AEON―鎧拾遺伝サムライトルーパー―
天空の彼方―月龍編― 平安なる武士の終わり6
神父はゆっくりと、地面に降りた。
そして、月龍が貫きドラゴンが落とした槍を拾い上げた。
「剛烈剣・・・」
彼は槍を見て忌まわしそうな声で言った。そして、何故か月龍に投げて渡す。
「あと少しで大御親を消すことが出来たのですがね」
「おおみおや?」
意味が読めなかった。もしかして弁慶のことを指しているのか。
「後ろにいる男ですよ」
「・・・・・・」
「気づいたのでしょう?彼こそが金剛の鎧を後の清朝にゆだねた人物です」
弁慶は月龍と対峙している男が自分を憎しみの目で見ているのに気づいた。僧兵としてこの戦乱を生きてきたが、彼のような人間にあのような目で見られる覚えはない。月龍とて主君の言葉を信じるなら空から降ってきた人間である。大陸からの来訪者なら、仏教徒である自分でも知らない「あやかし」を知っていても不思議はないと一人納得していた。主の兄の密偵を警戒していたが、月龍に敵意はなさそうだったし主君も兄上との合戦を避けるべくして大陸に渡ろうとしていたのであえて何も言わなかった。
だが、目の前の出来事はなんなのだろうか?
御仏が何か試練を自分にお与えになったのだろうか?
「それで?」
私にどうしろというのだと月龍は受け取った槍をしまった。月龍同様に輝煌帝の力をその身に有する神父が何者なのかは分からないが「剛烈剣」ではきかなさそうだったので、マカブインで対決しようというのである。
「貴方がいると邪魔なので、とりあえずは消えていただきましょうか」
神父もどきは空間をゆがめようとした。だが月龍はその隙を見逃さなかった。マカブインを構えると突進する。神父は払われたマカブインをとっさに避けた。
「・・・」
再び向かい合うが、神父はすっかり笑顔を消していた。
どうなるかな。
月龍はしばらく神父を見ていたが、相手は弁慶を睨んだままだった。弁慶はというと、明らかにうろたえていた。自分が狙われていると分かっているが、どうしようもなかった。彼は話に出てくる「龍」を消した月龍に、なんとかあの怪しげな男を追い払って欲しいと思った。
「弁慶、お前、何か秘密でもあるのか?」
義経は忠信が配下に介抱されるのを見、月龍と謎の男の対決を見て言った。
「滅相もございません!私は何も・・・」
弁慶は口ごもった。ホントに知らないのだ。
「義の鎧を知らぬのか?この百年で野に埋もれたか」
神父は目の端で月龍を捕らえ、口元をゆがめて弁慶に語りかけた。その科白には毒々しさが浮き出る。
いきなり話しかけられた弁慶はぎょっとするだけであった。そもそも鎧というのは何だ?自分は一介の僧兵である。確かに父の妻の一人が義経の従姉であるが、鎧というのは主君である義経やその周囲が纏っていたものくらいしか知らない。月龍に質問しようかと思ったが、月龍は男を睨むので精一杯だった。
弁慶は義経や配下たちの困惑の視線を浴びたまま立ち尽くしていた。
神父はしばらく月龍と弁慶を睨んでいたが、風景に溶け込むように消えた。月龍は神父の気配がなくなるのを感じるとマカブインを納めた。
同時に自分に「封印」をかけた。
月龍が「元に戻った」のを見て、義経が声をかけた。
「・・・・・・終わったのか?」
「ああ」
義経の科白に月龍は答えた。
「お前、弁慶と何か関係でもあるのか?」
義経は詰問していた。無理もない、自分の配下が先ほどの竜のようなものに操られていたのだ。オマケに自分の姻戚関係にある弁慶が月龍の関係者だと分かると、合わせて弁慶をも詰問せねばならない。
「子孫だ」
月龍は観念したように言った。「遥か先の子孫だ」という科白は、周囲に爆弾を落としたようである。弁慶も目をむき出しに眼前の女性を凝視していた。
「お前みたいな女が弁慶の?」
義経は悪い冗談ではないかと思ったが、先ほどまでの騒ぎを思うと本当のことのように思えてきた。
「実話だ」
なおも簡潔に言い募る月龍に、弁慶は今度は口をパクパクさせるだけだった。
「とはいえ、事の真偽は分からないが」
このオチに義経は弁慶を指して突っ込んでしまった。
「お前、こいつの子孫ではないのか?」
「私自身孤児だったんで親のことは知らないよ」
養親こそが本当の子孫であり、その話をちらっと聞いたけど。
「・・・そもそも鎧とは何なんだ?」
「なんでも私の一族に伝わるもので」
月龍は先ほどの戦闘でついたほこりをパタパタと払いながら続けた。
金剛の鎧というのが日本から大陸に伝わっていること、その鎧は力の象徴であり、誰しもが纏えるようなものではないこと、未来において起こるであろう出来事に備えて子々孫々にわたって常に真なる継承者に渡すべく心を砕いていること・・・。
「弁慶、本当に知らんのか?」
弁慶はぷるぷると頭を振った。初耳である。義経はそんないとこ甥を見て、ため息をついた。
「金剛の鎧・・・か。そんなのがあればな」
「真なる継承者でないと無理ですよ」
月龍は義経を見て断言した。義経は兄に対抗する意味で言ったのだろう。だが、兄弟同士の争いに鎧の力は使うべきではない。
月龍はそう言った。
「そうだな」
義経は寂しそうに言う。忠信がうーんとうめいたので、彼を部屋で安静させるように指示した。忠信の両脇を同僚が抱えて廊下を行く。弁慶はというと、彼らと一緒には行かず月龍と義経の傍で待機した。眼前の女性が自分の子孫だというのはにわかに信じられないが、服装や「空から降ってきた」という言葉から察するに真実ではないかと思えてきた。
「そういえば」
月龍は弁慶の疑惑の眼を受けているのを感じながら、先ほど兄の屋敷で聞いたことを義経に話した。義経は酷く驚いていた。
「何処に行ったかと思えば、兄上の屋敷か」
だが、月龍の話を聞くと、唸った。
「私は正真正銘本物の義経なのだが・・・」
「証拠とかあれば信用されると思う」
義経が真実本人であれば、兄も安心して奥州討伐や対朝廷交渉がしやすくなるはずである。平家の娘には気の毒だが、離縁するという手もある。
月龍は自分の周囲がなにやら生臭くなってきた気がしたが、乗りかかった船なので最後まで見届けようと思ったのだ。
「大陸に渡るという件だが、弁慶に渡ってもらおう」
傍で見ていた弁慶は目をむいた。
「はぁっ?」
「私はもう命運尽きたかもしれん」
母上に証明してもらおうかと思ったが、母上は京の公家に嫁いでいる。しかも院の近臣だ。兄上にしてみれば父の妾でありながら平家によってしまっているのだ。仮に母上が証明してくれても、院の近臣に嫁いだという事実は兄上の不信を一層深めるだけである。下手したらその公家の親戚の息子を利用したと言われかねない。平家の娘を妻に迎えてその父親を刑地に流さなかったこともあるし。義経はそういって弁慶に向かった。
「弁慶、そなたは京に戻ったらそのまま大陸に渡れ」
それはすなわち月龍たち子孫を守るということである。弁慶はもはや何も言わなかった。
しばらく月龍と「未来世界」について語っていた義経は、数日後に京に戻ることになった。弁慶はというと、京に戻った後で大陸に行くことを希望した者達を募り、義経がこっそりと手配した船に乗って大宰府から半島経由で大陸に渡った。
月龍は弁慶が旅立ったのを見届け、時空間に飛んだ。今度こそ大丈夫かと思った。ただ、神父もどきの言っていた「大御親を消す」という言葉に引っかかりを覚えた。冷泉家の話では母祖や父祖、始祖を示すという。翻訳機能で何故かそう訳されているという点を踏まえても、彼が弁慶を何故「始祖」と見ていたのか。彼もまた月龍の一族なのか。
研究所のデータでは全クローン&キマイラで生存が明確なのは月龍しか居ないとあった。あくまでも明確な話であり、もしかしたら研究所ごとに隠されていたかもしれない。NGC研究所が支部ごとに協調的で無いのは、月龍自身の目で見た事があった。それでも輝煌帝の力を受け継いだ人間が2人いるというのはおかしな話である。
月龍は疑問を抱えながらも時空間を渡った。
弁慶はたどり着いた先で主君でありいとこ叔父である義経について語って血脈を伝えていたが、いつしか義経本人の話となり、後に秀麗黄が純に語ることとなった。
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