AEON―鎧拾遺伝サムライトルーパー―
天空の彼方―月龍編― 平安なる武士の終わり6
月龍は足元の図を消して、そっと茂みから抜け出した。再び時空を飛ぶ。
義経のいる館に降りると、あの神父もどきの気配を感じた。
「まさか?」
あの神父がここに?
よくよく気配を探ると、なんと先ほど別れた部屋に感じる。
「あいつ、義経とどう関係があるのだ?」
先ほどの門前に直接下りたが、誰一人とていない。
警護役もいない。
嫌な気配を感じて急ぎ義経のいる場所に向かう。
先ほどの部屋に行くと、義経は剣を構えていた。周囲の護衛も刀を抜いたが、中にはどうしたら良いのか分からないといった風体で刀を抜かずおろおろしている者もいた。
「忠信!どうしたというのだ!!」
義経の前には忠信と呼ばれた男性が刀を構えている。弁慶をはじめとする武士たちも忠信の様子に眉をしかめた。忠信は配下の1人であるが、月龍には背中を向けているため、義経たちが刀を抜いても斬ろうともしない理由を見出せなかった。
神父もどきの気配をなんと彼から感じた。
「月龍殿!お気をつけなされ!」
弁慶は月龍に気づくと、服が変わっていることに目を丸くしたものの制止した。
「どうしたんですか?あの人・・・」
ちょうど自分に背中を向けている忠信を示した。
「分かりません。月龍殿が出かけられた後、あの忠信が殿の部屋に入られたと思ったら・・・」
どうやら斬りかかったらしい。
が、それでも月龍は忠信と義経と神父のつながりを理解できなかった。
二人が鎧に関係があるとは思えなかったし、周囲で「鎧」のかかわりを見出すことは出来なかった。
否、いきなり感じた。傍にである。周囲で忠信と主君を囲んでいる者達から、「鎧」を感じた。
月龍は誰が?とおもった。
忠信から目を離さず、こっそりと周囲を見た。その出所は大柄な男からだった。
弁慶だ。
彼が・・・。
月龍は絶句した。
この礼儀正しそうな男から、鎧の継承者が?
ひいては自分に連なるのか?
すると、忠信は気づいたのか、背後の月龍に振り向くと斬りかかった。
日本史は知らないが、神父が関わっている以上無傷で止めたい。
月龍は神父の支配下にある彼を止めるべく、「封印」を解いた。その姿は「男」であった。
身長は高くなり、体つきも幅広くなってきている。髪はそのままで、顔立ちは微妙に異なっていた。それでも雰囲気は変わらなかったが。
その場にいた全員は絶句した。義経もあ然と月龍を見つめた。
無理もない。女性だと思った人物がいきなり男性に代わったのだ。「アンダーギア」のままの月龍は忠信の刀を、瞬時に出したホーリーロッドで止めた。このホーリーロッドは素材は不明だが全体的に銀色で、上部に羽根を生やした珠を据え付け、湾曲した部分に細長い、白い布が下がっている。剛烈剣の「姿」を変えたものである。
ガキンという鈍い音を出して、ホーリーロッドと忠信の刀が交わる。ホーリーロッドにつけられた白布が最初は大きくたわみ、次第にゆっくりと揺れていった。
月龍はホーリーロッドで止めながら忠信の顔を見る。目はうつろで、口がだらんと開けている。明らかに通常時ではない。だから義経も弁慶たち配下も忠信を斬ることが出来ず逃げ回って見ているしかできなかったのだ。
さて、剣を止めたはいいが、どうしたものか。
月龍は瞬時に輝煌帝の力の一つを思い出したが、魂魄の抜けた死者を操る力であって意思もある生者を操ることは出来ないはずである。忠信は明らかに生者であった。
彼が後々も生きるというのであれば、止めを代わりに刺すということもできない。
「あなた達はそのままで」
月龍は忠信が同胞の手で止めを刺されることのないよう、彼らに手出しを禁じた。あの神父もどきの支配からなんとか彼を救わないといけない。義経は紐であやつられた人形のようにこくこくとうなずくと、部下のところに下がった。
月龍はうまく忠信を庭に誘導し、地面に倒す。忠信は地面に突っ伏したと思ったら、体から何やら青いものを出した。それは徐々に細長くなり、明らかになっていった。
「・・・・・・ドラゴンか。青龍かな」
NGCで見た人工のドラゴンである。細長く太い体には、あちこち繋ぎ合わされたらしい手術跡があった。精神体になっているが、魂魄をこの世界につなぎとめたのだろうか。
魂は死んだ当時のままで現れるというのか?
月龍の背後では弁慶が「あれは拙僧が寺で見ました竜神でございます」と義経に解説していた。とことん丁寧な人である。義経は「それはいいからあの竜を何とかしろ」と弁慶たちに月龍の援護を指示したが、月龍としてはむしろドラゴンの下でのびている忠信を怪我しないうちに連れて欲しいと思った。幸いなことに忠信は寝ているだけのようである。彼がドラゴンの下でうめいているのが聞こえたのだ。
後に伊達征士に弁慶について述べたところ「何故秀はああまでざっくばらんなのか・・・」と漏らし、それを聞いた秀と一触即発となった。
形になった人工のドラゴンは月龍を睨み、襲い掛かってきた。
月龍は避けなかった。むしろ正面を見据え、「ホーリーロッド」を「銀の槍」にかえる。槍は銀色の軌跡を作りながらドラゴンの大きく開いた口に叩き込まれた。槍はドラゴンの口を貫いたので、ドラゴンは滅することもなく苦しみに悶えていた。消滅しないとはかなりの「念」である。
月龍はドラゴンが悶えながら忠信から離れたのを見て、忠信を抱える。
気づいたドラゴンは月龍に、槍が突き刺したままの口を向け大きく開いた。周囲の空気が冷えた気がした。
ヤバい。
忠信を室内から見ていた配下たちに渡して、彼らへの冷気の波動を遮断する。
それを済ませると、月龍は義経たちと反対に移動しようとしたが、間に合わず自分の周囲に結界を張る。
ドラゴンは怒りをぶつけるかのように冷気を吐いた。
空は明るく太陽が照っていたが、周囲の気温は一気にさがり、庭の木々がドラゴンの冷たい息で白く凍りつき、パリンという音を出して葉や茎が折れた。
遮断していてもやはり気温が下がったらしく、背後で「うぉっ」「何で寒いんだ」という声が聞こえた。
冷気を出させるような能力を持っているのかと思ったが、ドラゴンからは輝煌帝の力を感じる。冷気そのものはおそらく「水滸」の力であろう。
やはり神父が居るのだ。どこかで見ているのか。
月龍はもう一つの剣「マカブイン」を瞬時に出した。ドラゴンの口に刺さったホーリーロッドがわずかに光る。
剛烈剣でもあるホーリーロッドは、譲られたときのカスタマイズのお陰か、「マカブイン」などを入れるポケットが出来ていたのだ。身の丈が月龍ほどもある「マカブイン」は「デュランダル」同様ひそかにNGC研究所から運び出され、ロートリンゲン家に保管されていた「対光輪用の『魔』剣」である。元々「鎧」の武器に対抗しうる武器の開発により生まれたが、レオンハルトは急ぎ月龍に依頼して「対『鎧』」として開発された武器を回収しデータを完全に廃棄させたのである。
今度はそれでドラゴンを二つに分けたが精神体なので血は出なかった。代わりに怨嗟の咆哮を吐くとそのまま周囲の景色に溶け込むように消える。
同時に槍が地面に落ちた。
義経たちは呆気にとられていた。それでも気を失わなかったのはさすが武士である。
月龍がマカブインを降ろそうとしたときだった。
「失敗ですか」
先の時代で見たあの神父が空に浮かんでいた。
空に浮かぶ見慣れぬ人物を見て、義経たちはあ然と成り行きを見ていた。この時代にキリスト教はまだ来ていないらしい。もっともキリスト教が日本に来るのは300年後であるが、月龍は知らない。
「貴方の居ない隙を狙ったのですが、読みが甘かったようですね」
「今度は義経を狙ったのか?」
「いいえ」
神父はやはり笑って言った。小馬鹿にしたような笑いである。
「あそこの大男を狙ったつもりですが、やはり獣は獣。小さいほうを狙ったのですね」
やれやれという感じでため息をついた。
月龍は神父を見据え、マカブインを構える。槍と化した剛烈剣はドラゴンが消えた場所、ちょうど神父の背後にあるので取れないのだ。
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