AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
天空の彼方―月龍編― 平安なる武士の終わり2
「そうか」
義経が身を乗り出してきたので、月龍は頭をのけぞらせた。
何だコイツ?
冷泉家の当主なら義経を知っているので、目の前の人物に対しても上手く応対できよう。
だが月龍はオーストリアでオーストリア人の養父とインド人の養母によって育てられたオーストリアっ子である。そのためフェリペ2世やマリア=テレジアなどオーストリアの歴史から始まって南、東アジアのマハトマ=ガンジー、チャンドラ=ボーズ、関羽に至るまで知っている。が、日本は京都に住む従兄によって京都御所や二条城などについてある程度の知識はあっても深くは知らなかった。また、最近は竜樹が日本のゲームにはまっていることから月龍も一つ二つやってみたものの、日本の文化については深くは知らない。竜樹がトーキョーゲームフェスティバルに行った時、お土産として何やら可愛らしいキャラクターのクリアファイルを頂いたのを「可愛いね」と言って仕事用に使っている程度である。日本人と一緒に仕事をしていたとき、月龍をオーストリア人の養女だと知った日本人に「遥かな時を越えて」という女性向けゲームだと説明されたくらいであった。
不審者の目つきで義経を見るが、彼から何やら妙な雰囲気を感じた。ただ事ではないことが、彼の身に起きている。
まさか、神父もどきが彼に何かをするつもりなのだろうか?
義経の気配を探りながら月龍はたずねた。
「大陸に行きたいの?」
義経はうなずくと話を続ける。内容は月龍にとってはちんぷんかんぷんだったが、それでもうなずきながら耳を傾けた。
我らの仇敵である平家を滅ぼしたのはいいが、兄上が何やら怒っていて会ってくれない。
仕方なく説明をしに鎌倉に行ったが、ここで足止めを食らっている。
どうしたらいいものか悩んでいる。
もし兄上が自分を滅ぼすつもりなら、大陸に渡るという選択肢もありえるのだろうか。
「鎌倉に行く」からここは東京に近いのだろうか。日本への渡航歴はあっても東京と京都くらいしか行かないので、他の地域には疎い。国内の移動は「新幹線」ではなく飛行機だったので、どこに鎌倉があるのか判断が付かなかった。
兄弟げんかでここまで大きくなるのだろうかとも思ったが、欧州の歴史を思い出してうなずいた。
この時代の日本の操船技術を知らないが、先ほどの「日宋貿易」、つまり外国との貿易が出来る以上、大陸に渡ることも可能であろう。
「日宋貿易が出来るなら、大陸へも渡れるでしょうね」
日本の「形」についてはある程度知っている。時代は分からないが、もし日本の国土が現代同様に弓なりになっているのであれば、大陸に一番近い岸を経由すればいいのではないか。「世界地図」という概念がこの時代にあるかどうか疑わしかったので、詳しくはぼかして説明する。
「そうか」
「確か、北にも一番近い岸があったな」
月龍はおぼろげながら、北海道の地理を思い浮かべた。
義経はここで立ち話もなんだから、館に案内しようと言った。館は近く、義経によれば散策に出ていたという。
月龍は初対面の異国風の女を自分の家に連れ込むその精神に眉をひそめたものの、義経の方はまったく気にしていなかった。それほど精神状態が極限になっているのだろうか。月龍は先ほどの義経の兄について質問してみた。
「そんなに仲が悪いのか?」
月龍は隣に立って歩いた。その様は月龍の服がスーツでなければ、夫婦に見えたことだろう。義経は気配りが出来る人間らしく、月龍の歩調に合わせて歩いていた。
「元々母違いな上に兄上は関東で生活していたし、私は比叡山に預けられていたから交流自体がまったく無いのだ」
関東とは東京を中心としたエリアで、比叡山は冷泉家が居を構える京都にある。
月龍は日本地理を思い浮かべた。東京の空港で国際線から国内線に乗り換えて京都まで行った。冷泉家の当主は、月龍の日本の知識について懸念したレオンハルトに頼まれて、少女だった月龍をあちこち案内し比叡山にも連れて行ったのだ。魔王尊が億単位の昔にこの地に降りたのを知ったときに45億年前に出来たという地球の歴史と合わないことを指摘したら、冷泉家の当主に「ファンタジーってのはそんなもんだよ」とかえされた。
「異母はともかく、何でまたそんなに遠く?」
「平家との戦いで我ら源氏は滅亡の憂き目を味わったのだよ」
だから年長者は処刑され、我ら年少者はあちこちで監視の下成長したのだ。そして以仁王の宣旨が発されると、監視を抜けて兄上に会う事にした。
「だが、あの時は私を弟だと認めて下すったはずだが」
義経はため息をついた。
このあたりの歴史は詳しくないが・・・。月龍はとりあえずうなずいた。
「今も宗盛親子を連れて鎌倉に入ろうとしているが・・・」
彼らだけが今鎌倉で兄上と会っているという。
この武士の話を聞いているうちに、館に着いた。館は木で作られていた。
日本の従兄の家に似ているなと月龍はじっと塀を見た。
オーストリアのと異なって板の塀が続いている。先ほど出会った散策コースらしい道には家が見えなかったので、この家がどれだけの規模なのかは判断がつかなかった。ただ、オーストリアの家は階段があったが、こちらの家は階段が無くまったくの平屋であった。月龍は建築方法について脳内で台所や使用人室などを含めてオーストリアの家を平屋に直してみた。全ての部屋を1階においてみたらかなりの広さだったので、おそらくこの板塀が続いている家もかなりの階級の者が住む場所であろうと思った。
義経は木の建物が珍しいのかと、板塀をじっくり見ていた月龍をせかして中に入れる。
中は庭が広がり、玄関があった。玄関は開け放たれており、月龍の居る場所から「靴」が見える。「靴」は義経がはいているものと同じであり、オーストリアの牧場で見た藁に材質が似ていた。きちんとそろえられている「靴」を見て、月龍は現代日本の治安事情を思い出していた。
義経というのはおそらく地方領主か何かといったある程度のポストについているのだろう。というのも、周囲で護衛らしい者が数人、義経を認めると順に挨拶していた。護衛たちは、皆義経と同じ服装に、これまた刀を携えていた。中には洋装の月龍を見ていぶかしむ者が居たが、義経の「大陸からの客人だ」という言葉に従って黙って従った。
「殿、お一人ではあぶのうございます」
入り口からぬっと出てきたのは大柄の男だった。着る服は義経と似ていた。身長がかなりあり、文字通り大男である。
いきなりの出迎えに月龍は思わずたじろいだ。長身でありながら飄々とした感じの竜樹とはまた違う威圧感を覚えた。竜樹が「動」ならこっちは「静」であろう。
「大丈夫だ。・・・・・・思わぬ拾い物だが、丁寧に扱え」
「拾い物?こちらの女性は町の女ですか?」
大柄な男は、月龍の服が珍しいのかまじまじと見る。月龍は身じろぎしながら大柄な男の視線を受けた。義経に「拾い物」扱いされたことに突っ込むのも忘れて、大柄の男に見入ってしまった。
「空から降ってきた」
「はぁっ?」
「月龍です。よろしく」
「はぁ、武蔵坊弁慶でございます」
大柄の男は煙に巻かれたかのように、月龍につられて挨拶した。
月龍は彼らを見て、先ほど義経が言った「平家」について考えた。冷泉家にその写本というのがあったような気がしたが、一向に思い出せなかった。
後に竜樹と合流した時に秀から「そりゃ、俺の祖先だ」と言われ、ナスティや当麻からは「それ、日本では有名だよ!」と、「ドキュメンタリービデオ」に撮ってきて欲しかったと悔しがられた。さらに伸、征士、遼、純にいたっては「義経って、ホントに大陸に行ったんだ・・・あれ?でも義経じゃなくて?」とあ然とされたが、今はそんなことを知る由もなかった。
ちなみに竜樹は義経についてやはり知らないらしく、眼前の彼らの狂騒をみて目を丸くしていた。
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