AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

光の王-「波光」

NY編裏話妄想BY管理人4
2010年6月26日画像変更
「目的などと。しようもない理由です。単に写真について知りたかったので」
「写真とは?」
「事件性の低いものですよ。彼の写した風景に惹かれたからです」
「それでわざわざ?」
「はい。チロルの村の写真に」
ケビンはジェイルに目配せをしたが、ジェイルはうなずいた。確かに被害者の部屋にはそれらしい写真もあったのだ。
「では、貴方は追っかけをして巻き込まれたということですか」
ケビンは眼前の青年が写真家の追っかけをしていたことについて疑問を持ったが、受け取ったデータでは眼前の青年がオーストリアで研究員の傍らで当主として観光業に精を出しているというのは確かだし、写真家としてオファーに来ていたという結論にいたった。ケビンの脳内で生まれた「推理」を決定つけるかのようにレオンハルトは頷いた。
「そういう事になりますね」
レオンハルトは「観光を促進させるためにも彼の写した写真の、オーストリア周辺のデータが欲しかったので」と言って肩をすくめた。そこに、ドアが叩かれ、ジェイルが応じた。相手は制服警官で、メモを持っていた。
「どうした?」
ジェイルの求めに彼がメモを渡す。ジェイルは礼を言うとメモをケビンに渡した。ケビンはちょっと驚いた顔になって、レオンハルトに向き直る。
「・・・もう1人のことですが、アジア系の若い男性らしいです」
「そうですか」
ケビンはメモからレオンハルトに視線を移したが、レオンハルトが表情を変えることはなかった。
ケビンはそれを見て、犯人ではないことを結論つけた。が、レオンハルトはアジア系の若い男性について内心目星をつけていた。
-----ドジったな。
レオンハルトの脳裏に浮かんだのは、羽柴当麻である。15歳の少年に智将としての役割は重かったか。それでもアラゴとの戦いについては良くやった方である。
「そういえば、指紋は?私の指紋は取らないのですか?」
殺人事件があったのだから、一応指紋をとられると思うのだが。
ケビンはにこやかに笑っていった。
「貴方が犯人ではないのは明らかですからね。一応鑑識室に回してありますが、見てみますか?」
「お願いします」
あっさりとうなずいたレオンハルトに、ケビンは笑顔を張り付かせたままになった。ジェイルも眉をひそめた。
「あ、そう・・・ですか。こちらです」
ケビンはレオンハルトを促した。防犯対策に手錠はしないのか?というレオンハルトに、ケビンは「容疑者であればそうします」と言っただけであった。
後から続くジェイルはレオンハルトの背中を見た。
証拠隠滅でもするとしても、あまりにも無謀である。署内という場所を考えても明らかに現行犯となるし、行方の知れない、おそらくは真犯人であるという人間の共犯だったらあまりにもお粗末な手口である。
ジェイル自身、現役でトレーニングを欠かさないし、先頭を立って廊下のダンボール箱を避けながら歩いているケビンとて軍隊経験者でもある。ヨーロッパの王子様が抵抗してもできるものではない。
続いてレオンハルトが避けたのに気を取られ、ジェイルはダンボール箱につまずいた。
派手な音がしたので、ケビンに「前を見とけよ」と言われた。
「いつもこうして後輩の指導に当たっているのですか?」
「まあな。あいつは27だがまだ2年だ。あいつを一人前にした時が俺の引退する時だな」
ジェイルを待つために立ち止まってノンキに交わされる会話を聞きながら、ジェイルは箱を戻していた。近くで音を聞いた制服警官の1人が一連を見て眉をひそめる。
「ここが鑑識室だ」
「オーストリアと変わりませんね」
レオンハルトはざっと周囲を見た。鑑識室は薬品の匂いが充満していたが、レオンハルトにとってはオーストリアでいつも嗅いでいる匂いであった。室内はかなりのスペースを取っており、志信が居たら畳の数え方で12畳とか言っていただろう。
青白い部屋の壁沿いにキャビネットが並んで置かれ、ガラス窓からはいろんな薬品や道具が見えた。
さらに大型の機械もあって稼動しているらしくかすかに揺れていた。
その隣には、レントゲン写真を照らすためのパネルが煌々と白い光を出して写真の黒い部分を切り抜いていた。レオンハルトは注視していなかったが、そのレントゲン写真のうち数枚は、光輪による殺人事件の被害者の頭蓋骨と首部分が写っていた。いずれもかなりの握力で握りつぶされていたのが一目で分かるものであった。それを担当する鑑識員は眉をひそめながら、握力のデータを取っていた。当然である。握力の結果からヒトに出来る業ではないので、犯「人」なのかどうかを報告すべきか、上層部への報告書を作りあぐねていたのである。
何人かの鑑識員が冷蔵庫を開けては薬品を取り出したりしている。80年代のNYは治安がきわめて良くない場所もあり、ダウンタウンではその極みであった。そのため、レオンハルトが見たナイフのようなものの他に、血のついたジャックナイフや弾丸のような小さな球体までもがテーブルに、タグをつけられた袋に入ったまま並んでいた。

鑑識員の邪魔にならないよう、彼らは離れた場所で待機した。
鑑識員の1人がナイフの指紋を取っていた。
タイミングの都合なのか、ナイフの指紋はまだ取られていなかった。本来ならばその場で鑑識に渡されるはずだがとレオンハルトはいぶかしんだが、彼は先刻のサンライズエアライン機の水上着陸事件を知らない。このことを知っていたら警察の不手際について納得しただろうし、手元に烈火の鎧玉があれば妖邪に近い気配を感じ取ることも出来ただろう。「烈火」が手元から離れて数年、その力も後にすずなぎと対峙した時の「天空」の比ではなかった。
そして、それは署内の密偵らしき存在を感知することが出来なかった一因でもあった。
「あちらに見えるのが凶器です。・・・これから指紋の特定が始まります」
「そうですか」
レオンハルトはゆったりと見ていた。目標までやや遠いが、烈火の力が使えないことはない。烈火の力で指紋を消せばいい。
ケビンは頭の上に「?」を乗せていたが、鑑識の1人がケビンを見ると話し掛けてきたので、ジェイルに注意させて話を続けた。
「あの死体、背中と胸で2回刺されているよ。背中のはおそらく隙をついてのもので、反転するかされるかで胸に刺さったのが致命傷になったんでしょうな」
「そうか」
ケビンはレオンハルトを見た。王子様でも出来るやり方である。
が、レオンハルトはぼんやりとその方向を見ていた。ジェイルもレオンハルトを見ているのに飽きているのか、これまたぼんやりとしていた。
軽くため息をついてケビンが視線を鑑識人に戻した時。

レオンハルトはこの瞬間を見逃さなかった。

ジェイルもレオンハルトが軽く身じろぎしたのを見たが、何かをするわけでもなく腕組みをしただけであるのでそのまま鑑識の様子に視線を移した。

烈火の力が「見えない炎」となって凶器を燃やす。

「凶器」についていた「もの」は跡形もなく、磨かれたばかりのようになっていた。
ケビンは鑑識人との会話を終わらせると、レオンハルトを促す。
結局犯人であるという確かな証拠も無いので、釈放である。建前として連絡先を聞かれた後、ひとまずはホテルに戻ることにした。
取調室の入り口で別れる時、先ほどの鑑識人がやってきた。彼は妙に落ち着きもなかった。
先ほどの鑑識の結果を聞きつけてケビンとジェイルも眉をしかめた。
「ジェイル、お前ちゃんと見ていたか?」
「見てました。彼はじっとしていましたよ」
「私が何か?」
ジェイルとケビンはゆったりと立つレオンハルトを見たが、彼がその場に立っていた以上、凶器を交換することも指紋を消すことも出来ない。
そもそも鑑識室には他にも人がいた。
レオンハルトが何をしようと、すぐに分かるはずである。
ケビンもジェイルもレオンハルトをどうにかすることもできず、結局はその場で鑑識と別れた。