少女の独り言


 あれからもう、二年が過ぎた。
 あの事件を境にして、私の日常は明らかに変わってしまった。
 私の親友、そして初恋の人は、私の前から消え去ってしまった。まるで、初めから住む世界が違っていたかのように。
 ううん、それは本当のことだった。
 私にはついていくことはできなかった。どんなにあの人を愛していたとしても、彼と共に歩んでいくことはできなかった。それが彼の重荷にしかならないと、あの事件が教えてくれた。
 私は今、他のみんなと同じように大学に通っている。けれど、あの人はこんな普通の日常が何よりも眩しい、得難いものだって知っていた。
 だから私はこの『普通』を精一杯生きようと思う。それが、あの人の知られたくなかっただろうもう一つの顔を知ってしまった私にできる、たった一つのことだと思うから。




「美緒? 何をまたぼーっとしてるのよ」
「え……あ、早苗ちゃん」
「まったく、美緒ってばただでさえぼーっとしてるんだから、気をつけなきゃだめじゃない。ま、そんなところが人気なのかも知れないけど」
 待ち合わせ場所でぼんやりと考え事をしてた私に、やってくるなり呆れたような声で早苗ちゃんは言った。
 でも私って、そんなにぼんやりとしたところがあるんだろうか?
 それに人気って、何の?
「ああ、美緒は分からなくてもいいのよ。狙ってるわけじゃないのにそういう反応っていうのが、そういうところが秘訣なんでしょうねえ」
 そう言っていつもの肩をすくめる仕草をしてみせる。それにしても、早苗ちゃんの言っている言葉の意味は相変わらず良く分からない。
「ま、いいわ。んじゃいきましょ」
「ちょ、ちょっと、早苗ちゃん!」
 一人納得したような早苗ちゃんは、私の手を取るとどんどん先に歩いていってしまう。行き先は……分かってる。今日は一緒にバーゲンに出かけようって約束していたんだ。
「そんなに引っ張らなくても……」
「甘いわよ! バーゲンは戦争なんだから。ただでさえ出遅れてる以上、これ以上の遅れは致命的よ!」
 そう言いながら早苗ちゃんの足取りはどんどん速くなっていく。街にはかなりの人が出ていて、まっすぐに歩くのもなかなか難しい。そんなだから私はどうしても遅れがちになるんだけれど、そのたびに腕を強く引っ張られてつんのめりそうになってしまう。
 そしてまた崩れたバランスを立て直して顔を上げたとき、私の視界の隅にその姿が飛び込んできた。
 思わず立ち止まって、道の向こう側の彼女を視線で追ってしまう。気がついていないんだろうか、人混みを器用に交わしながら歩いている。
 金色のポニーテールが、彼女が歩くたびにゆらゆらと揺れている。そしてそのエメラルドグリーンの瞳は眩しいほどに輝いていた。私が知っている彼女の瞳は、色こそ同じだったけれど鈍く澱んで輝きを失っていたというのに……。
 ピンク色のシャツに赤いチェック柄のプリーツスカートという服装も、私が知っている彼女とはかけ離れている。あのときは真紅のライダースーツに身を包んでいて、それが彼女という人間をよく表していたと思う。
 けれどそれとは正反対のはずのいまの姿は、それ以上に彼女によく似合っていた。
 不意に彼女は大きく目を見開いて手を挙げた。一瞬、自分に気がついたのかと思ったけれど、その視線の先を辿ってみて、私はまた凍り付いた。




 ――あの人は……?




 そこにはあのときのままの、あの人がいた。
 二年前、私の目の前から消えてしまったあの人の姿があった。彼女は彼の元に駆け寄っていくと、飛びつくようにしてその腕を取る。彼は照れくさそうに頭をかきながらも、まんざらではないんだろう、彼女の手を振り解くような真似はしない。
 そしてその表情は。
 二年前、ついに私には見せてくれなかった優しい笑み。それを見た瞬間、幸せなんだっていうのが伝わってきた。
「何かあった? って、どうしたのよ! なに泣いてるの!?」
「え……?」
 気がつかなかった。
 早苗ちゃんに言われるまで、自分が涙を流してるなんて全然気がつかなかった。
「あれ、どうしちゃったんだろう……。とまんないや」
 拭っても拭っても、どんどん涙が溢れ出してくる。悲しいわけじゃないのに。
 振り返ると、もうあの二人の姿はどこにも見あたらなかった。でもあれは見間違いなんかじゃない、絶対に。
 まだ騒いでいる早苗ちゃんの声を後ろに聞きながら、私は二人に向かって心の中でそっと呟いた。



 いま、幸せなんですね。玲二さん、キャル。
 なら……。


 これからもずっと、幸せでいなきゃ、駄目ですよ?





ファントム・ツヴァイ発売記念、ツヴァイ&ドライラブラブ第2弾(笑)
その実は同人誌用に書いた奴の蔵出しだったり(爆)


玲二とキャルと言いつつ、メインは美緒ですが。
やっぱりいちばん割り食ってますよねえ、彼女ってば。
やっぱり虚淵作品では、ヒロインは戦わないといけないんでしょーか(いや、美緒は美緒なりに戦ったのだとは思いますが)。


しかし当ページではドライシナリオに準拠、二人が日本にいるという設定のつもりでしたが……小説版、全員生きてるんですねえ。しかもエレンルートで。


やば、本気でシティーハンターはじめちゃいたくなる(苦笑)


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