AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 炎のJUNCTION vol.2
2009年9月5日改訂
ナスティはしばらく受話器を持ってぼんやりしていた。当麻と伸がノックをして入ってきたのに気づいて、慌てて受話器を置く。
「何か用事でも?」
ナスティは当麻に向き直った。伸が遼のことについて話す。
「あのままじゃあ、遼が飢え死にするよ」
「遼の一言が原因・・・だと思いたくないが・・・やはりそうなのだろうな」
秀や征士ならともかく遼がそう言うとは思わなかったが、遼にとっても衝撃だったのだろう。つい言ってしまった。その結果がこれだ。かなりのものである。
ナスティは当麻がいつもの彼に戻ったことを見て、不安を感じた。あまりにもいつもの彼に戻りすぎている。
「一体何処に行ったんだろうね」
この世界は彼らの世界ではない。「壁」が消えない以上、元の世界に戻れない。
「そういえば、壁って何だ?」
「歴史の要所に行くと出来るらしいけど・・・」
月龍の話した内容を思い出した。政宗暗殺事件では断絶の危機を訴えていた。聞いていた当麻は顔をしかめたが。
「鎌倉時代は秀のだよね」
「真田家の場合は降りたとたんに壁に囲まれたって言ってたわ」
そして今はこの時代。
「俺達の身に何かが起きるということだろうか」
当麻は考えた。でも分からなかった。あの神父もどきは秀が狙いらしいが、この時点ではすでに現代である。秀を消したとしても、すでに鎧の歴史自体が「決定」されているのだ。目的が「世界の統合」ならば、輝煌帝が始まった時代に行けばいい。
当麻はふと月龍を思い出した。
「彼女の世界」の自分は家族を殺されたのだ。現在、万が一家族が殺されれば当麻自身が神父もどき同様、月龍に対して復讐をする可能性があった。------あくまでもこの世界に月龍がいればの話である。
「そうなると輝煌帝が無くなった場合彼らは戻れなくなることもあるんじゃない?」
伸の言葉で当麻はあの神父や虎人間が原初の時代で生活する様を想像した。シュールな気がしたのですぐに消したが。あの虎人間なら恐竜相手でも立派に生活できようが、それ以前の問題である。
「彼らは鎧を酷く憎んでいるわね」
ナスティは息を吐きながら言った。神父の顔を思い出した。当麻と同じ顔をしていると言っていた彼は、皮膚をはがされ筋肉が柔らかくなる薬を投薬されたという。そこまでされて、果たして原初の時代に直接行くのだろうか。
「僕だったら相手を徹底的にたたきのめすけどね・・・」
この数年の付き合いで伸の性格を知る当麻は心中で密かにうなずいた。ナスティは別の意味でうなずいていた。
「そうね・・・『元凶』に思い知らせたいとも思うわね」
そうなると、今後狙ってくることもあるのではないか。もしかしたら遼は大事な切り札を手放してしまったかもしれない。
「と、当麻」
「分かってる。言わない」
遼の表情を思えば言えない。この時、秀を危険に晒させてしまったかもしれないのだ。尚更彼は責め苦の悪循環に陥るのが目に見えている。
「そういえば秀は?」
「征士と一緒にいるよ」
リビングで征士に将棋を教えてもらいながら指しているという。純は白炎と一緒にいる。
「征士が一緒なら大丈夫ね」
「だといいが、相手が相手だからな」
おとといの夕方、神父もどきが純の背後に現れたときのことを思い出す。神出鬼没ではないか。
「それでも征士が居るんだから安心よ」
征士とて黙って秀を殺させるようなことはしないのだろう。白炎もいるし。伸はとりあえず遼を立ち直らせようとした。
「・・・・・・戻ってきてくれないかな」
伸は当麻とナスティを探るように言った。そうすれば遼とて謝ることも出来るのではないか。
「戻ってくるんじゃないか?」
「え」
「秀が居るんだ。あいつらだって元の世界に戻れるかもしれないことを考えたら、嫌でも会うんじゃないか」
「・・・今頃2人が彼らを消滅させていたら、もう二度と会えないよ」
伸は物思いに耽るようにつぶやいた。それなら、トルーパーたちの出番は無い。遼は一生あのままなんじゃないか。
「伸・・・」
ナスティは伸を見た。
「何か手がかりとかないかな。あいつらが行きそうな・・・」
「あるかもしれないが、手段は無いな」
2人の視線を受けて、当麻は続ける。モハーヴェ砂漠である。残念ながら竜樹が殺戮をした研究所については分からないが、話に出てきたこの砂漠に行った可能性はある。
「何で?」
2人同時の言葉にまたも続ける。
「この時代、モハーヴェ砂漠の研究所はまだあるんだ。運営していたらそこでデータを消している可能性もある」
まさか、あのような殺戮はしないだろうが、それでも後々のことを考えてデータを消す可能性もある。だが、問題もある。2人が転移した以上、こっちは簡単に行けない。
「モハーヴェ砂漠はあのアフリカの砂漠を髣髴とさせてくれるようなものだわ」
ナスティが伸に説明する。
どっちにしても「転移」という手段が彼らを隔ててしまっていた。
伸はおととい竜樹が遼を助けるための手段を講じていたことを思い出した。確かに八方塞がりだった。でもこのまま放っとけば彼らが「勝手に」してくれるのではないか。相手の最終目的が世界の統合ならば、まずあの2人が障害になるはずである。あの2人が勝てば自動的に元の世界に戻ってくれる。
伸はこの時自分が薄情な人間になった気がしたが、あの2人と秀とを天秤にかけるなら昨日今日付き合った他人と長年付き合ってきた仲間、しかも親友のどっちを選ぶかは明白だった。
「酷い奴だな、僕・・・」
「伸・・・」
ナスティは唇をかんだ彼の心中を思いやった。ふと当麻は伸を見てあることを思い出した。幻の中、秀の遠縁ながら伸によく似た雰囲気の男が竜樹に撃たれた当麻を診ていた。
「そういえば秀の遠縁で冷泉志信というのがいるそうだが、誰なんだ?」
「え」
「冷泉・・・」
ナスティが宙に目をさまよわせる。日本史にも詳しい彼女のことだ。聞き覚えがあるかもしれない。
「冷泉家っていうのは、かなりの名家ね」
記憶の引き出しから何かを取り出したらしい。
「俺も聞いたことあるけど、そんなに有名なのか?」
当麻は大阪在住である。ナスティは説明した。
藤原道長の子孫の一つで、伊達家と姻戚関係を持つ上冷泉家と、毛利家と姻戚関係を持つ下冷泉家に別れている。
伸と当麻はこれにあ然とした。
「あ、じゃ、その冷泉志信という人は、下冷泉家の方の人なのかな」
「知らないのか?」
「僕、そこまで詳しくは・・・」
倉庫を片付けることはあっても系図を開くことは無い。興味が無いからだ。ナスティは残念そうに言った。
「・・・宮内庁が古代天皇の陵の調査を許可しないということもあるけど、あれも歴史の真実を隠しているってわけよね」
時空を飛ぶという月龍は歴代天皇の秘密を知っているのだろうか?関係ないことを考えた当麻はナスティに向き直った。
「志信と言う人物について、心当たりは無いのか?」
「志信・・・」
ナスティは頭を振った。レオンハルトなら知っている。でも、志信という人物には心当たりが無い。
秀の遠縁だから、京都でひっそりと継承することも無く生きているのだろうか。
伸は頭の中でパズルがあったのを感じた。
「あ」
「え」
当麻とナスティが伸を見る。
姉の結婚式に来た人にそういう人が居たかもしれない。名簿でそういう名前を見た記憶がある。
あくまでもゲストなので、伸はろくにチェックせず親戚に任せていた。
「来てた?」
こういうイベントでは「弟の友人」が来ることはない。
「顔は見なかったけど、名簿に名前があった気が・・・」
「でも向こうは知らないんじゃないか?鎧のことなんて」
「・・・・・・知っているかもしれないわ」
ナスティの言葉に2人が顔を向ける。
「さっき先代烈火から連絡が来たの」
当麻と伸は目を丸くした。
「伸、貴方言っていたわね。月龍を当麻が殺そうとしていたって」
「うん・・・」
「その時、志信が何故あの場にいたのか分かる?」
「鎧を知っているからか」
「ええ」
レオンハルトともつながりがあるのではないか。
ナスティはぞっとした。
先代烈火と金剛、もしかしたら水滸の継承者がつながっていることは何を意味しているのだろうか。
「さっきの電話はなんだったんだ?」
「新宿のことについて訊いてきたわ」
衛星のデータについて質問してきたというのに、伸と当麻は顔を見合わせた。
「データ・・・なんでまた」
「もしかしたらこっちの動向をうかがっていたかもしれないわ」
当麻は彼が長いこと、もしかしたらアラゴの頃から自分達を見ていたのかと思った。
「でも変だな」
「何が」
「どうして自分が烈火の継承者だって名乗りをあげなかったんだろう?」
遼を否定するわけじゃないが、妙な話である。
「・・・思ったよりの人徳者だったとか」
当麻の科白に伸が否定する。二手に分かれたときの竜樹の話を思い出す。
「元々烈火は真田家が祀るべきだったと考えていたらしいよ」
それに秀の一族のことを考えると、遼こそが継承する上で妨げになってたんじゃないか?だが、彼は遼に道を譲った。
「・・・じゃあ、その冷泉志信も同様に、もしかしたら秀より先に迦雄須にあっていたんじゃないかな」
「・・・!」
伸とナスティは驚きだった。
その線で言ったら、水滸も継ぐ可能性があったかもしれないのだ。2人がどんな意図を以って遼、秀、伸に道を譲ったのか。
「表」のサムライトルーパーとして、彼らもまた奮戦していたのだろうか。
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