AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

始めに光ありき−月龍サイド−

月龍は竜樹の広い背中を見送ると、ため息をついた。
研究一途な(例外もあるが)周囲の非好意的な視線の意味を理解したからだ。
・・・ああいうところさえなければ、最高のパートナーになれると思うんだが。
だが、月龍と異なって竜樹にその気はない。出生自体があまりにも忌まわしく、彼自身がそう望んでいないからだ。もっともその出生ゆえに彼には次代を繋ぐ能力がない。仮に出来たとしても、彼自身はやはり結婚どころか2世を生み出すようなことはしない。
NGCは彼の「故郷」を消し去り、彼の「親」を連れ去った。
その間に待望の烈火、金剛、水滸の継承者が生まれたが、金剛の継承者はわずか4歳で死亡した。これをもって「トルーパー」計画が発動され、残りの鎧を求めた。

が、鎧というのは生まれや身体的なもので決まるものではない。

竜樹は人工授精で生まれたものの継承者としては失格者だったが、生物兵器としての被験体としては成功を収めた。
親となる存在の等親が極めて近すぎたために、さらに「虎人間」の血もあいまって次代を繋ぐ能力を持たないまま生まれた点を除けば。
能力としては最強だったので、いわゆる「使い捨ての兵器」としては格好だった。万が一子孫を残して、彼らが「親」の仇討ちをしないという保証もなかったことを思えば完全な成功であろう。
最終段階として彼がヒト社会に適応したら「回収」し、「クローン」計画に使う手はずだったろう。
だが、ここでNGCの誤算が生じた。
竜樹はあまりにも養親に適応しすぎた。
養親を守るため、カリフォルニアにあるNGCの遺伝子チームを消したのである。完全な壊滅だった。
その有様は凄惨の一言で、そのまま彼の心情を表していた。
そして現在はFBI捜査官に就職し、「上」からの要請にしたがって合衆国とNGCのつながりを探っている。
かつての過去を思い出して月龍は再びため息をつくと地質のデータに目を落とす。グラフに違和感を見つける。内容から察するに埋まっているものがあるのだ。
ここは合衆国の南部とはいえ、南米にあったというインカ帝国からは遥か北だ。そんなところで何故インカ帝国の遺産があるのか。
その疑問がスペインからのつてで、彼女の夫である「上」から伝えられた。
「上」は元々スペインにもつながりがあるので、自然とインカ帝国にもつながりが出来る。
かつての「スペイン人による略奪」同様に「現代人による盗難」の可能性もあるので、FBI捜査官の新米である竜樹が寄越されたのだ。本人はもっとマシな仕事がしたかったようだが、それでも殺人事件よりはマシである。
そう言ったら竜樹は手をひらひらさせて「分かったよ」と言った。かつてのモハーヴェ砂漠での出来事もまだ記憶にあるのだろう。数年前だが、もう遠い思い出だ。レオンハルトが告発をしてくれたお陰で、大本であった「団体」は瓦解した。残念ながら「トップ」までは至らなかったものの、それでも「トルーパー」計画の歩みを遅らせることには成功した。合衆国では末端組織を掃除するだけである。
「ロートリンゲン博士」
彼女は自分を呼ぶ研究員を見た。先ほど竜樹をとげとげしい目で見ていた女性だ。メガネが印象的なデザインである。本人曰くロサンゼルスで活躍するスターのかけるようなメガネが欲しかったという。
「・・・何か問題でも?」
研究員はメガネを軽くかけなおして、彼女の手のデータを覗いた。
「いえ、何もありません。そちらでは何か手がかりでも見つけましたか?」
「はい。・・・いえ、手がかりと言うか・・・」
「?」
「水晶のようなものが見えます」
彼女はそう言って発掘した場所に案内した。
「柳生博士にお知らせしようか、と思いましたが」
実質的な現場指揮者は柳生博士だが、どうやら何かの用事で出ているようだ。目の前の研究員はまだ大学院在席なので、発掘などに関する決定権などは無い。月龍は柳生博士の配下ではなく助っ人扱いであるが、柳生博士に次ぐ権利を有している。
「分かりました。とりあえずこちらは私が確認します」
「はい」
研究員に道具を取りに行かせ、月龍は足元の土を軽く払った。空気は熱を持っているが、日陰は幾分か涼しい。埋もれていたのは水晶だった。水晶は尖っていたり棒状だったりと色んな形のものがあったが、「あの件」に関わるようなものは無かった。
そもそもインカ帝国のあった場所は南米大陸の、しかも南西である。19世紀のカルト集団の名残である可能性もあるので、おそらくはそっちであろう。
「あの件」はかつてのモハーヴェ砂漠での研究所での「研究内容」の一つを示す。脳をいじって恐怖や哀しみを取り除く完全な兵士を作るというもので、インカ帝国で脳手術が行われていたという不確かな情報から研究が行われていた。が、ここにはそんな痕跡は無かった。むしろ宗教団体が弾圧を恐れて隠したような雰囲気だった。水晶の類は、おそらく像についていたものを隠した。それぞれ形状が異なるのもそのせいだろう。
無駄足か。
月龍はこっそりとため息をついた。
それでもNGCのような実験はないので、ある意味喜ばしい話である。
出来れば実験の被害者を、「輝煌帝」の力で送るようなことは避けたいのだ。「輝煌帝」の力は確かに数年前のモハーヴェ砂漠で彼らを冥界に送った。だが、同時に恐ろしくもある。あれだけの破壊力を今もなおこの身に宿しているという事実は、時として月龍を「破壊衝動」に駆り立ててしまう。
幼い頃に寝物語で知った神話の神々になるつもりは無いし、かの水晶の谷にもう一度封印をしたいくらいである。だが、そうなると新しい継承者が果たして正しい使い道を見つけてくれるのか、月龍自身予想できない。「輝煌帝」は長い間、伝説の神になぞらえられてきた。ギリシャ神話のゼウスしかり、インド神話のインドラしかり、日本神話の天照大神しかり。
それだけの「存在」を、身のうちに秘めるのは恐ろしかった。
かつて同じ鎧の継承者と見えたときは、お腹の子供を守るためとはいえ「輝煌帝」の力を使うことがためらわれた。結果、竜樹が「彼」を射殺する羽目になった。

鎧の継承者同士が争うようなことになってしまったのは憂えるべきことであった。

その時、後ろから突き刺すような視線を感じた。眉をひそめて振り返ると、そこに居たのは研究員や教授、そして今しがた戻ってきた柳生博士だけだった。
私を見ていた?
しかし、そこにいる全員は自分の手元にある紙や道具を見るのに手一杯で、誰一人月龍に視線を寄越すものはいなかった。
疲れているのか?
つい先週までは大西洋を隔てた場所で6ヶ月の息子をあやしていたのだ。早くこの仕事を終わらせて「異状なし」と報告したい。本来なら従兄の志信がここにくるはずだったが、彼は彼で部下のトラブルにつき合わされている。月龍は軽く胸に手をあてる。
乳腺炎になってたらどうしよう。
そう思っていたが、やはり視線を感じる。ふと視線の正体を思い出す。
かつて研究所で受けた視線と同じ-------?
もしかしたら、これは研究所と関わっているかもしれない。月龍はすぐに携帯を取り出して、竜樹を呼んだ。

始めに光ありき-竜樹サイド- 再び・・・-竜樹サイド-