AEON−鎧拾遺伝サムライトルーパー−

天空の彼方―月龍編― 始まりの終わり2

神父もどきが消え去った場所まであと少しのところで、月龍は時空間を飛び続けてふと気になった。

先ほど1989年という時間軸で「輝煌帝」が発動したらしく、剛烈剣が消えた。どうやらこの世界の「輝煌帝」に呼ばれたらしい。弥生時代に出てきたのと雰囲気が似た黒髪の少年が、少女の死に衝撃を食らったらしい。
事が済むと剛烈剣は戻ってきた。黒髪の少年は気がついていないようである。が、かつて見た人物の、若い姿が見えた。彼は何処から剛烈剣が来たのか不可解だったらしいが、それでも黒髪の少年の心情を思って何も言わなかった。緑色の鎧を纏った人物を気遣っていた。
月龍はこの時、水色の鎧を纏った少年が眉をしかめていたのを見た。表情から鎧の持つ力を恐れても居るようだった。
月龍は知らないが、彼は後に鎧の力を忌避し、内部分裂を引き起こした人間である。


-----「輝煌帝」という存在は誰が定義つけたのか。

アフリカについては、以前アメリカだったか何処かの大学で「ミトコンドリア・イブ」の論文が発表された。全ての人類のルーツはアフリカにいた一人の女性に行き当たるという。
「まさかなあ」
一人の女性か・・・。
始まりっていうのは結局一つのものだったりするんだよね。
月龍は「腕輪となった剛烈剣」をさすりながら、輝煌帝の創造を思い浮かべた。
昔から神話では一つの者から始まっている。神話を思い出し、何をするべきかを考えた。
月龍自身、神話について少女の頃は妖精とか精霊などの存在を信じ、寝ていた養兄に夜中に行われるという「妖精の祭り」に連れて行くよう無理強いした記憶もある。眠い目をこすっていた養兄は取り合わず、月龍を自分のベッドに入れてそのまま自分は熟睡した。
そんな可愛い時代もあったが、鎧伝説だけは事実である。輝煌帝の伝説がいつから始まったのか、それは確かではない。ただ、言葉の無い時代から始まったとしか伝わっていない。
例えば「ノアの箱舟」も聖書などに記されているが、地質学の観点からも洪水が起こったと思しき形跡が世界各地にある。そして、洪水伝説もまた世界各地にある。
これは地球の温暖化が引き起こした河川の大氾濫だという説もある。
鎧伝説の源となった「輝けるもの」も、名称こそ違えど世界各地にある。
エジプト神話のラー然り、ギリシア神話のゼウスの雷光然り。日本にも天照大神が祀られているのを、志信の家で知った。皇族の祖神を祀る伊勢神宮に、志信自身も以前に当主として参加することがあったのだ。
アフリカに居た女性が全ての祖ならば、彼女は「光」を子供達に何らかの形で伝えたかもしれない。
そして「光」の伝説は世界に広まっていった。

-----始まりとなった存在を消せばいい。

神父もどきは何故かその時代に行っていないようである。無理も無い。彼にとって輝煌帝は力の根本である。それを消すことなどできはしないのだ。
迦雄須も纏ったという輝煌帝が全ての根源だというならば、輝煌帝さえ失くせばいい。かつての経験から推察するに水晶に封じられているはずなので、その時代のアフリカに行けばいい。
ただ、そうなると自分もどうなるか分からない。
パラレル世界とはいえ時代を遡った先で能力がなくなったら。それでも新しい世界は輝煌帝を必要としない世界になると思うと、それはそれでいいかもしれない。

しかし自分が産んだ息子たちもいなくなる可能性もある。

-----のるかそるか。

月龍は一か八かの賭けをしてみた。
本来の時間に戻るところを、逆行してみる。川の流れに逆らって泳いでいるような気がした。流れの中で輝煌帝が「生まれる源」を探し続ける。
どれほどの長い時間がかかったことだろうか。時空間は時間と時間、空間と空間の間なので、そういう概念は無い。それでも時間が流れているような気がする。
「光」と「闇」の力を感じ取った月龍は水晶の谷と思しき場所に降り立つ。地形はかつてと変わっている。だが水晶のベースは依然としてそこにあった。これから数千年数万年もかけて作られるのだろう。それにともない、地殻変動などの影響で地形もまた変わる。
洞窟の中の水晶はまだ幼く、生まれたての赤子のようなイメージだった。月龍が見た水晶には「力」が満ちていた。おそらく長い時をかけて人間界に渦巻く人々の歴史を飲み込んだ結果なのだろう。
月龍は水晶のベースをじっと見る。そこに存在する「光」と「闇」を見た。彼らは月龍を見返しているようだったが、気のせいだと思った。
月龍は眼前の水晶を無に帰すべく、天空の鎧をまとった。ゆっくりと翔破弓を構える。一瞬剛烈剣にしようかと思ったが、剛烈剣は水晶から生まれたものではない。剣舞卿も詳しくは知らないが、どうも神話時代の日本で生まれたという。最初に飛ばされた時代の、固まっていた少年が作ったのかどうか月龍は確認していないので不明なままだった。
剛烈剣で壊すには無理がありそうな気がしたので、ひとまずは翔破弓で様子を見ようということなのだ。
この時、月龍はふいに頭の中を引っ張られる気がした。
「っ!何だ?」
目の前の彼らの仕業であった。
彼らは驚いたことに月龍の記憶の中の「輝煌帝」を引っ張り出して、水晶に投影してしまった。
「あ・・・」
滑らかで幼い水晶の表面から白と黒の対になる輝煌帝が出てきた。
「しまった」
ここから神話が始まったことを月龍はあ然として悟った。悟らざるを得なかった。
イブになるつもりはないが、結果として神話の神々になぞえられてしまったことに愕然とした。

ここから全ての出来事につながってしまった。
後、神話時代の少年はこの輝煌帝を身にまとい、天に昇る。
平安時代には迦雄須が、形は異なるが輝煌帝をまとったという逸話も残っている。
そして現代には先ほどの少年、遼がまとった。
歴史が分かたれた世界の月龍自身も、2つの継承者となった。

彼らは輝煌帝という形を手に入れ、さらに触手を伸ばしてくる。今度は天空や烈火、金剛の記憶も盗もうとしているようだ。
「ヤバい」
月龍は急ぎその場を離れて時空間に入る。が、焦っていたために谷の入り口にいる者に気がつかなかった。
谷の入り口では猿らしい者がいた。おそらく獲物を追いかけていたのが、この場所の出来事を知り、じっと見ていたのだろう。
彼らは降って湧いた月龍がこれまた消えたのを見て、互いに目を合わせる。そしてその出来事を「家族」に伝えようと駆けた。

------誰もいなくなった水晶の谷は、蒼い空の下、静かに輝煌帝の面影を抱いていた。

二つの輝煌帝は静かに時間を過ごした。まだまっさらな状態である輝煌帝は水晶の谷の奥深くに潜み、これからの歴史を夢で見続けた。
その夢は徐々に輝煌帝たちを更なる闇に引き込み、道標の無いまま現代に至る。
「彼」の「闇を祓う力」を欲する願いに「白い片割れ」が呼び起こされた。
呼応するかのように黒い輝煌帝も生贄を求め、1人の少年を呼んだ。
そして資格者同士の争いは1人の犠牲を生み出しかけた。

そんな「破壊と消滅」の世界とは対照的に月龍は輝煌帝の力に飲まれず、未だなおその身に宿し続けている。
それはあたかも「神」の如しであった。だが、その力がいつまでも身のうちに留まっていられるほど、自分の身が強くないことも月龍は知っていた。

始まりの終わり 天空の彼方から