のような辛酸」をなめていないからなのか、車など物質的なものを重視する。だからこの「転移装置」についても、彼らの知識ではファンタジー世界にしかないのだ。
「というか、そんな役立つものがあるのに、どうして合衆国まで行けないの?」
伸は数時間前の会話を思い出した。仕組みはともかく転移装置があるなら、すぐにワクチンを取りにいけたはずだ。
だが、竜樹は肩をすくめた。
「これはさっきも言ったように簡易版だから、近距離で1回っきりなんだ。この護符を作った奴ならどこでも何度でも行けるが、今はいないしな」
「その護符を作った・・・」
驚いた征士が質問をしようとした傍で、生き生きとした声が割り込んだ。
「どういう仕組みで転移装置が出来るんだ?」
竜樹は質問の主を見た。
さっきまで半分寝ていた(しかもさっきまでの伸や征士の疑問すらまったく聞いてない)が、「転移装置」の一言で開眼したようだ。気のせいか肌もつやつやになってきている。
竜樹は無言で彼の光り輝く肌を眺めると、窓からは見えにくい位置の壁を探して護符を取り付けた。伸が黙って当麻の頭を叩く。叩かれた当麻は伸に文句を言おうとして逆に睨まれた。征士はといえば「馬鹿者が」と唸るようにつぶやいていた。
幸せな奴だ。
そんな3人のコントを背中に、ため息をつきながら竜樹は転移装置の座標を新宿都庁前に合わせるよう念じた。テレパシーに近い感じだ。
護符は壁に溶け込むように薄くなり、壁の模様も一緒に消えた。代わって現れたのは、新宿の街並みだった。壁一杯に、都会が広がっていた。竜樹はこんなもの、もっと驚かれるだろうなと思って振り向いたが、その場に居た全員が平気な顔をしていたのでちょっと拍子抜けした。

竜樹は知らないが、彼らは似たような経験を数年前にアフリカの奥地にあるタウラギ族の村でも体験済みだった。
ただ「仕組みを明確に表現出来る『人間』が実際に居る」ことに驚いただけである。

「これ、さっき言ったとおり一回きりしか使えないんだ。行ったきりだから、柳生博士、後から車を持って来てくれ。公衆から連絡しておく・・・させるよ」
財布が無いので電話も出来ないのだ。言いかけて竜樹は背後の5人を見た。
竜樹の科白の意味を悟った征士と伸は眉をひそめたし、当麻は伸を見てはむっつりとしていた。遼は胸に手をやっていた。おそらく小銭があったかどうか考えているのだろう。竜樹が財布の類を持っていないという事情を知っていた秀は、それどころではなかった。
背後の「弟達」が竜樹に電話代をたかられていると思った柳生博士は苦笑してうなずいた。
「いえ、今行くわ。・・・柳生博士ってのは向こうの私でしょ。こっちはナスティでいいわ」
相手が元は純と同い年だと思うと、気楽である。
傍目には竜樹が柳生博士をナンパしているような感じなので秀は咳払いをした。月龍がその場に居たら、スルーしてさっさと目的地に向かったことだろう。

遼が行く気なので、純も一緒に行くと言う。昼間の狼人間の脅威がまだ拭い去れないらしい。数年前と違って精神的にも成長しているにも関わらず、遼まで居なくなった夜の邸宅に一人残るのは恐ろしいだろう。

全員が服を着替えると、秀が一番手に入り、当麻、伸、遼、白炎、征士の順に入ると、竜樹はナスティに向き直って言った。
「狙いは俺達だから大丈夫だと思うが、道中気をつけてくれ」
そう言って、壁の中に消えた。壁の中の景色はまだ残っていたが、しばらくすると消えた。
ナスティと純はそれを合図にして車に乗り込んだ。

誰も居なくなったリビングで、アナログな鳩時計の短針と長針は静かに1時44分を指していた。

午前1時14分 in 小田原 午前2時1分 in 新宿