レオンハルトは翌日の昼、空港に向かった。カウンターに行き、予約した券をチェックしてもらう。ロサンゼルス行きの予約がなされていたのを確認して、飛行機に乗るまで一服をするべく待合室に向かった。待合室の喫煙スペースに向かいながら、バッグに入れた煙草入れを取り出す。ライターを取り出して、片手で口にくわえたタバコに火をつけようとした。
が、そこで待合室に居た客達のどよめきを聞き、頭をめぐらして原因をさぐったレオンハルトはめまいを覚えた。そうざるを得なかったのだ。
なぜならばそこには信じられないニュースが放送されていたのである。
待合室のテレビにはニュースが映し出されていたが、おそらくは「情報は新鮮なうちに」と逸った誰かがカメラを回したであろう。
待合室の上に置かれたテレビの画面には、緑色の物と向かい合うオレンジ色と青い色の物が映っていた。それは金剛と天空であった。そしてそれを見ているレオンハルトの周囲ではどよめきや困惑が支配していた。
「あれは何だ?」
「あ、前に殺人事件を起こした物があれだわ!」
「今度は何なんだ?」
「まさか、白昼堂々と殺人事件が起こるっていうこと?」
テレビに映し出される「喜劇」の連続にレオンハルトは脱力を禁じえなかった。また、若い世代の鎧戦士たちに対し、なんらかの失笑すらも禁じえなかった。
もし周囲に誰も居なかったら、彼はこう言ったであろう。
「もう少しマシな方法を思いつけないのか?!」
が、弱冠15、6歳の少年に22歳のレオンハルト程の経験を求めるのは酷である。大いに脱力しきった彼は気を取り直し、カウンターに向かって席を翌日の便に替えてもらった。すぐさまに電話ボックスに向かう。
電話の相手は父親の友人でもあるワシントンの政府高官であった。
いきなりの連絡の非礼を詫びてから、鎧のことを伏せ、仕事で来ているが警官隊が居て動けないとだけ言った。
できれば撤退させて欲しいとのことであった。
相手は友人の息子の連絡に驚いたが、彼には命を救われたこともあるのですぐにNY市警に連絡を入れた。
近所にホテルを取ったレオンハルトは、テレビに映ったマンハッタンの様子を見た。
マンハッタンはしばらくは「彼ら」の「劇」を写していたが、夜の闇が降りてくるにしたがって徐々に静けさを取りもどした。
-----マンハッタンにて発生しました騒動につきまして、NY市警からの情報によれば現在容疑者の5人を追いかけているとのことです。ですが、5人はプロテクターのような物を身に付けており、顔などは判明しておりません。引き続き捜索にあたるとの事です。現時点では地下鉄の駅付近にて目撃されたのを最後に、以降の行方はつかめません。最後に市警からのお願いがございます。市民の皆様、安全の為どうぞ夜間の外出を慎み、非常時以外は夜が明けてからにしてください。また、お心当りのある方は電話もしくはファックスにて連絡をお願いします。くれぐれも夜間の外出はお控え下さいますよう重ねてお願いします。続いてはフィラデルフィアからのニュースです-----
レオンハルトはニュースの結果を見て、ため息をついた。それは今まで溜めていた物を吐いたようなものであった。
今からでもマンハッタンにとってかえして彼らにお説教の一つでもしてやりたい気分であった。彼らを正座させ、みっちりと説教したい気分であった。
だが、やめた。NGCが「近く」にある上に、伊達征士への影響を考慮したのだ。早く行きたいのに、彼らの後始末ばかりで一向に物事が進展しない。伊達征士がとらわれていなければ全員にお説教をしてやりたい。
レオンハルトはしばらくソファに座り、両肘を両ひざに乗せ、両手で頭を抱えて「思考」という沈黙に浸っていた。もし4人がその場に居たら、いたたまれないほどの沈黙であった。
とにかくマンハッタンのことはひとまず安泰であろう。少なくとも先ほどのは屍解仙がロサンゼルスから操っているのは間違いない。彼らを誘う罠であろう。が、屍解仙が大陸を挟んでここまで来ているとなると、「光輪」の力は妖邪に傾きつつあるのかもしれない。
レオンハルトはしばらく考えたが、ロサンゼルスのチャイナタウンの「長老」に連絡を入れた。
「そちらの『エキスパート』を数人お貸しいただけないか?」
屍解仙の動向については、「鎧について保守派」である長老も掴んでいた。レオンハルトの願いを聞き入れるまでもなく、長老もまたNYのチャイナタウンでの秀の様子を見て、行動を起こすつもりだったという。
長老はロサンゼルス到着後に10人ほどのエキスパートを配下につけるよう約束してくれた。
到着予定時間を教え、ロサンゼルスのチャイナタウンにて待機するよう要請した。
「申し訳ございません」
「貴方が気になさることはありませんよ。烈火殿」
長老の軽やかな笑い声にレオンハルトは身が小さくなる思いであった。
-----いっそオーストリアに帰って研究の続きをすることが出来ればどんなに良い事か。
一瞬現実逃避気味になったレオンハルトは受話器を置き、現実を確認するかのようにチケットの座席ナンバーをチェックした。
2日目の夜の帳もまた、マンハッタンの喜劇のステージに静かに降りていた。それは悲劇へのひそやかな前兆であるが、レオンハルトもそれを見抜けなかった。
翌朝、レオンハルトは空港に向かった。座席はファーストクラスである。
本来ならエコノミーでさくっと行きたいが、付き合いの都合上ファーストを取らざるを得ない。レオンハルトのようなオーストリアの皇族を束ねるくらいの立場だと、航空会社もファーストクラスを取って欲しいと思うのだ。レオンハルト本人というよりもそういう立場のものが使ったとなれば密かな宣伝にもなるし、サービス内容もその分濃くなる。レオンハルトが周囲に「あの航空会社は良かったよ」と言ってくれれば最高の宣伝マンである。結果としてそういう立場の者たちが自社を指名して使うようになれば、大金が入ってくるようになるのだ。
レオンハルトは周囲に侍ってくるパーサーやスチュワーデスなど客室乗務員ににこやかに挨拶をして、腰を落ち着けた。
そのときもレオンハルトは気づかなかったが、離れたエコノミークラスには5人が乗っていた。
少年と女性は居ない。
代わって、少女が遼の傍に居た。
「あーったく!」
その様子を見ていた秀は腐り、伸と当麻は笑ってみていた。