AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

光の王-「闇よ落ちるなかれ」

NY編裏話妄想BY管理人8
2010年6月26日画像変更
リトルトキオでのシナリオは若き5人にとって「破滅」に向かいつつあった。だが、そこに救いの手があったことを1人は知らず、1人は不可解に思い、6人は気づくこともなかった。
当麻は剛烈剣がどこから来たのかを不可解に思っていた。だが、遼がルナの元に駆け寄って息をしていないことを確認しているのを見て、「沈黙」した。
羽柴当麻が「この剛烈剣の主」と出会うのはそれから数年後の話であった。

この時、レオンハルトは遼の激昂を感じた。かつて柳生博士の死に感じたものと似ていた。
-----誰か「鎧の犠牲者」が出たのだろうか。
同時に、遠く日本でもわずかな波動を感じた人間が居た。
冷泉志信であった。
「なんだ?」
レオンハルトを気遣い、自室で本をぼんやりと「見て」いた彼は「不愉快」という「感覚」を感じた。「厭う」ようなものである。
この感覚は長く、志信の胸中の片隅にあった。翌年の夏、レオンハルトに「水滸の交代」を指摘された時にその疑問は氷解した。
時空間を越えて「もう一つの剛烈剣」を得た真田遼は「ヒトを殺す」ことととなったが、当時齢16の彼はまだ理解できていなかった。だが、その場でただ1人だけ「理解」した者がいたのである。そして、彼の思考は同じ継承者である志信の脳裏に伝わってきたのである。

夜も更けて本筋のシナリオが終わりを迎えた頃、隠された物語はほんの一瞬の交わりを見出した。

傭兵のリーダーであるソン・ミンジョンがトランシーバーに反応した。先ほど斥候に行かせた配下の1人が何事かを伝えてきたようである。そしてレオンハルトに振り向いた。
「若、少年6人と女性1人が裏の出口から出てきたそうです」
レオンハルトはすぐさま放置するよういいつけた。何者かは分かりきっている。が、とりあえず参拝客であるとし、写真と違うなら放っておくよう言いつける。
「放っておけ」
「は」
ミンジョンはトランシーバーで指示を出した。応答が来る。
『写真との相違を確認、参拝客のようです』
トランシーバーからの返事を受け取ったレオンハルトは、ミンジョンたちに茂みに隠れてやり過ごし、一戦たりとも交えてはならないと言いつける。
レオンハルトが木陰に隠れてすぐに、出口からは人影が見えてきた。6つの人影に混じって小さな人影も1つ見えた。
石畳の上、遼が前を行き、伸はナスティと純を守る。その後には当麻が征士を抱え、秀が背後を守るように走った。
レオンハルトは憔悴した若い烈火を見た。同時にこれまた眉をしかめた征士を見る。どちらも喪失と痛みに耐えていたのが想像できたのである。
烈火がかつて「念」にまみれていたことを思い出した。何者かがやったのかは知らないが、レオンハルトの元に来た時は浄化されていた。だが、それでも眼前の若い烈火の「預かり知らぬ身内」の「念」がこびり付いていたのはおぞましさすらも感じた。調査したところ、遼には実兄がいた。故郷の村は閉鎖的なもので、烈火の鎧を神とあがめていたのだ。その際の生贄として実兄が落命した。が、誰がこの烈火の鎧をわずか数年で浄化させたのか追跡調査を行ったものの、結局不明だった。烈火を継いでしばらくは、傀儡師やNGCとも渡り合う結果となった。その時に親しかった人間や恋人を亡くしたのである。
伸は目を伏せたまま、物思いにふけているようだった。レオンハルトはふと彼の様子が微妙に変わっていることに気づいた。そして、すぐに彼の想いを理解した。
-----この時、彼は戦いに厭うていた。彼は新宿の異変時では柳生博士の死に直面していない。だが、アラゴに飲み込まれた遼を殺した時はこれしか方法が無かったし、無力な自分を責めていた。こうして再度人の死に直面すると、勾玉もないので生き返ることも無い。
征士をさらい鎧の力を得ようとして殺人まで犯した屍解仙や科学者も、「人」である。
だからこそ翌年の戦いで、彼は当麻がムカラに矢を射掛けようとしたとき止めたのだ。
「よせ、当麻!相手は生身じゃないか」

「何故子供達が?」
「ターゲットに苛められたんだろう」
レオンハルトは遼の背中を見送り、茂みから石畳に出た。少年のあの様子では終わっているだろうが、NGCの密偵がどこかに居るかもしれない。彼らの後を追って行ったかもしれない。
ミンジョンは眉を上げたが、少年達の後には何者も出てこないのを見て、銃を構えなおした。
「突入します」
レオンハルトにそう告げたミンジョンはトランシーバーで指示を出す。ターゲットは建物の中だ。おそらく隠し部屋を利用しているのだろう。
傭兵達が銃を手に突入した。とはいえ街中のことなので、手榴弾など音が出るものは使えない。オマケにNYで騒乱が起きたばかりだ。この西海岸まで警戒網はないだろうが、念のためである。ミンジョンは江大人の言葉に従ってなるべくサイレンサーなどを利用して進んだ。次々と配下の者達が銃を構えながら建物の奥に入っていく。建物は彼らアジア人にとってなじみが深いものであったので、慣れた感じで進んでいく。キリスト教圏やイスラム教圏などの出身者だと手間取っていただろう。江大人の選んだエキスパート達は全員アジアの出身であった。
『こちら、落とし穴があります』
先行した者が連絡を入れてきた。侵入者を落としたような穴であったと先行者が言う。
落とし穴を避けて降りた先は東京で見た皇居の堀を思わせた。10メートル以上の幅がある通路が堀を貫き、部屋の真ん中で階段に向かって伸び、やぐらのような場所につながっていた。板のような場所には幾本ものコードがあり、誰かが捕らえられていたような気配が残されていた。
「これは・・・」
ミンジョンが銃を構えてあっけにとられていた。やぐらの上部には機械の残骸があった。どうやらPCらしい。
「若」
「何でしょう?」
先行者が何事かを言っていた。ミンジョンに促されて通路の片隅に行くと、そこにはヒスパニック系の少女が倒れていた。胸元には血が染み付き、赤いシャツを着ているようにも見えた。
「この娘は先ほどの少年が・・・」
レオンハルトは諍いでも起こしたのかと言おうとしたミンジョンの言葉を、目で制止した。
ミンジョンは干渉するなという意味だと悟り、口をつぐんだ。
だが、レオンハルトはミンジョンたちにターゲットの捜索を続けさせた。
「姿も影もありません」
配下の1人がミンジョンに報告する。周囲に警戒を怠らず、9人の配下がミンジョンの指示に従ってあちらこちらに銃を向ける。堀にも向けるが、魚の類すらも居ないようである。
2名のターゲットは居ない。ミンジョンは口ごもるかのように言った。
「ただ、あの壁ですが、まるで焦げたかのように・・・」
レオンハルトはそれを見て理解する。おそらく真田遼が輝煌帝を呼んだのだろう。ミンジョンは壁を見て不可解そうな表情を浮かべた。まるで大きな火炎放射機で焼かれたかのようなものである。

壁一杯が真っ黒に漕げていたのだ。これを食らった者は一溜まりもない。

ミンジョンはレオンハルトに向き直った。
「どうもターゲットは居ないか・・・」
口ごもりながら視線を壁に移す。
「生きているとは思えませんが、捜索は続けますか?」
レオンハルトは考えているフリをした。一応のポーズである。鎧のことは伏せたいので、知らぬフリをしておくがいい。
「撤退します」
答えは明白であった。ターゲットはおそらく鎧の力で消えたのだ。ミンジョンも---「鎧」を知らないが---ターゲットが消えたと確信し頷いた。横たわる少女の遺体を布で包み、NYに送る手はずを整える。
屍解仙のアジトは近いうちに爆破でもさせて隠蔽しておかねばならないが、そこは江大人がやってくれるだろう。発破工事は立替工事のためだとでもごまかせる。
NGCのデータも、PCの残骸の様子から完全に消えたと思って良い。
ミンジョンや配下と運ばれていく少女の遺体を見送り、レオンハルトはロサンゼルスを後にした。

少女の遺体については、レオンハルト自身の指示で身元を確認次第、故郷の墓地に弔うことにした。一瞬ケビンとジェイルに見つかったらと思ったが、NYのダウンタウンではなくちょっと離れたところが出身だったようで、そこに住んでいる叔母夫婦の元に届けさせた。
教会の葬儀で、叔母夫婦は甥に続き姪までも若くして亡くなった事に衝撃を受けて打ちひしがれていた。

ロサンゼルスの夜はすぐに明け、ニューヨークでは朝を迎え、ウィーンでは昼になった。
そして日本では日付が変わろうとしていた。
朝を迎えたニューヨークでは遼がルナを弔い、征士と伸は鎧の力をそれぞれに憂慮し、当麻は不可解な出来事を胸に秘め、秀は仲間達を見ていた。この騒乱が彼らにもたらした影響は計り知れなかった。輝煌帝伝説、すずなぎとのかかわりを経て最終的にレオンハルトと邂逅することとなるが、彼らの物語はまだ途中であった。

レオンハルトはオーストリアへの帰路、毛利伸の、年齢に似合わず厳しさを漂わせた横顔を思い出していた。もしかしたら水滸の交代が行われる可能性もありえるかもしれない。

日本で日付が変わる時刻、冷泉志信は夢の中で座したポーズの水滸と対面していた。
志信は最初こそ不可解だったが、水滸の鎧が見る間に泥で汚れ、否、灰色の泥のような色に染まっていくのを驚愕で見ていた。水滸の鎧が助けを求めるかのように手を伸ばしていたが、むなしく空を掴み、そのまま崩れ落ちた。
そこで志信は目を覚ます。窓の外はすっかり明けていた。

翌年の夏、レオンハルトからの連絡で志信は水滸の気配を頼りに毛利伸の元に来た。
あわや水滸の交代劇が行われる直前で、白炎が志信を止めた。志信は白い虎が主である遼の危機に何故自分を止めるのか分からなかったが、湖を見て納得した。
水滸の鎧が伸に、アフリカの幻影を見せていたのだ。
伸はそれをみて、助けに行くことを決意したようである。

志信は交代劇が行われなかったことに安堵し、白炎にほお擦りした。そして一言つぶやいた。
「良かったよ」

こうして「語られざる歴史」は終わりを迎えた。
それはチャイナタウンにてユーゴーという刑事が不可解な死を遂げた事も含めてのことである。


-----それでもなお鎧の伝説の幕切れはまだ遠い。

【「光の王」 完】

光の王-「異国の小夜曲」