星の瞳
すれ違う二人
ハーフムーンラブ異聞
幻視
小さな地球(ほし)
※ 宇宙が舞台… の一冊
すれ違う二人地球での様々な出合いと別れを胸にアーガマ戻ってきたカミーユを待っていたのは、懐かしい(?)エマのお小言と、賑やかな仲間と、相変わらずの戦闘だ。 そして、打倒Mk・―カミーユ―に執念を燃やすジェリドの操るガブスレイによって窮地に陥った彼を救ったのが、他ならぬZガンダム―彼の新たな愛機だった。 Zガンダムが届いてからのカミーユはMSデッキに入り浸りで、機体性能を最大限に活かす為の知識を自らに叩き込んでいた。それは操作性、性能だけでなく、整備や計器チェックにまで及び、その作業はパイロットとしての責任感の域をとうに越えていただろう。 そのため、メカニックマンからは、「根を詰め過ぎる」とか、「パイロットにそこまでされちゃ自分達の仕事がなくなる…」とぼやきも漏れてくるが、カミーユにしてみれば、いくらやってもやり足りない…のだ。 彼も、例え何百のシミュレーションを完璧にこなしたとて、一回の実戦に適わないことは知っている。それでも、そうせずにはいられないのが、カミーユ・ビダンという少年の性分なのだ。 メカニックのチーフであるアストナージが素人同前の彼の好きなようにさせているのは、そんなカミーユの性分を理解していたからと、 「アイツ、ハマッてやがるんだ」 という身も蓋もない判断からだった。周りのそんな反応も知らぬ気に、カミーユは今もZガンダムのコクピットの中にいた。 「ここ…っと…、それから――こうなるわけか」 彼はZガンダムの計器を一つ一つチェックしては、マニュアルを確認するという作業を繰り返した。その様子は傍から見る通り、没頭しているといって良かっただろう。もちろんZは魅力的なMSだし、技術バカの父の性質を受け継いでいるカミーユが夢中になるのは当然だった。が、彼を突き動かしているのはもちろん、それだけではなかった。 訳知り顔で説教を垂れたエマに反発し、その直後の戦闘で危うく命を落としかけたのだから、まったくシャレにならない。『死にたくないから出来ることをする』、そうやって彼は今日まで生き延びてきた。ならばフォウのことを思い煩うのはやめて、目の前の事に集中すればいい。事実、そうしていれば、彼は紛らわす事が出来た、出来ていると―本人だけが―思っていた。しかし―― 「あなたが呼んだのはハロでしょ」 ファの喧嘩越しの物云いに、カミーユは困惑した。 『ケガはなかった、カミーユ』 懐かしい笑顔と温もりで、彼の心の空白を一時的とはいえ埋めてくれた彼女は、―彼にしてみれば―突然に態度を一変させた。 「少しは現実を直視して!」 彼女を気遣っての発言に事ごとく突っかかられる理由が、カミーユにはわからない。そんな彼の様子にさらにファは眉を釣り上げる。 彼女が戦争や戦況をいくら懸命に語ってみせても、それは何処か身についていない、借り物のようにカミーユは感じた。それに、 『僕に何か用があったんだろう?』 ファはすぐに否定したけれど、云葉に反して彼女の瞳はカミーユに何かを云いたげに訴えている。だから、彼にしては珍しいほどの根気でファと対話を続けようとした。そして、 「――あのさ……っ!?」 振り向かせた彼女のその瞳は寂しい青の色で――カミーユは無意識にフォウをダブらせてしまったのだ。とたん、 「もう、用ないんでしょ? 行ってよね!」 容赦のない云葉が彼を拒絶し、突き放した。カミーユは仕方なくその場を去るしかなかった。 「――あのさ……っ!?」 自分を見つめた彼の瞳が、一瞬、彷徨ったことを彼女は見逃さなかった。 「もう、用ないんでしょ? 行ってよね!」 (こんなこと、云いたくないのに…!) 口から出て来るささくれた云葉を、気持ちをファはどうしても抑えることが出来なかった。 (おかしいのよあなたは…。今もそうでしょう。カミーユはアーガマに帰ったけど、心はここにないわ) その青い瞳に映っているのは確かに彼女なのに、彼が本当に見ているのは自分ではない、遠い誰かだった。 クワトロの帰還からかなり遅れて、地球から戻ってきたカミーユとファはやっと出会うことができた。しかもそれは、窮地に陥った彼を他ならぬ彼女が救う―アポリーのオマケではあったが―という先のテンプテーション救出時に負けないほどの劇的な再会だった。 『カミーユ、凄いのね』 ファは彼の無事を喜ぶと共に、パイロットとしての彼の成長ぶりを思い知る。少しだけ逞しくなった彼の背に、その存在を確かめるようにもたれ掛かった。そして、 『しばらく、このままでいさせておいてくれ…』 彼女を抱き締めてきたカミーユの素直で甘えた仕種は、別れ間際の気まずさが嘘のようだった。彼を待とうと決めた選択は間違っていなかった、とファは嬉しく思った。 しかし、その昂揚が過ぎ去り、冷静になるにつれてファの心は何故か落ち着かなくなった。 最初は環境の違いかとも思った。ついこの間まで親が軍属なだけのハイスクールに通う学生だった自分が、あっという間に避難民になり、難民として拾われたアーガマで、今の彼女はパイロットとして所属している――笑ってしまうくらい異常なことなのだから…しかし、それは自分が選んだこと。 他の避難民と一緒に艦を降りずに、辛い訓練、厳しい規律…それまでとあまりにも違う環境に何度後悔したかわからない。その彼女を支えていたのが、【カミーユに会いたい】という想い――。それが無事に叶えられた今、気負っていた反動や、彼がパイロットになった彼女のことを快く思っていないことも重なって情緒が不安定になっているのだと…。 だが、彼女は気付いた。気付いてしまった…自分を不安にさせ、イラ立たせる本当の理由に――。 『星の瞳』 収録 /「すれ違う二人」より (一部抜粋 )
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