AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

天空の彼方―月龍編― 平安なる武士の終わり4

男子として生まれても天空の継承者としてだったら一族では重んじられたかもしれない。当時は生まれたばかりでしかも「金剛の継承者」として失敗作だった。後に「天空の後継者」だと分かった時は既に何もかもが手遅れだった。

国外に出ているときに出生の全てを知った。15歳のとき、チャイナタウンに住むNGC研究所の元研究員が、月龍がロートリンゲン家の養女であることを知るとデータの買取を検討してきたのだ。もちろん拒否したが、翌日、元研究員の死体が河に浮かび、警官が集まっている家を覗き見たところ荒らされていた。無くなっていたのはNGC研究所のデータだけであった。

半年後、全てを知ったときはこんな人生を歩ませた養兄には腹を立てていたし、すぐに戻せとも言いたかった。だが、彼は烈火の鎧を持っているのに、いつでも殺すことは出来たのに、何故そうしなかったのか。女児として封印した後は孤児院にでも押し込めてどうなろうが知らんふりを決めることも出来たはずである。
何故わざわざ養妹として引き取り、人間としても女性としても最高レベルといえるほどの教育を受けさせたのか。
そこに彼の烈火として、さらに仁将としての思いもあったのを、望んでもいなかった「智」で見抜いた。

物思いに耽る月龍の傍で義経はふーと息をついた。
「せっかく奥州から出て兄上に会えたのに、どうしてこうなるのかな」
月龍はなんともいえなかった。
彼は、できれば兄との対決は避けたいし、避けられないならやはり刀を交えるしかないのだろうかと言った。
天皇家の家長である上皇からの褒美を、弟が受け取ることを喜ばない兄がいるのか。
月龍は現代の兄弟関係を思い返したが、やはり現代の欧州と12、13世紀の日本とでは異なるもんだと悟った。養兄は私が賞を取ると喜んでくれたものだが、これもさすがに当てはまらないだろう。そもそも私は国王を死に追いやったあげくに即位の為の道具をなくすようなへまはしていないのだ。
月龍が一人うなずく傍で義経はぼそっとつぶやいた。
「やはり、命令を無視したのが悪かったのかな」
「命令?」
「兄上は壇ノ浦での功労として任官された私たちに鎌倉に戻ることを禁止したんだ」
月龍はあ然とした。
それでここで足止めを食らっているのか?それでは当然の命ではなかろうかと思ったが、そもそも任官とは?それはつまり、ご褒美が任官だったということ?
「そうだ」
「任官ってのは、その上皇に仕えるってこと?」
月龍は自分がどこぞの王家に某かの役職で仕える様子を想像した。

養兄が自分の領地で軍事力を集めたいのに、肝心の、代行とはいえ責任者である自分が仕事を済ませた後で王家にひょこひょこと報告をし、とっとと戻ってくれればいいのに何故か任命されてしまったら。彼は義経の兄のように激怒とまではいかなくても、何でそっちにいるんだと言うだろう。
オマケに自分が国王を死なせ、しかも即位の為の道具を紛失させたために養兄がその責任を負わされたとしたら。現代の会社でいうならクビにしようとした奴が他の会社の、しかも社長の権力におもねっているように見えるだろう。
養兄はこの不手際に対して頭を抱えるだろう。
何よりも自分の為にライバルを倒してくれたと思っていた自分の養妹が自分の戦略について何も考えていなかったとしたら、彼としては泣きたくなるだろう。
そういう人だ。月龍は義経の兄と自分の養兄、つまり夫であるレオンハルトの性格を比較してみた。

「そうだ」
月龍は頭がくらっとしたのを感じた。
コイツ、分かっているのか?兄の怒りの原因が自分の身近なところに隠れていることが。
月龍は義経に自分の推測を述べてみた。
「多分、お兄さんはあんたのその能無しというか能天気さに呆れているんだと思う」
酷い言い方である。現代の義経ファンが聞いたら袋叩きにしそうな科白である。だが月龍にとっては事実なような気がした。
「の、能天気・・・」
「うん。もうとっとと不手際を謝って任官された役職を返上し、再度お兄さんからお叱りでも何でも受けなさい。てか、そうしろ」
「あ、でも・・・」
大江広元という監視役に先日腰越状を渡してしまったことを説明した。
月龍はその内容に上皇に関することを書かなかったのかと聞いた。役職の返上と再度兄の直接的な指示に従う旨を書いていれば、何とかなるのではと思ったのだ。
だが、書かなかったという。兄弟としての情けに訴えていたというのだ。
月龍はため息をついた。
軍事力をまとめたい人に、兄弟の情けは逆効果ではないだろうか。レオンハルトなら「とりあえず戻って来い。叱るのはそれからだ」というだろうが。
月龍はふと、兄の顔をみてやりたい気にかられた。
「な、何じゃ?」
「何でもない。・・・・・・ちょっと外に出てもいいか?外の空気を吸いたい」
神父もどきの気配も無いので、先の時代の少年のようなことも無いだろう。義経から離れても大丈夫な気がした。悲しいかな、月龍は日本史の深部を知らなかった。日本史をもっと深く知っていれば、神父もどきの狙いが義経ではないことに気づいたはずである。
「いいけど。大陸への行き方をもっと詳しく知りたいが、いいだろうか?」
「いいよ。少ししたら戻ってくるから、そん時に続きをしよう」
「分かった。部屋を用意させるよ。大陸風じゃなくて居心地が悪いけど、そこは日本の国柄、我慢してくれ」
大陸じゃなくて欧州だが、「文化」の伝播はあっても「情報」はそれほど届いていないらしいな。月龍も、日本に行くまでに日本のことを黄金の国だと思っていたくらいだ。養兄はそんな月龍を見て正しい知識をと、冷泉家に連れて行ったものである。
月龍はうなずくと廊下に出て、弁慶に軽く頭を下げた。
「いってらっしゃいませ」
礼儀正しい男だ。ベンケイというのも聞いたことがないが。後で志信に古文書の閲覧を頼んでみよう。

外に出た月龍はふと自分の格好を見た。あの夜からずっと同じ服である。
このままでは動けないかな。
人気のないところまで歩いてから、スーツを天空のアンダーギアに変える。その様は中華街の鎧の影響を受けたのか、オリジナルのものではない。
鎧って、纏う者の精神状態か周囲環境に左右されるのだろうか。
しみじみと自分のアンダーギアを眺める。これではアンダー「ウェア」だが、一応アンダー「ギア」で通しておくことにした。
オリジナルはもっと違う形、つまり硬質的であったが、こちらは「布」であった。少し昔の中国の普段着であろう。オーストリアでいうなら、シャツの上に長いベストをつけた感じである。青いとはいえこれは晴れた空を意味しているのではなく、宇宙の雄大さを示すような蒼さである。色だけはオリジナルと同じだ。このアンダーギアをまとうと「光」との契約で手に入れた天空の力がずば抜けて強くなってくる。体中に天空の力が満ちてくるのが分かる。
月龍は時空を飛んだ。

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