見知らぬ友
プロローグ
「行かないかって……僕がですか?」
戸惑いをあらわに訊ねた彼に、問い掛けた相手は軽く頷き、
「急に欠員ができて補充員を捜している。だから臨時の、しかも短期でいいんだそうだ。
――そうは言っても場所が場所だが」
でも、悪い話ではないだろう、と応えた赤毛の青年は彼の表情を探るように見返した。
「つまり、口をきいてくれる……。あなたが?」
少しからかいを含んだように語尾が上がる。そこには馴れあったような甘えがある。
「そう馬鹿にしたもんでもないさ。それぐらいの権限なら俺にもある」
向かい合っている青年は苦笑し、彼の皮肉を聞き流した。
「行ってみるかい?」
「……そうだな」
問いかけに彼は迷ったように視線を反らした。
「リハビリついでに……。君が再び暗黒に引き込まれるというのなら、もちろん薦めないが」
青年の云葉に薄く笑って彼は呟く。
「“彼”ならもう何処にもいませんよ」
「そうか――」
安堵の笑みで青年は頷き、思案するように黙り込んだ彼の返答を待った。
「行って――みたいです」
長い静寂の後――彼はポツリと云った。
「取り敢えず、人の行ける限界ですからね。……でも本来ならあなたの方が――」
「俺は無理だ」
青年自身の心情がではなく《立場が許さない》…とは容易に想像できただろう。彼が躊躇っている理由に思い当たったか、短く応えながらも気にするなというように青年は笑って見せる。
それでも、声音に諦めの響きが混じる。
「君こそ、説き伏せるのが大変じゃないのか。あの娘を」
「………いい顔はしないと思うけど――」
困った仕草で鼻をこすった彼だが、それでも意志を変える気はないらしい。
「そうか、じゃあ上手く取り計らっておこう。だが……」
了解の印に頷いた青年はしかつめらしく付け足した。
「―――――の名前は、伏せておいた方がいい」
「ああ、やっぱりマズイか。……そうですね、僕も面倒は遠慮したいですから、何か適当なのを考えておきます」
云いにくそうな青年に対し、彼は眼を細め、悪巧みをしているような様子で応えた。
「それと適当な経歴もだ。俺が紹介するのは技師だからね。身元を保証する側としてはもっともらしくしてくれないと」
「ええ、よくわかってます」
念を押された彼は笑みを浮かべ、一応は神妙な顔で頷いた。
◆見知らぬ友 目次◆ ◆ I ◆