AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−
交わる光と闇 交わる時
「お姉ちゃんっ!」
「分かってる」
まさか、私たちまでターゲッティングされていたとは。
ナスティは焦った。
神父に似せた者が、私たちを狙うとは思わなかった。
ひたすら高速道路を走らせるが、「新宿」の道路標示は見えなかった。
あるのはライトに照らされた道路だけだった。
ライトを上にする。
本来なら暗いところですれ違う時は下にするべきだろうが、すれ違う車が無い以上前を確認すべきなのだ。
そのときだった。
「な、何あれ・・・」
純はライトに照らされた先にある黒いものを見た。
ライトが照らしていたのは鳥だった。
フクロウなのかと思った。
しかし、フクロウにしては体つきが違った。山中に居を構えていた遼に、巣から落ちて怪我をしたフクロウのヒナの保護の仕方を教えてもらった。フクロウのヒナは丸々としていて、短い首を精一杯伸ばして餌をねだっていた。
だが、アレはフクロウではなかった。
鶴のような鳥だった。近づくにつれ、さっきは気づかなかったが、赤く輝いていることに気づいた。
「ガルーダ?」
ナスティは目の前にあるものが信じられなかった。ガルーダとはインド神話に出てくる金翅鳥である。が、この場合はむしろ秀から聞かされた中国神話の「鳳凰」がふさわしいだろうが、狼狽したナスティは思考回路を完全にシャットアウトしていた。
それに鳥は彼女たちに啓示を下しにきたわけではない。ナスティはライトに照らされた鳥が車を認めて舞い上がった時に自分達への敵意を感じて、足元を一気に過ぎようとスピードを上げようとした。
が、不思議な力で車は徐々にスピードが落ち、羽ばたく鳥の足元に停まる形となった。ナスティは必死にアクセルを踏んだが、壊れたのか反応しなかった。
「お、お姉ちゃん・・・」
純は目の前のボンネットに立つ鳥をみて、目を見開いた。
赤く輝いていると思っていた鳥は、実は燃えていた。鳥の形をした炭が燃えているようだった。サイズは鶴くらいの大きさだった。目の部分は空洞で、だが見えるのか、ガラス越しに獲物を探し出していた。
席で固まっている二人を見つけたのか、動きが止まった。口を開けると、炎がみえた。二人を焼き尽くすつもりだ。
ナスティと純は逃げようとしたが、恐怖でシートに張り付いたように動けなかった。
--------万事休す。
ナスティと純は目を閉じて、竜樹たちを思い浮かべた。
が、何時までたっても鳥が自分を焼こうとしないので、二人は目を開けた。
鳥は上を見ていた。
上に何かがいるらしい。
鳥は羽ばたくと、上にいるものを狙った。
その瞬間だった。
銀色に輝く槍が鳥を地面に突き刺した。鳥は槍を口にくわえる形となり、勢いそのままに車の屋根を掠めて地面を二転三転する。
鳥はその瞬間に絶命したようでそのまま動かなくなり、灰となり消滅した。
ナスティと純はあっけに取られていた。かつて妖邪と向かった時は元が人間だったので、刀で斬られるという恐怖はあった。が、今回の相手は竜樹の言う「人が生み出した恐怖そのもの」である。
上に何がいるのか分からなかったので、ナスティと純は中にいるしかなかった。自分達に敵意があるか無いか以前に、これから何が起こるのか判断がつかなかった。
上にいたモノが移動し、パジェロの前に降り立つ。
前に降り立ったのは「人」で、前髪を伸ばして分けたボブカット風の短髪をしていた。身長はやや高めな気がしたが、車の中だから分からない。その人物の服は秀が店で着ている服を彷彿とさせたが、秀の服よりも仰々しいイメージだ。そして何故か青い。天空の鎧が中華系になったらこんな感じかとナスティは思った。だが、その鎧はところどころ血がこびりついている。返り血なのか本人の血なのか。
その人物は地面に突き刺した銀の槍を回収すると、純たちに向き直った。
純とナスティはその人物の顔を見て驚愕の声を上げた。
「当麻兄ちゃん?」
「当麻?」
その人物の顔立ちは当麻によく似ていた。
ナスティと純は無我夢中で車から降りて駆け寄った。が、ナスティが純を制した。
「貴方は?」
目の前の人物は当麻と似ていたが、雰囲気がまったく異なっていた。ガラス越しで分からなかったが、2時間前に別れた当麻よりも年がいっている。25になっているのだろうか。しかも当麻に比べて女性的な気もしたが、年数の違いであろう。
竜樹のこともあるし、もしかしたら未来の当麻が助けてくれたのだろうか?
そんな気持ちを込めて聞いたが、彼の返事は彼女の予想を見事に裏切っていた。
「月龍です。柳生博士と・・・そっちは知らないですね」
月龍と名乗った男性はナスティと純を見比べた。
『柳生博士』にナスティは反応した。
「あなた、竜樹の知り合い?」
これに月龍が反応する。
「知っているんですか?あいつ、この世界に飛ばされたんですか?」
当麻兄ちゃんと違うことを理解した純は、一歩後ずさった。本物の当麻兄ちゃんならこんな丁寧な口の聞き方をしない。当麻本人が聞いたら怒りそうなことを純は考えた。
「そうよ。今新宿にいっているわ」
「そうですか。・・・あなた達はどうしてここに?」
竜樹が転移装置の簡易版を使ったので、迎えの足が欲しいと言ったことを話した。
「ああ、確かにアレは1回限りですが。あいつ、電車で戻ればいいのに」
あのあたり、ものぐさだな。
と、月龍は言った。よく考えれば彼の財布には合衆国のお金しかないから払えない。それ以前にホテルのセーフティボックスに入れたままだったのである。両替の為に銀行に行くにしても、身分証明が必要だろう。まさか未来で支給された証明書を使うわけにもいくまい。もっとも一緒に行ったのが現代人、しかも5人なのだから彼らに電車代を借りることも出来るが、そこまで頭が回っているかどうか疑問であった。
ナスティは眼前の人間が少なくとも敵ではないことに安堵した。
「このまま戻って下さい。さっきのは私を狙って出てきましたが、あなた達がいたのでそっちに気がいったようです」
月龍が手に持った銀の槍を頭上に掲げると銀の槍は光り、消えた。
その時に暗闇がまるで夜明けを迎えたかのように月龍を中心に引いていき、代わって出現した満天の星空の下に目的地を示した標識やライトが見える。
どうやら彼らの戦いに巻き込まれて空間の狭間に飛ばされていたようである。月龍は標識を見て「私を狙うガルーダを連れて新宿に行くつもりだったんですが、あのガルーダがふいに消えたもので」と言った。ガルーダは空間の狭間に入った生命体に反応して、強いものよりも弱いものを選んだようである。
元の世界に戻ったので家に戻ってこもってくださいという月龍に、ちょっと待ってと純は彼に昼の狼人間のことを話した。
「君のお兄さんがウィルスに?」
正確には遼は純の実の兄ではなく義兄弟的な関係であるが。今は遼の体を治してもらうのが先決だった。
「ワクチンをあの神父の格好をした人が持っているの。でも、秀を殺すことが条件だなんて・・・」
「そういうことですか。対半獣のワクチンなら、私も持っていますよ」
対半獣?
純が聞いた。
「半分人間で半分獣である存在が持つウィルスに対抗するワクチンです。彼らの持つウィルスは色々ありまして、死のウィルスもあれば仲間を増やすためのものもあります」
幸いこのタイプのワクチンは私が持っています。
と締めくくる月龍の言葉に、ナスティは不安を覚えた。竜樹も虎人である。彼はどんなウィルスを持っているのだろうか。
「分かりました。遼とやらにあったら、このワクチンを投与します。・・・一緒に行きますか」
二人の心細そうな顔を見て月龍は腹を決めたらしい。ナスティと純は嬉しそうな顔をしてうなずいた。
彼は新宿までの転移陣を作ると言って呪文詠唱を始めた。竜樹が言っていた護符の製作者とは彼のことだったようである。
神父もどきが自分たちを狙ったのでなく単なる偶然の出来事だったとはいえ、このまま戻るより彼と一緒にいた方がマシである。あのような存在がまだどこかにいるかもしれないのだ。そう思うと当麻と似た顔をした人物と一緒にいた方が安全なような気がした。
彼を見てナスティと純は朱天のことを思い出していた。朱天は精神的にも強くなっていた。守ってもらった時にそれを実感していた。
-------歴史は繰り返すって言うけど、面白い話ね。
ナスティは彼が転移陣を作るのを見て、そう思った。
|