カミーユは目の前に現れた光景に知らずに息をのんだ。
重々しい扉が開かれた先の、絢爛豪華―それは同時に時代錯誤と見え―な謁見の間は、まさに宮殿を思わせた。
失われた王国の幼き女王に傅く兵士、そして美貌の宰相と…。まるでお伽話の一場面のような光景だった。
「サングラスの方、ミネバ様の前へ!」
ハマーンの呼び掛けが、カミーユの注意を引き戻す。
名指しされ歩み寄るクワトロの背が、何故だかカミーユには知らない人ように思えた。
ミネバ・ザビは座りが悪そうに身じろぎ、窮屈そうな襟元を緩めた。小さな身体には大き過ぎる玉座と同じように、身の丈にあっていない役割を懸命に演じているようだ。
「遊んでくれたのは、覚えているよ」
嬉しそうに話す少女にクワトロは身を屈め、訊ねている。それは傍から見ていても、不躾な態度に見えた。
「――シャア・アズナブル! 目通りを許されたのに!」
ハマーンが咎めるように声を荒げる。が、激昂したクワトロは彼女の胸ぐらを掴み、怒鳴った。
そんな暴挙にアクシズの兵がクワトロを取り押さえた。そして、それは自分達にも及んだのだ。
「そんなっ…」
取り押さえられたクワトロ、取り囲まれる自分達。
カミーユの目の前で、エゥーゴとアクシズの会見は―始まる前に―終りを告げることとなった。
子供達を寝かしつけたファは、ブリッジに上がってきた。モニターにカミーユ達が出掛けた先のグワダンが映っていて、皆が注目していた。
「グワダンに行った使節団、まだ帰ってこないの?」
「歓迎会が長引いてるんじゃないの?」
ファの云葉に、暢気そうにシーサーが答えた。
「あのグワダンの中でかァ?」
「高貴な方々は食事に時間をかけるんだよ」
誰かが答え、いいなぁ…とまた誰かが相槌を打つ。ファはその会話に参加せず、再びモニターを見る。
何事もないように見えるが…。カミーユ達が無事に戻ってくる姿を見るまでは、安心できなかった。
「一応待機しとくか、ファ」
トーレスがドアを示す。彼女は頷き、パイロット・スーツに着替えに再びブリッジを後にした。
「まったく、大尉のおかげで、交渉もできないうちに全員で…」
あからさまなウォン以外は、皆大人しく押し黙っている。
所在なくクワトロと同じように壁に凭れているカミーユに、隣のクワトロから声が掛かる。
「ここを抜け出したい。手を貸してくれ」
意志を持った依頼に、カミーユが頷きはしなかった。
「もう一度言ってみろ!」
「っく!…臆病で我ままだって言ったんですよ!」
クワトロの拳は重く、容赦がなかった。下手な芝居…の筈が、
「僕らの前で偽名を使っていたことだって――」
クワトロは手加減がなさ過ぎて彼は本気で腹が立ってきた。
「裏切り者なんですっ…ッ!」
ウォンの声や止めに入るブライト、兵士。そんな喧噪が気付くと収まっていて、上手くいった…のだろう。しかし、
「痛かったぁ…!」
思わず彼は呟いた。しかも、、すでにクワトロの姿が消えていたことには…もう怒るより呆れていた。
「交渉が失敗したとなれば逃げるしかなかろう」
というウォンの一声で、ブライト太刀は脱出の足を確保しにデッキへ向い、カミーユとレコアはクワトロを探しに…二手に別れた。
気休めの拳銃一つで辺りを警戒するカミーユに対して、迷いもなく先を行くレコアに彼は訊ねた。
「レコアさんて、なんでこう危険なことばかりするんです?」
怖気を見せないのはいかにも彼女らしくはあるけれど、
「性格ね」
「そうなんですか?」
「そう」
切り捨てるように素っ気無い…。カミーユは会話を続けたくて、さっきのクワトロのことを彼女に訊こうと思った時、
「カミーユ、」
レコアが小声で彼を呼ぶ。彼女が目線で示した先には一方向に向っているジオン兵の姿があった。
一刻の猶予もならない気配を感じ取り、二人は目を交しただけで頷くと、銃を撃ちながらドアの中に転がり込んだ。
「くっ!」
クワトロの驚く顔と、ハマーンの舌打ちを同時に感知しながらカミーユは銃を乱射した。彼等は絶妙のタイミングで歩の悪い対峙をしていたクワトロの窮地を救えたのだ。しかし、
「レコアさん…!?」
「大丈夫よ、擦り傷だから」
肩を撃たれたレコアは気丈に笑みを見せた。