AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

大地の深淵−竜樹編− 午前1時14分 in 小田原

2009年11月25日改訂
暗闇の中、俺は寒かった。
月龍は肌寒かったようだが、俺はそんな生易しいものじゃなかった。
体はすっぽりと厚い布に包まれていたが、顔には寒気が当たって痛かった。
痛くて痛くて泣いたが、次第にお腹が減って泣く気力も無くなってきた。
どれくらいの時間がたったのか分からないが、俺は気を失っていたらしい。
しばらくして、暖かい手が俺の頬を触った。
俺はびっくりしてまた泣いた。
柔らかい手は俺が泣いたのを知って、安堵したように叫んだ。
「ちょっと、お父さん!この子、生きてるわよ」

ここでふと目が覚めた。
周囲は暗い。
ベッドサイドのナイトテーブルにはデジタル時計があり、緑色で午前の1時14分を指していた。
白いカーテンが頭上で静かに引かれていた。防犯の都合上、窓は閉まっている。竜樹はナイトテーブルに置かれた銃を確認する。

夢の内容は生まれたばかりに見た雪の記憶だ。
あとで養母に聞いたら捨てられていた時の風景ではないかと言われた。
生後数日くらいで養親の家の軒下に捨てられていたそうだ。養母が見つけるのが遅かったら、凍傷が悪化していたという。今でこそ肌は綺麗になっているが、当時は凍傷のために抱っこされて皮膚科にも通っていたくらいだ。養母の献身のお陰で、今では肌どころか全てがすっかり頑丈に育った。
頑丈に育ちすぎて、養父からは「子というものはこのように育つものなのか」と、ため息まじりに言われること数回だった。

これは研究の一環で、誕生に成功した後は「純粋な」虎人である俺がヒト社会に順応できるかどうかを調査するためだった。
万が一のことがあれば、養父母もろとも抹殺するつもりだったらしい。成功したらしたでやはり養父母を抹殺して竜樹を回収し、最終的には使い捨てのクローン兵士を作るつもりだったという。
そうなる前に研究スタッフのリーダーを殺したのだが。

竜樹はふと、暗闇の中、入り口に誰かが居るのを「見た」。竜樹は神父かと思って一瞬身構えた。が、遼だった。パジャマの上からカーディガンを軽く羽織っている。
白炎の姿が見えないが、上で純のお守りをしているんだろうと思った。ちらと聞いたが、秀が言っていた「びゃ」はこの白い虎を指していた。「白炎に乗って遠乗りに行っている」だが、「捜査官」に聞かれたら間違いなくお縄なのでぼかしたようだ。
-----もっとも竜樹自身は「未来」で白炎と会っていたので、その心配は無用だったが。
狼人間の恐怖が鎧戦士でも無い少年を脅えさせたのだろう。白炎は少年を安堵させるため、傍に居るようである。
竜樹の部屋はリビングの向かいにあった1階の玄関そばをあてがわれたので、遼の部屋はその上にある。
玄関傍の部屋をあてがわれた時、若き柳生博士に意図するものは無く単に部屋数の都合でリビング脇の部屋しかなかっただけである。案内された時、柳生博士は「ここしかないけど」と言っていた。
「前日の午前1時」からずっと起きっぱなしだった竜樹は黙って首を振ると、柳生博士がドアを閉めるのを見届けてからベッドに倒れこみ、あっという間に眠気に捕らわれたのだ。腰に巻いた拳銃ホルダーは無意識のうちにナイトテーブルに置いたようだった。
起きてこうして入ってきた遼を見て一瞬部屋を間違えたのかと思ったが、そうでなかった。
彼は竜樹を見ると、「あの人」とおなじ笑顔を向けた。
「すまん、驚かせたか?」
「いや。どうかしたか?」
竜樹は手元にあるライトをつけた。虎人の特徴の一つとして暗闇でも見えるのだ。もっともこれは狼人間にもあるので、俺のようなケースはいわゆるキメラの成功例であるが。
「・・・秀とのこととか聞いた」
「ああ」
意図はしなかったが思わず嘲笑を漏らした。そんな竜樹を見て遼は不思議そうな顔をしていた。
「虎人間だってのは認めるよ。ワクチンならちゃんと探す」
「いや、何でお前の世界に金剛の継承者がいないんだろうなって思ったんだ」
「・・・・・・」
「当麻からの又聞きだが、まるで『お前が二人』と言うか、『2重に重なっている』ような気がするんだ。未来とか過去とかそういうんじゃなくてな。・・・以前、何か当麻からそういう本を借りたんだがその中にそういう文章があったんだ」
遼は記憶をまさぐっているようだった。過去の世界であるのは間違いないが、何故金剛や天空の継承者が無事なのか、竜樹自身も分からなかった。
特に天空の継承者は実際に竜樹自身が撃っていたし、実際に銃の弾数も減っているのを確認した。すでに被害者及び遺族といえる者達が全員死亡したため、竜樹自身はオーストリアの当主の力添えで不起訴になったものの苦い気持ちは消えなかった。
最初こそ金剛の継承者を憎んだりもしたが、「一族の意向」次第では「オリジナル」が消えるのである。
つまり、継承すべき人間が事故に遭わず無事成長しても、虎人間でもある竜樹が金剛の継承者たる資格を得れば本来の継承者は消えていたのかもしれないのだ。
「それで、わざわざ俺の様子を見に?」
「様子というか、秀が酷く落ち込んでいた」
「はっ?」
あの時、秀が落ち込んでいるような感じはしなかったんだが。自分の気持ちと向き合うことで手一杯だったから気づかなかった。
「あいつ、あれで兄弟想いだからな。純とかこっちのお前に対しても面倒見が良くてな。・・・俺一人っ子だから羨ましくて」
「はーそう」
竜樹は遼が何故「リビングにあった写真」で見た「目」について触れないのか気になったが、よくよく考えれば仕事か趣味でカラーコンタクトをしていると思われているのかもしれない。事実、秀も、そして当麻も目の色だけが何故異なっているのか気がついていても、質問は「できなかった」。
「まあ、とにかく、お前も落ち込んでいるんじゃないかと思って、顔を覗きに来たんだ」
「あ、そう・・・それはどうも」
竜樹は何か文句でも言われるのだろうかと思ったが、遼の口から出てくるのは竜樹を思いやる言葉だけだった。竜樹は遼を見て、やはりあの人にそっくりだと思った。
「さっきはうなされていたが、大丈夫だったか?」
起こそうかと思ったが、その前に起きたから。
「大丈夫だよ」
「そうか。・・・俺の体のこと、気遣わなくていいよ」
遼の目は静かだった。死を覚悟しているとかではない。俺をホントに気遣っているんだ。ワクチンがないと自分が死ぬというのに。
竜樹は脳裏に金髪褐肌の男性を浮かべた。彼が継いだという「烈火」について質問してみようかと思った。
「あんた・・・」

この時、竜樹は異様な気配を感じた。空気というよりも、空間そのものが自分にのしかかってくるような感じだった。
遼もそれを感じたのか、眉をひそめた。
「これは・・・新宿?」
「シンジュク?」
「東京の街で、かつて俺達がアラゴと戦った場所だ。でも、妖邪界は消えたから、新宿はもう・・・」
遼は窓の外を険しい表情で見ていた。竜樹は「アラゴ」という単語に「?」を浮かべたが、眼前の青年の雰囲気から良くないものであることを理解した。

午後5時52分 in 小田原 午前1時44分 in 小田原