見知らぬ友
エピローグ
「……なんだか、物足りないわ」
彼女は呟いた。
部屋の中は隅々まで掃除した。一日前から煮込んであるシチューと腕によりをかけた料理達。テーブルセットだって完璧のはず……。
一通り見回した後、彼女は大きく頷いた。
足取りの軽い彼女はデザートの果物を買い求めた街中で隣人に呼び止められた。
「こんにちわ。今日はお仕事は?」
「おやすみをいただいたんです」
普段は詮索好きな年配の婦人をもてあましている彼女も、今日は一向に応対が苦にならない。
「お身体でもお悪いの?」
「いいえ……」
適当にはぐらかそうと開きかけた口は、思いとは逆に別のことを話す。
「買い物です。テーブルに飾る花が欲しくて、食卓が寂しかったから」
「あらまぁ、それは……」
答えになっていない答え、相槌には呆れた響きが交じっているが彼女は気にしない。却って婦人は堂々とした態度に気圧されている。
誇らしげに告げた彼女は満足を覚え軽く会釈をした。
「じゃあ、失礼します」
そう告げて背を向けた。
それから彼女はこぢんまりした花屋に入った。
「これお願いします」
しばらく物色し、やっと気に入った品を定め、店内に声をかけた。
「リボンおかけしますか?」
「はい、……それと何か香りのいいのがあったらそれも一緒にお願いします」
彼女の声は自然と弾む、抑えきれない喜びが溢れている。
「ずいぶん迷ってらしたようですけど、誰かにプレゼントですか」
待たせている間の客へのお愛想で店員は訊ねる。
彼女はふと眼に止めたガラスに映る髪型が乱れていないか確認し、その問いに笑みを返した。
「ええ、大切な人が帰ってくるんです」
花束を受け取った彼女―ファ・ユイリィ―は白く馨る百合の匂いを嗅いだ。
Fin
(1995.06 脱稿分を改訂)
◆見知らぬ友 目次◆ ◆ VI ◆ ◆ 後書き ◆